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三題噺もどき―ごじゅういち。
お題:桜・ミカン・制服
私が、彼にあったのは桜の舞う暖かな春の日。
まだ、制服に慣れていない1年生が新しい生活へ。
期待と不安を胸に、新しい世界へと進もうとしている時。
私は、始まりの季節には似つかわしくない程に落ち込んでいた。
精神的に参ってしまっていた。
先月、両親を事故で亡くし、大好きだった祖母も倒れてしまった。
それが原因で、精神を病んでしまい、病院通いが始まった。
―そこで、私は彼に出会った。
“彼”とは、私の担当をしてくれていた病院の先生である。
年が近いほうがいいという病院側の配慮からだろう(実際、そんなに変わらなかった)若い先生があてがわれた。
―それが、彼だった。
とても幼い顔で、笑うと、太陽みたいに眩しくて、可愛らしかった。(本人は気にしているみたいだが)
私は、そんな彼の笑顔が大好きだった。
そして、彼は病院に行くたびに、なぜかオレンジの飴をくれるのだ。
彼曰く、
「好きなものを共有した方が心を開きやすいからね。」
だそうだ。ホントかどうかは知らないが。
それから、話していくうちに彼に惹かれていった。
まぁ、彼は既に結婚していて、子供もいるらしいので、一方的な片思いではあるのだが。
それから、月日が経って。
今日が、最後の日である。
精神的にも安定してきて、祖母も無事に体調を戻し、もう大丈夫だろうということだった。
もちろん、今の状態が絶対継続する、根治できているという確証はない。
何の拍子で戻るか分からない。
けれど、彼に会うのはこれが最後。
だから。
私は、彼にこの想いを告げることにした。
そうして、彼にちゃんと断ってもらって。
また、新しい世界へと踏み出すバネにしよう。
そのやり方を教えてくれた、彼に見せつけるようにして。