鉄砲撃って、
「て」
銃声にも慣れた。平日朝のルーティンとなっていれば、初日に比べていくらか緊張感は和らぐ。これから僕は、いつも通りの時間を過ごすだけだ。
まずは扉の向こうから、「今日のを選びなさい」と声がする。それから扉が開く音を、僕らは狭く真っ暗な箱の中で聞く。ドタドタと近づく足音に、みんなは少しピリッとする。足音が止まれば箱の蓋は開けられ、唐突に入ってくる光に目を細めた。
毎日見かけるその顔は無邪気だ。無邪気だからこそ、酷だ。
僕らを箱の中から出して、無邪気は整列させる。横一列に並べられた僕らは、もちろん身動きなんて取れない。無邪気は指示された「今日のを」選ぶために、ただそれだけのために動く。悪も正義もそこにはないのだ。
整列させられた僕らは、ただ待つのみ。並べられたのは5体。うち3体は無邪気のお気に入り、1体は新入り、1体は気まぐれに選ばれたもの。僕らお気に入りは毎朝のことだから慣れているが、新入りと気まぐれは緊張しているようだった。
それもそうだ。もし選ばれたら、その後帰って来られるかはわからない。ボロ雑巾のようになって帰ってきたものもいれば、それ以来見なくなったものもいる。お気に入りに属している僕らは幾度となく選ばれたが、幸い、なんとか無事に戻って来られた。
時々箱の中では、外がどんな様子だったかを共有する。「よくわからない液体をかけられた」とか、「投げつけられて痛かった」とか、「虹が出て綺麗だった」とか。その日、何が選ばれたかによっても、伝えられる外の様子は変化する。残酷な日も豊かな日もあるが、箱の中で暮らす僕らは、とにかく平穏を願って過ごしているのだ。
無邪気は整列させた僕らを見て、にこにこと楽しそうな笑顔を浮かべている。
「今日の幼稚園、一緒に行きたい人ー!」 無邪気は僕らに語りかけるが、誰も反応はない。だが無邪気は構わず、歌い始める。
「どーれーにーしーよーうーかーな」 新入りと気まぐれの緊張感が伝わって、僕も思わず呼吸の仕方を忘れてしまった。
「かーみーさーまーのーいーうーとーおーり」 そんなことはつゆ知らず、無邪気の歌は進んでいく。もう終わりが来る。今日持ち出されるぬいぐるみが、ここで決まる。
「てっぽううってーバンバンバン」