表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/47

変化

 誠は沙織のことが心配になったのか、夕方になり講義が終わると直ぐに家に帰った。


 家に入ると、沙織が出迎える。


「あらマコちゃん、早かったわね」


 誠は返事をすることなく、沙織の顔をジッと見て、唖然としている。


「どうしたの? マコちゃん」

「沙織さん、化粧してる?」


「うぅん。していないわよ」

「若返っている」

「あら、やだ。そんなこと言っても、何もでないわよ」


 沙織は照れるようにそう言って、頬に手をあてた。


「いや、本当なんだって。鏡で自分の顔を見てみろよ」

「えっ」


 沙織は慌てて、洗面所の方へと駆けて行った。

 誠も靴を脱ぐと洗面所に向かう。


 沙織が驚いた様子もなく、色々な角度から、自分の顔をマジマジと鏡で見ている。

 誠が辿り着くと、振り返った。


「そう?」

「そうって、気付かないの?」

「えぇ」


「何で若返ったと思うの?」

「俺が初めてこの家に来た時の沙織さんと、同じ顔をしているから」


 沙織は元々、若々しい顔をしていて、シワも垂れも、ほとんど目立たなかったので、徐々に若返っていた事に気付かなかったみたいだった。


「というと、35歳の時よね。10歳ぐらい若くなったってこと? たった1日で?」

「あぁ。マジかよ……」


 誠が俯くと、シーンと静まり返る部屋の中、携帯が鳴る。


 ズボンのポケットから携帯を取り出し、着信表示を見ると、驚きの表情を見せた。


 まるで見計らったかのように晴美からの電話だった。


「晴美からだ」

「早く出た方が良いんじゃない?」


「分かっている。スピーカーにするから、念のため物音立てずに聞いていてくれ」

「うん、分かった」

 

 誠は通話ボタンを押すと、耳にはあてずに、スピーカーにした。


「はい」

「もしもし、誠君。元気してた?」


 からかうような晴美の言い方に、誠の顔が険しくなる。


「元気してた? じゃねぇよ。沙織さんに若返り薬なんて、飲ませやがって!」


「怒っているということは、順調に効いているのかしら?」


「あぁ……治し方を教えろ」


「分かった――だったら、取引をしましょ。沙織さんを治す代わりに、あなたは一生、私に身を捧げる……これでどう?」

 

 それを聞いた沙織が身を乗り出す。

 慌てて誠が止めて、首を振る。


「少し考えさせてくれ」


「そんなことを言っていて良いの? サービスで若返り薬を大量に入れたから、進行も早いんじゃない? それに電話だって、これっきりかもしれないわよ?」


 晴美は頭の回転が速いのか、自分が有利になるように話を進める。

 誠はたまらず頭を抱えた。


「さぁ、どうするのよ?」


 誠が顔をあげた瞬間――。


「電話を切りなさいッ!」


 堪えられなかったのか、沙織が誠に向かって怒鳴った。


「やっぱり側に居たのね、邪魔な女。あなたそれがどういう意味だか、分かって言っているの?」


「えぇ、分かっているわよ。マコちゃん、携帯を貸して」

「でも……」

「貸しなさいッ!」


 躊躇う誠から、沙織はむしり取るかのように携帯を奪うと、通話を切った。


 それでも怒りが収まらないのか、沙織は険し顔を浮かべたまま黙っている。


「――これで良かったのかな?」


 誠はまだ迷っているようで、浮かない表情を浮かべている。


「良かったのよ」

 

 沙織はそう言って、誠に携帯を返した。

 誠は受け取ると、ポケットにしまった。

 

「医者でも見つけられないものを、あの子がどうにか出来ると思う?」


「だけどあいつは、若返り薬を持っているんだぞ? 他に何か持っているかもしれない」


「そうね。でも持っていないかもしれない。それは分からない。分からない以上、慎重に進むべきだわ」


「そうだけど……」


「いい、マコちゃん。もうあの子には電話しないで。あと電話をかけてきても、私が居ない時は電話に出ないで。今の電話で、口が達者なのが分かった。言葉巧みにあなたを誘惑しようとするわよ」


 沙織は真剣な表情で誠を見つめ、たしなめた。


「分かったよ」


 誠はいまの自分の対応に不甲斐なさを感じたのか、すんなり返事をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ