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狂気

 その日の夜。


 ほとんど生活必需品しかないと言ってもよいほど、シンプルな部屋で、晴美は一人で頭を抱えて、ベージュのカーペットの上に座っていた。


「確かに沙織さんは年齢の割には可愛い。でも私はそれに加え、若さがある。なのに、どうして?」


「誠君を思う気持ちだって上のはず。こんなにも好きなのに、どうして伝わらないの? 納得できない……」


 晴美は呟くと、スッと立ち上がった。

 台所の方へ行き、冷蔵庫を開ける。


 350mlのペットボトルのお茶を一本取り出すと、冷蔵庫を閉めた。


 ※※※


 次の日の昼過ぎ。


 誠はアルバイトに出かけ、沙織はダイニングの奥にある居間で、ソファーに座りながら、テレビを見ていた。


 ピンポーンと、チャイムの音が聞こえる。


「はーい」


 沙織は立ち上がると、テレビを消し、玄関に向かった。


 ドアを開けると、そこには350mlのペットボトルを2本持った晴美が立っていた。


 天気が曇り始めたせいか、表情がどこ暗いようにも見える。

 

「晴美ちゃん……息子ならアルバイトだよ」

「いえ、今日は誠君に用事があって、来たんじゃないんです」


「じゃあ私に?」

「はい」


「そう。じゃあ上がって」

「お邪魔します」


 二人は廊下を進み、ダイニングに入る。


「適当に座って。いま、お菓子を用意するから」

「はい、ありがとうございます」


 晴美は返事をすると、手前の椅子に座った。

 ペットボトルの蓋を開け、自分の所と、向かい側に置く。


「沙織さん。お茶を買ってきたので、置いておきますね」

「ありがとう。頂くわ」


 沙織はチョコレートとスナック菓子を用意すると、向かいの椅子に座った。

 

「どうぞ。こんなものしかなくて、ごめんね」

「いえ、ありがとうございます」

「今日も暑いわね。蒸してるわ……」


 沙織はそう言うと、よほど喉が渇いていたのか、晴美が用意してくれたお茶をゴクゴクと飲み始めた。


 3分1程度、残した所で、机に置く。


「でも天気が荒れるみたいね。雷もあるみたい」

「そうみたいですね」


「ところで用って何?」

「実は……誠君に振られちゃいました」

「あら、そう……どうして?」


 無神経に質問してくる沙織に腹が立ったのか、晴美の表情が急に険しくなる。


 パラパラと雨が降り始めた音が室内にまで聞こえ、ゴロゴロと雷の音も聞こえ始めた。


「どうして? 他に気になる人がいるみたいです」


 晴美は感情を抑えるかのように、低い声で答える。


「あら、そんなこと言っていなかったわよ」

「そりゃ、そうよ。――だって相手は、あなたなんだから」


 晴美の険しい顔は沙織を恨み、睨んでいるかのようにも見える。


「え……どういうこと?」

「応援するって言っていたのに……裏で誠を誘惑していたんでしょ?」


「ちょっと待って、落ち着いて」


 八つ当たりとも取れる発言に、沙織は慌てて、冷静に話をする方向へと持ち込もうとする。


「まぁいいわ。どうせあなたは、この世から居なくなるんだから」


 稲光が一瞬、晴美の顔を照らしたかと思えば、爆発音が轟く。


 狂気さえ感じる晴美の表情と発言に、沙織は体を硬直させ、驚きを隠せない様子だった。


「それって……どういう事よ?」


 晴美は灰色のスカートのポケットから、薄ピンクの液体が少し残った小さい透明の小瓶を取り出し、沙織に見せた。

 

「あなたが飲んだお茶に、若返り薬を混ぜたの。誰もが憧れる若返り薬……でも大量に飲めば、どうなると思う?」


 いつも温かみがある晴美の表情は、こんな表情も持っているのかと驚くほど、冷たい表情へと変わっていた。


 沙織はゾッとしたような顔で、勢いよく立ち上がる。


「吐き出しても無駄よ。これは一度、飲んでしまえば、効果は出てくる」

「うっ……」


 沙織が急に顔を歪め、胸を押さえ出す。


「ほらね」


 沙織は苦しみながらも、ズボンから携帯を取り出し、119番をした。


「あとね、医者に診てもらっても無駄、何も見つからないわ」


 晴美はスッと立ち上がると、スカートのポケットに薬を戻した。


 テーブルにあるペットボトルを2本、回収すると、台所に向かった。


 ドボドボとペットボトルの中身をシンクに流していく。


「証拠なんて見つからないだろうけど、念のためね」


 ペットボトルが空になる。


「はい、これでおしまい」


 ハートでも最後につきそうな言い方で晴美は言うと、水で更に流した。


 空になったペットボトルを回収し、ダイニングに戻った瞬間、沙織がドタッと倒れこむ。


 晴美は冷やかな目で沙織を見下ろすと、部屋を出て行った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 若返り薬の使い方ってこういうのか! という驚きがきています。 もっと肯定的な使い方だと、勝手に邪推していたので笑。 [気になる点] 会話文の間に空行があったり無かったりするのが気になりまし…
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