完成
それから、5年の月日が流れる。
和也は大学を卒業し、社会人となっていた。
営業職という事もあり、不規則な生活が続き、仲が良かったクラスメイトとは疎遠になり、舞との時間も、ほとんど無くなっていた。
今日は外回りの仕事はないようで、休み時間になると、同期の男と、会社の喫煙室でタバコを吹かしていた。
「なぁ、和也。仕事慣れてきた?」
「いや、全然」
和也はそう言って、短くなったタバコを灰皿に押しつけ、火を消す。
「だよな。お前の場合、お客相手だし、ストレス過ごそうだもんな」
「あぁ、マニュアル通りにはいかないからなぁ」
和也は作業着の胸ポケットから、タバコの箱とライターを取り出す。
タバコを口に咥えると、火を点ける。
「おい、また吸うのか? ヘビースモーカーだとは思っていたけど、最近、更に吸う本数増えていないか?」
「あぁ、ちょっとイライラが止まらなくて」
和也はタバコを口から離し、そう言うと、急に咳込む。
「おいおい、大丈夫か? 吸っている俺が言うのも何だが、程々にしとけよ」
「あぁ……ただ煙でむせただけだと思うから、大丈夫」
和也はまたタバコを口にして、スゥーッと煙を肺の中に入れた。
※※※
舞は今日も理恵の家の研究室を訪れていた。
白衣に保護メガネ、ビニール手袋を身につけ、研究員のような格好をしている。
理恵がまるで自分の仕事を引き継がせるかのように、教えていた甲斐があって、テキパキと薬の配合を行っていた。
理恵は隣に立ち、その様子を嬉しそうに眺めている。
「上手になってきたわね」
「ありがとうございます」
舞は嬉しそうに笑顔を浮かべ、薬をガラス棒で混ぜながら答える。
「ねぇ、良い話があるんだけど、聞いてくれる?」
「はい」
舞は返事をすると手を止め、ガラス棒と、薬が入ったビーカーをテーブルに置き、理恵の方を向く。
「凄く珍しい薬が手に入って、多分この薬を混ぜれば、私達が望む薬は完成する」
「え、本当ですか!?」
舞は理恵の手を取り、嬉しそうに目を輝かせる。
「えぇ、本当よ。でも珍しい薬だから、量が少なくて、老化薬か若返り薬の、どちらかにしか使えない」
「そうなんだ……それで、どちらにします?」
舞は顔を曇らせ、スッと手を離す。
「決めて良いわよ」
「え?」
「今まで手伝ってくれた御礼よ。あなたが決めて」
舞の顔がパッと明るくなる。
「本当ですか!? じゃあ老化薬で!」
舞が即答すると、理恵はニコッと微笑む。
「やっぱりね。じゃあ、そっちの方向で進めましょ」
「はい!」
※※※
それから更に、半年程の月日が流れ、冬の季節となる。
「理恵さん。完成だね」
「うん!」
暖房の効いた温かい理恵の家の研究室で、中学の制服姿の舞と白衣姿の理恵は、手を取り合い、喜びあっている。
理恵は長年の苦労が報われたのが嬉しかったようで、涙ぐんでいた。
「舞ちゃん。早速、使ってみる?」
「いいの?」
「うん、舞ちゃんの年齢なら、大して使わないだろうし」
「うん、ありがとう。でも……」
舞は俯き、暗い表情を浮かべる。
「でも? なにか心配事でもあるの?」
「うん……和也の奴、ここ最近、仕事で忙しいからか、連絡をくれないし、こちらから携帯に電話をしても出てくれないの。もう私に興味はないのかな……って思ったら、使う意味あるのかなって思っちゃって」
舞はそう言って、理恵から手を離した。
「そう……だから最近、元気が無かったのね」
「うん……」
「――大丈夫だと思うよ? 舞ちゃんから話を聞いている和也君なら、そう言うところ、曖昧にしない気がするし」
「そうかな?」
舞が不安な表情を残しつつ、返答をすると、スカートのポケットの中から携帯の着信音が鳴る。
「和也君からじゃない?」
「そうかも!」
舞はパッと明るい表情を見せ、元気よく返事をすると、ポケットに手を入れ、携帯を取り出した。
「はい、もしもし」
耳に携帯をあて、話し始める。
「はい、そうですが――え? そんな……」
舞の表情が見る見る暗くなる。
理恵は心配そうに眉を顰め、舞の様子を見つめていた。
「はい、分かりました」
舞は涙を浮かべ、鼻をすすりながら、電話を切った。




