必要以上、望まない
数日後の昼過ぎ。
男女共学の高校に通っている和也は、体育の授業中でバスケットの試合をしていた。
和也は華麗なドリブルで、敵チームのクラスメイトをかわし、レイアップシュートを決める。
シュートのフォームには個性があるが、その一連の動きから、運動神経の良さが感じ取れた。
敵チームのクラスメイトがボールを回収したとき、体育教師の笛が鳴る。
「はい、そこまで。次、入って」
和也はコートから出ると、一人の男のクラスメイトの方へと歩いていく。
「ナイスシュート」
「ありがとう」
和也は嬉しそうに笑顔を見せると、クラスメイトの横に座る。
「バスケット部でもないのに、よくあんな動き出来るな。羨ましい」
「上手い奴に比べれば、俺なんて大したことないよ」
「まぁ、そうだけどよ」
会話が途切れ、二人はクラスメイトの試合を見守る。
「なぁ、和也」
「なに」
クラスメイトは和也の方に顔を向けた。
「気分を害したら、ごめんよ。お前、小学生の女の子と、付き合ってるって本当?」
「いや、付き合ってないよ」
和也はクラスメイトの方へ顔を向けると、嫌な顔せず答える。
「でも、噂になってるぞ?」
「へぇ……」
「へぇって、それで終わり? 怒ったり、誤解を解こうとしないの?」
クラスメイトは和也の意外な反応に、目を丸くして驚いている。
「別に、そんなの良いよ」
「まじかよ……和也って、そういう所、何ていうか冷めてるよな。勿体ない」
「勿体ない?」
「あぁ。ほら」
クラスメイトはそう言って、コートを挟んで向かい側に居る、体育座りをした女の子を指差す。
女の子は、隣に座っているクラスメイトの女の子と話に夢中になっていて、指を差された事に気付いていなかった。
「あの子、和也に気があるって噂だぜ? ちゃんと付き合ってないって言えば、付き合えるかもしれないのに」
女の子はストレートロングの黒髪に大人しい性格と、垢抜けた様子はなく、クラスの中では目立たない存在だったが、整った顔をしているので、男の子には人気があった。
「ふーん……」
和也は女の子をジーッと見つめ、興味が無さそうに返事をする。
女の子は話が途切れたようで、和也の方に顔を向けた。
女の子は和也と目があったのが恥ずかしかったようで、すぐに目を背ける。
クラスメイトの言う通り、女の子は和也に気があるようだった。
だが、その様子を見ても、和也は顔色一つ変えていない。
「もしかして、興味無い?」
「うん」
「そっか……前から不思議に思っていたんだけど、和也って何か興味あるものあるの?」
和也は聞いてもらった事が嬉しかったようで、ニコッと微笑む。
「そりゃ、あるよ。ゲームに漫画。アニメだろ。それから――」
「普通にあるのな」
「うん」
和也が返事をすると、体育教師の笛が鳴る。
「あ、次。俺の番だわ」
クラスメイトは、おもむろに立ち上がった。
「面倒くさいけど、行ってくる」
「頑張れ」
クラスメイトは本当に面倒臭そうに、猫背でゆっくりとコートへと入っていった。
試合が始まり、クラスメイトは、あっちこっちと走り回っている。
運動が苦手のようで、ボールに触れることさえ出来ていなかった。
和也は何か考え事をしているのか、その様子をボォーッと眺めていた。
10分が経過し、体育教師の笛が鳴る。
「はい、交代」
クラスメイトは、疲れた様子でコートに出て、和也の方へと向かっていく。
「お疲れ」
「本当に疲れたわ」
「さっきの話を、ちょっと考えてみたんだけど、お前が俺のこと、冷めていると感じるのは、必要以上に望まないっていう態度からかもしれないな」
クラスメイトは和也の隣に座ると、顔を向ける。
「どういう事?」
「俺、一人っ子だろ? 昔は寂しくて、兄妹が欲しいって思ってたんだ。でも、そんなのどんなに望んでも無理だろ? 駄目なものは駄目、そうやって傷つかない様に、気持ちを押し込めていたら、いつの間にか必要以上に望まないのが、当たり前になっててさ」
「話は戻るけど、今は、お前以外に何を思われようが構わないし、さっきの女の子の話もそう。今はあの子と付き合いたいと思わない。そんな感じなんだよ」
「なるほどね……ところで、サラリと照れ臭いことを言わないでくれないか? 反応に困る」
「俺は出来るだけ、本当のことしか言いたくないの」
「ほら、そうやって」
二人は笑顔で、楽しそうに雑談を始める。
体育の授業は和やかの雰囲気のまま、終わった。




