約束
二人は食べ終わるとファーストフード店を出る。
「次は雑貨屋だっけ?」
「うん」
二人は肩を並べて歩き出し、歩いて数分の雑貨屋に向かう。
雑貨屋に入ると、舞は逸る気持ちを抑えられない様子で、和也より一歩前に出て歩き出す。
「何か欲しい物でもあったの?」
和也は後を追いかけながら、話しかけた。
「うぅん、何もないけど。いつもはゆっくり見られないし、何かないかなーって見てみたくて」
「そう。付き合うから、ゆっくり見ていて良いよ」
「ありがとう」
舞はそう言うと、後ろで手を組みながら、ゆっくりと商品棚を見ていく。
何か気になる商品があったのか、立ち止まると商品棚を覗き込んだ。
和也も立ち止まり、舞の様子を黙って見ている。
舞は覗きこんだ時に、髪の毛が垂れ下がったのが邪魔だったようで、髪を耳に掛けた。
「ねぇ、舞ちゃん」
「なに?」
「何でいつもはポニーテールなのに、今日は髪の毛を下しているの?」
「え?」
舞は顔を上げ、和也の方に顔を向けると、照れ臭そうに髪を撫でた。
「少しでも大人っぽく見えるかなって思って」
「ふーん……」
「何でそんな興味無さそうなの?」
舞は和也の素っ気ない返事に、不満な表情を浮かべる。
「そんな事ないよ」
「そう?」
「うん。あのさ、悪いんだけどトイレ行ってきて良いかな?」
「うん、大丈夫」
「ありがとう」
和也は返事をすると、キョロキョロと辺りを見渡し、そそくさとトイレがある方向へと歩いて行った。
舞は和也を見送ると、また商品棚を眺め始める。
数分して和也は戻って来ると、舞の横で立ち止まった。
「ごめん、お待たせ。何か良いのあった?」
舞は和也の方を向くと、首を横に振る。
「うぅん、これと言ってなかった」
「そう、残念だね」
「そんな事ないよ。こうしている時間が楽しかったもん」
「なるほどね。ところで薬の効果はいつ切れるの?」
「昨日の夕方4時ぐらい」
「いま何時?」
「えっと……」
舞は腕時計を確認する。
「1時30分」
「まだ時間があるね。店を出て、公園で遊んでいく?」
「うん!」
※※※
二人は店を出て、公園へと向かう。
公園に着くと、舞が真っ先に向かったのは、鉄棒だった。
「おいおい、今日は鉄棒やめておきな」
和也は慌てて、止めに入る。
「何で?」
「何でって……スカートだからだよ」
「えー……だっていつもなら、止めないじゃん」
「そりゃ、まぁ……そうだけど」
舞は和也が困った表情をしているのをみて、クスッと笑う。
「言いたいこと何となく分かったよ。ちょっと意地悪したかっただけ」
和也は溜息を吐き、恥ずかしそうに、頬を掻く。
「まったく……」
舞は和也の仕草を見て、満足そうに笑みを浮かべた。
「じゃあ……ブランコにしようかな。一緒にやる?」
「うん」
二人はブランコに向かって歩き出す。
隣同士で座ると、ブランコを漕ぎだした。
「こうやって大きくなるとさ。遊具ってこんなに小さく感じるんだ……って思った」
「そうだね。俺もそう思った時あるよ」
「なんだか不思議。明日になれば、また大きく感じるのかな?」
「そうかもね」
「そっか……」
会話が途切れ、二人は黙ってブランコを漕いでいる。
「あのさ」
和也は舞に話しかけると、漕ぐのを止めて、足で少しずつブレーキを掛け始める。
「なに?」
舞も返事をすると漕ぐのを止め、足で少しずつブレーキを掛け始めた。
二人はブランコが止まると、立ち上がり、向かい合うように立つ。
「舞ちゃんに渡したい物があるんだ」
和也はそう言って、ズボンのポケットに手を突っ込み、何かを取り出そうとしている。
「渡したい物?」
舞が不思議そうに首を傾げると、和也は白と緑のチェック柄の紙袋を差し出した。
「これって、さっきの雑貨屋の袋だよね」
「うん、開けてみて」
「うん」
舞は和也から袋を受け取ると、丁寧に紙テープを剥がし、中身を覗く。
「これって、シュシュ?」
舞はそう言って、袋からシュシュを取り出す。
シュシュの色はワインレッドで、本当の舞の年齢で身に着けるには、早いように感じる大人っぽい雰囲気のある色だった。
「うん、着けてみて」
「分かった」
舞は日頃から結んでいる事もあり、慣れた手つきでシュシュを身に着ける。
「少し大人向きだったかな? でも似合ってるよ」
「ありがとう」
舞は照れ臭いようで、和也から視線を逸らしながら、御礼を言っていた。
「あのさ、俺……舞ちゃんには、無理して背伸びしないで、ゆっくり大人になって欲しい」
舞は顔を上げ、和也と視線を合わす。
「俺、逃げないから。今みたいに舞ちゃんが、そのシュシュの似合う歳になる頃には、ちゃんと向き合って答えを出すから。だから焦らないで、待っていて居て欲しい」
「和也……」
舞は込み上げてくる感情を上手く言葉に出来ないようで、名前だけを口にして、言葉を詰まらせる。
「時間の方、大丈夫? そろそろ帰ろうか?」
「え? まだ大丈夫だよ」
「でも途中で元に戻ったら、大変だろ?」
「う、うん……」
舞は返事をするも物足りないようで、悲しげな表情を浮かべている。
和也は舞の頭にソッと手を乗せると、優しく撫で始めた。
「大丈夫。いつでも会えるだろ?」
「――そうだね」
「じゃあ、また遊ぼうね」
「うん」
和也は舞の返事を聞くと、笑顔で手を振り、帰って行った。
舞は和也を見送った後も、動くことなくポツンッと立っていた。
悲しい表情は変わらないまま、シュシュを触る。
「違うよ。舞は和也が逃げ出す人だなんて思ってない。舞を心配してくれる優しい和也が、他の女の子に取られるんじゃないかと、心配なだけなんだよ」




