見知らぬ女性
次の日の夕方
舞は約束通り、公園の古びたベンチで、理恵を待っていた。
落ち着かないようで、足をバタバタと動かしている。
数分して、舞は自分の方へ歩いてくる足音に気付き、そちらに顔を向けた。
理恵は自分だと気付かせるために、昨日と同じ白いブラウスを着ていた。
だが舞は、理恵のどこか違った様子に首を傾げる。
「お待たせ」
理恵は舞の前に立つと声を掛ける。
舞はスッと理恵と向かい合うように立った。
「理恵さん?」
「そうよ」
「どこがって上手く言えないけど、何か変わった気がする……お化粧が違うの?」
「いいえ。昨日も今日もお化粧はしてないわ」
「じゃあ……」
「そう、昨日の薬の影響。昨日飲んだ薬は、年を取る薬なの」
舞は可愛らしい大きな瞳を丸くさせ、驚いている。
理恵はそれを見て、クスッと笑った。
「良い反応ね」
「本当にそんな事が出来るんだね……でも、元に戻ることは出来るの?」
「元に戻るというか、試作品だから元に戻ってしまうの」
理恵はそう言って、腕時計を確認する。
「もう少し待っていてね」
「うん」
数分して、少しずつ理恵の肌に艶が出てくる。
顔がシュッと引き締まり、昨日と同じ顔に戻った。
「凄い! 本当に元に戻った」
「効果は一日だけなの」
「へぇ……ねぇ、理恵さん」
「なに?」
「その薬、欲しいな」
「うん、少し分けてあげる」
「やったー!」
舞は本当に嬉しそうに、屈託のない笑顔を見せ、万歳をする。
「あ、でもお金が必要だよね?」
舞は暗い表情を浮かべ、腕を下ろす。
理恵は首を横に振った。
「大丈夫よ。お金も何もいらない」
「え? こんな凄い薬なのに、どうして?」
「私は薬を完成させる喜びと、私の薬を使って、喜ぶ人をみていたいだけなの」
「ふーん……」
舞は意味が分かっていないのか、興味がないのか、素っ気なく返事をする。
理恵はクスッと笑うと、バッグの中から、老化薬をとペットボトルを取り出し、舞に差し出す。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
舞は御礼を言いながら、薬を受け取った。
「どう致しまして。渡した量は、ペットボトルと瓶の中身を両方、同時に飲んだ時に、10歳ぐらい年を取るように調節してあるからね。」
「分かった」
「良い一日になると良いわね。今度、結果を聞かせてね」
「うん!」
理恵は満足そうな笑顔を見せると、手を振り去って行った。
舞は胸の前で老化薬をギュっと握りしめ、期待に胸を膨らませているようだった。
※※※
清々しいほど晴れた数日後の休日。
一人の高校生ぐらいの女性が公園で、古びたベンチに腰掛け、腕時計をチラチラみて、ソワソワしている。
和也がキョロキョロしがら、女性の前を通り過ぎると、女性はスッと立ち上がった。
「和也」
女性は和也の後ろから、ニヤニヤと笑顔を浮かべて話しかける。
和也は立ち止まり、後ろを振り返った。
「はい?」
和也は誰だか分かっていない様子で、ジーッと女性を見つめる。
「ふふ、私が誰だか分かる?」
「――すみません。分かりません」
和也がハッキリそう言うと、女性は不満そうに眉をひそめた。
「えー……じゃあ舞って言えば分かるかな?」
「まい? ――小さい頃に同じクラスに居た気がしますが、顔が違うような」
「えー……、いつも一緒に遊んでいるのに、何で分からないかな」
女性は両手を腰に手を当て、頬を膨らませる。
「じゃあ、顔を良く見て。見覚えない?」
和也は困ったように表情を浮かべ、固まっている。
本当は薄々、自分の知る舞だと気付いているのかもしれない。
だが、そんな事がある訳がない。
そんな思いが拭えきれず、困惑しているのだろう。
「見覚えはあるよ。でもその子は、まだ八歳の女の子だ」
「その子の名前は?」
「鈴原 舞」
舞は、ようやく自分の名前が出て来ると、ニヤーと笑顔を浮かべる。
「正解」
「そんな事あるわけないだろ!?」
和也の強い口調に舞はビクッと体を震わせる。
体は18歳になっても、中身は子供。
怒られたと思って、怖かったのかもしれない。
「あ、ごめん……脅かすつもりはなかった」
和也は直ぐに反省し、柔らかい口調でそう言った。
「本当に舞ちゃんなの? どうしてそうなったか、説明してくれる?」
「うん……」
舞は昨日の出来事を、和也に説明し始める。
和也は舞のことを心配しているようで、黙って話を聞いていた。
話が終わると、ようやく安堵の笑みを浮かべる。
「良かった。じゃあ、今日だけなんだね?」
「うん」
「分かった」
和也がそう返事をすると、グゥ~……っと、お腹を鳴らした。
「安心したら、お腹が空いちゃった。約束通り、お昼を食べに行こうか?」
「うん!」
舞は子供っぽさが残る元気な返事をし、和也の手を両手でギュッと握る。
和也は舞に手を握られる事は初めてではなかったが、恥ずかしそうに視線を逸らす仕草を見せた。
舞はいつもと違う和也の反応に気付き、またもやニヤーと嬉しそうな笑顔を見せる。
「いま照れてたよね?」
「いや、気のせいだろ」
「うぅん。照れてたよ」
和也は舞と視線を合わせるが、嬉しそうに見つめる舞を見て、またもや恥ずかしそうに、視線を逸らした。
「あぁ、もう良いだろう。行くぞ」
「はーい」
二人は手を繋いだまま歩き出す。
その後ろ姿はまるで、初々しさが残る恋人同士のようだった。
※※※
数十分ほど繁華街を歩き、二人はファーストフード店に入る。
ハンバーガーのセットを注文すると、空いている席を見つけ、向かい合うように座った。
「それにしても、よく親に見つからなかったね」
和也はそう言うと、ハンバーガーを頬張る。
舞は和也に返事をするため、口の中のオレンジジュースとゴクッと飲んだ。
「家は、お互い私の世話をするのが嫌で、遅くまで帰って来ないし、朝も早く出ていくから、平気よ」
「そうだったんだ……」
和也は舞の返答を聞いて、自分の質問に舞が傷ついていないか心配のようで、複雑な表情を浮かべていた。
「まぁ、そのおかげで服も腕時計も借りられて、こうしてデートが出来てるんだから、良かったけどね」
和也は舞の前向きな言葉に少し安心したようで、笑顔を見せる。
「そんな事より、もっと楽しい話をしようよ」
舞はそう言って、無邪気の笑顔を浮かべ、アニメの話を始める。
和也はいつものように、相槌を打ちながら、楽しそうに聞いていた。




