告白
「ねぇ、講義は何時限目?」
「3時限目」
「じゃあ、三時には終わっているわね」
「そうだな」
「その後、暇?」
「暇といえば暇かな。次は5時限目からだし」
「じゃあ……」
晴美が少し俯きながら腕を後ろに組み、歩きだす。
顔を傾け、誠を見つめると「3号館の裏に一人で来てくれない?」
「3号館の裏? あんな所、木が茂っているだけで、何もないじゃないか」
晴美は、照れ臭そうに髪を撫でる。
「だから良いんじゃない。鈍感ね」
そう呟くと、早足で誠より少し前に進んだ。
立ち止まって振り向くと、「ごめん。やっぱり先に行く。約束だからね」
と、返事も聞かないまま、駆けていった。
「なんだ、あいつ」
誠は状況が飲み込めず、歩きながら呟いた。
「あー……暑い! 暑いよ~」
晴美は顔を真っ赤にさせ、自分の顔を手で扇ぎながら、騒いでいた。
※※※
講義が終わり、誠は約束通り、3号館の裏に向かった。
木陰の下で、晴美が小石を足でコロコロ転がしながら、落ち着かない様子で、一人で誠を待っている。
周りには誰もおらず、二人で話すのに丁度良いタイミングだった。
誠のザッ……ザッ……と、土の上を歩く音に、晴美は気付き、顔を向ける。
「おーい、ここ」
晴美は元気よく手を振った。
誠が晴美との距離を少し開け、前で立ち止まる。
「いや、分かっているよ」
「そんなに照れなくても良いのに」
「それで、何の用?」
晴美は右手を伸ばし、可愛らしいプックリとした指で、誠の左手を掴むと自分の方へと引き寄せた。
晴美の胸が誠に触れそうなぐらい、二人の距離がグンッと近くなる。
「え!?」
「日差しが当たってる。暑いよ?」
「あ、あぁ……ありがとう」
「うん」
二人は俯いたまま沈黙が続く。
周りでは晴美を急かすかのように、ミンミン蝉が忙しく鳴いていた。
晴美の額から汗が垂れていく。
「ごめん。私が誘ったんだから、私から話さなきゃダメよね。えっと……色々考えたんだけど、結局なにも浮かばなくて、シンプルに言うね」
誠はようやく今の状況に気付いたのか、ゴクッと固唾を飲んだ。
二人が顔をあげ、目と目が合う。
心地よい風が流れ、木々が揺れ、晴美の髪を靡かせた瞬間、晴美は照れ臭そうに笑った。
「あなたの事が好きです。付き合ってください」
晴美が真剣な眼差しで告白をし、誠を見つめている。
誠は気まずそうに、その眼差しから目を逸らした。
「気持ちは嬉しい。でも……ごめん」
「え? どうして?」
振られるとは思っていなかったのか、晴美の表情が曇り出す。
誠は質問に対して、何も答えなかった。
「誰か他に好きな子でもいるの? この学校の人?」
晴美は少しでも誠の心を自分に向けるためか、必死に質問する。
「分からない。その人の事が異性として好きなのか、それとも違うのか」
晴美は俯くと、唇に指を当て、考える仕草を見せる。
自分の中で、当てはまる人物を探しているのか、沈黙が続いた。
しばらくして、考える仕草を解き、手を下ろす。
「何となく分かった。沙織さんね?」
その質問に対しても、誠は沈黙を貫く。
煮え切らない誠の態度からか、それとも答えないことの意味を察したのか、晴美の顔がだんだん険しくなっていく。
「なんで? あの人、二回り近く違うオバサンだよ? 何になんで!?」
晴美は、まったく納得いかない様子で、質問を繰り返すが、誠は口を開かない。
「もういいッ!」
これ以上は無駄だと察した晴美は怒りを露わにし、両腕を振り下ろすと、走り去っていった。
誠がしばらくその場に立ち止まっていると、後ろから友達の石田が近づいてきた。
「お、誠。こんな所で何をしているんだ?」
「お前こそ、何してるんだ?」
「いや、さっきここから、すげぇー可愛い子が泣きながら、走り去っていったからさ。何だろ? って気になって」
「そうか……」
「まさかお前が原因か?」
「あぁ。告白された」
「まじかよ……暗い顔しているって事は振ったのか?」
「あぁ」
「おまえ、変わってんな」
「かもな」
「あ、悪い。そんなつもりじゃ……」
「分かってる。行こう」
「あ、あぁ」
※※※
講義が終わると、誠はどこにも寄らず、家に帰った。
「ただいま」
ダイニングに行くと、浮かない顔のまま、台所にいた沙織に声を掛ける。
「お帰りマコちゃん。もうすぐご飯よ」
沙織は、朝の晴美とのやり取りが嬉しかったのか、にこやかにそう言った。
「いらない」
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「うぅん、暑くて食べたくないだけ」
「そう? じゃあ、食べたくなったら言いなさい。温めてあげるから」
「うん、ありがとう」
誠はそう言うと、台所の奥にある洗面所に向かった。
沙織は心配そうに見送る。
「上手くいかなかったのかしら?」
と、呟いた。




