二人のおかげ
4人は雑談をしながら飲み物を飲み進め、20分程度経つと、喫茶店を出た。
駅前の服屋に到着すると、メンズコーナーへと向かう。
石田と楓は肩を並べて、店内を歩いていて、その後ろから誠と沙織が付いていっている。
ジャケットが置いてある場所へと来ると、楓は立ち止まった。
それに合わせて三人も立ち止まる。
「石田君、あれなんてどう?」
楓が指差したのは、濃い灰色の襟付きジャケットだった。
近くに寄って、ハンガ―から外す。
「ちょっと来て」
「はい」
石田は言われた通り、楓に近づく。
「上着を持っていてあげるから、羽織ってみてよ」
「はい」
石田は上着のシャツを脱いで楓に渡すと、ジャケットを受け取った。
ジャケットを羽織ると、照れ臭そうに鼻を擦る。
「どうですかね?」
「うん、予想通り似合っているよ」
確かに石田の服装は、インナーが白いTシャツ、下はデニムのズボンだったので、楓が選んだ灰色のジャケットは合っているように思える。
石田の身長は180㎝以上と高く、細身の筋肉質なので、まるでモデルのようだった。
楓が二コリと笑顔を浮かべると、石田も俯きながらも、笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます」
誠と沙織はそんな二人の微笑ましい光景を、遠くから温かい眼差しで見つめていた。
「楓さんって、面倒見が良いわね」
「うん。バーベキューの時も、そうだったしね」
「あの雰囲気だったら、私達が居なくても大丈夫そうね」
「そうだね。かえって邪魔になるから、別行動しようか?」
「そうね」
「石田。俺達、ちょっと他を見てくる」
「あぁ、分かった」
石田は不安な様子も見せず、普通に返事をする。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
誠と沙織は二人と離れる方へと歩き出す。
「さて、何か見たいものある?」
「特にはないかな? 誠さんは?」
「俺も」
「じゃあ、適当にブラブラしようか?」
「そうだな」
二人は、ゆっくりと店内を歩き、時間を潰す。
ふと沙織が、メンズの帽子コーナーに目を向けると、歩みを止める。
「どうしたの?」
「いえね。そういえば、誠さんが帽子を被っている所、あまり見たことないなって」
「あぁ、なんか面倒臭くて」
「慣れてないからじゃない? 時間あるし、少し被ってみない?」
「そうだね。じゃあ少し見ていくか」
「うん」
※※※
一方、石田と楓は買い物を済ませ、誠達を探すため、店内を歩いていた。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ。その洋服、今度着てきてね」
「え……」
石田は突然の誘いに驚き、目を丸くしている。
「今度は、ちょっと遠出でもしましょうか?」
「はい」
石田は次のデートの誘いに、気持ちを隠せないようで、嬉しそうに微笑む。
楓もその表情をみて、嬉しそうに微笑んでいた。
少し進んで、石田は誠達を見つけたようで、歩みを止める。
「あ、居た居た」
近づこうと体を動かすが、楓が腕を掴み、石田を止めた。
「石田君。ちょっと待って」
「どうしたんですか?」
「楽しそうに選んでいるから、可哀想よ」
「あぁ……」
楓の言うとおり、二人は自分たちの世界に入り込み、笑顔を浮かべながら、夢中で帽子を選んでいた。
「沙織さんなら、この帽子が似合いそう」
誠はそう言って、黒いハットを沙織に被せる。
「うん、似合う似合う」
「もう、今は誠さんの選んでいるんでしょ」
沙織は帽子を脱ぐと、誠に被せる。
「誠さんも、似合っているわよ」
「本当? じゃあ二人で同じ形の買う?」
「それもいいかもね」
石田が楓の方に体を向ける。
「本当ですね。――じゃあ、俺達は他に行きましょうか」
「そうね」
楓は掴んでいた石田の腕からスススと手を下し、石田の手をギュっと握った。
石田は握られた瞬間、ピンッと背筋を伸ばす。
「あの2人に感謝しなくちゃね」
「え?」
「だって、あの二人が居なければ、こんなに気持ちが高揚して、大胆になることは無かったもん」
「――そうですね」
石田も楓の気持ちに釣られ、緊張しながらも楓の手をギュっと握り返した。
二人の距離は、より一層、近づいたようだった。




