解決したい
土曜日の昼過ぎ。
誠は仕事が休みという事もあり、ベッドで横になりながら、漫画を読んでいた。
突然、携帯が鳴り、誠は慌てる様子もなく、漫画本を閉じ、ベッドに置く。
黒のリネンパンツのポケットから、携帯を取り出すと、表情変えずに電話に出た。
「はい、どうしたんだ?」
「誠。明日、何か予定あるか?」
電話の相手は、石田だった。
石田の声量は、割りと大きい方だが、何か不安に思っていることがあるのか、いつもより小さかった。
「別に予定は無いけど?」
「そうか、良かった。実は勢いで楓さんを買い物に誘ったのは良かったんだけど、今になって、どうしたら良いのか、分からなくなってきて……もし良かったら、一緒に付いてきてくれないか?」
誠は何か考え事をしているようで、天井を見つめて黙り込む。
少しして、ムクッと上半身を起こすと、口を開いた。
「なぁ、石田。楓さんは大人だ。そんなに心配すること無いと思うぞ」
「そう思うけどさ。俺、デートみたいなの初めて何だよ」
「あぁ……そういうことか。まぁ付いていっても良いけど、邪魔になるだけだぜ?」
「側に居てくれるだけで、助かるんだよ。――そうだ。もし誘えるようなら、お前も彼女を連れてきて、ダブルデートみたいにしようぜ?」
「ダブルデートねぇ……」
誠は乗り気じゃないようで、返事を渋っている。
「そうすれば、お互い気にせず、楽しめるだろ? なぁ?」
「どうしようかな……一応、聞いてみるけど」
「俺も聞いてみないと分からないから、また決まったら、場所と時間含めて、連絡する」
「分かった」
誠は電話を切ると、携帯をズボンのポケットにしまう。
ベッドに座った状態で腕を組んだ。
「さて、どうするか。俺一人でも良いけど、そうすると二人は気を遣うだろうし――ここで考えていても仕方ないか」
誠はそう呟くとスッと立ち上がった。
読んでいた漫画本はそのまま置きっぱなしに、部屋を出る。
廊下を進み、一階へと向かう。
ダイニングを通り、居間に行くと、ソファーに座ってテレビを観ていた沙織に近づいて行った。
沙織は足音に気付いたのか、後ろを振り返る。
「あら、誠さん。どうしたの?」
誠は人一人分ぐらいの間隔を空け、沙織の隣に座る。
沙織の方に顔を向けると、口を開く。
「いま石田から電話があって。明日、楓さんとデートするから、付いてきてくれって頼まれてさ」
「何で?」
「初めてだから、不安なんだって」
「あぁ、そういう事。付いてってあげたら?」
「うん、そのつもりだけど、ダブルデートしないかって言い出していてさ。沙織さん、どうする?」
「私は構わないわよ」
「え?」
誠は沙織が、すんなり答えるとは思っていなかったようで、キョトンとした顔で返事をする。
「ん?」
沙織は、なぜ誠が驚いているのか不思議のようで、首を傾げていた。
「でも沙織さんは高校生ぐらいの姿の時に、あの二人に会って、沙織と名乗っているじゃないか」
「あぁ……そういうこと。何とかなるんじゃない?」
沙織は石田達に出会い、名前を名乗ったことに、大した危機感を持っていない様子を見せる。
誠は逆で、まだ悩んでいるようで、腕を組みながら俯いていた。
「うーん、いけるかな? だったら俺一人の方が……」
沙織はなかなか決められない誠をみて、安心させるかのように肩にソッと手を乗せる。
「いずれは会わなきゃいけなくなるかもだし、ここで解決すればいいじゃない。それに、誠さんの大事な人達なら、この姿でちゃんと挨拶しておきたいな」
誠はサッと顔を上げ、沙織の方を見つめる。
「それって……」
「あ……べ、別に深い意味がある訳じゃないわよ」
沙織は自分の発言に、何か気付いたようで、慌てた様子を見せる。
誠はそんな沙織を見て、クスッと笑った。
「分かった。じゃあ行こうか」
「うん」
「ところで沙織さん」
「なに?」
「沙織さんの年齢、30代後半ぐらい? で止まっているように見えるんだけど気のせい?」
沙織はビクッと体を震わせて、誠から視線を逸らす。
「気のせいでしょ?」
「そうかな……」
「そうよ。さーて、洗濯終わったかな」
沙織は誤魔化すようにそう言って、ソファーから立ち上がると、そそくさと去って行った。
誠の言ったことは、気のせいではなかった。
何だかんだ言いつつも沙織は、やはり少しでも長い時間、若い姿でいたいようで、老化薬の使用量を抑えていたのだった。




