最期の足掻き?
「こうして二人で食事に来たら、学食の時のこと思い出しちゃった」
「俺が財布にお金を入れ忘れた時のこと?」
「そう」
「あの時は助かりました」
誠はペコリと頭を下げる。
「どう致しまして」
晴美もペコリと頭を下げた。
晴美が顔を上げた瞬間、二人は目と目が合い、照れ臭そうに微笑む。
「あれがキッカケで、連絡先の交換したのよね」
「そうだったな」
「懐かしいな……」
しばらくして二人の元に海鮮丼が並べられる。
二人は海鮮丼を満喫しながら、思い出話に花を咲かせていた。
会話が途切れた時、突然、誠の携帯の着信音が鳴る。
「あ、誰からだろ」
誠は上着の胸ポケットから携帯を取り出し、確認をした。
「休みなのに何だよ。会社からだ」
誠はそう言って、チラッと晴美の方を見る。
「出て良いよ」
「ありがとう」
誠は電話に出て、携帯を耳に当てた。
「はい――はい――えぇ――」
日曜の昼時とあって、家族連れやカップルで、周りはガヤガヤと賑やかだった。
誠はそんな中、一生懸命に話を聞きとろうと、携帯を耳に強く押し当て会話を続けている。
「あ、すみません。いま出先なので、よく聞こえなくて、一旦切ります」
さすがに上手く相手に通じなかったのか、そう言って直ぐに電話を切った。
「悪い、外で電話してくる」
「うん、待ってる」
誠は晴美の返事を聞くと、携帯を持ったままスッと立ち上がり、外へと向かった。
晴美は誠が見えなくなるまで見送ると、ジーッと誠の湯呑を見つめ始めた。
湯呑の中には半分以上、緑茶が残っている。
それを見て何かを思いついたのか、急に後ろを振り向き、椅子にかけてあったバッグを手に取った。
チャックを開けると、バッグの中に手を入れ、ガサゴソと何かを探し出す。
取り出したのは――老化薬だった。
姉からの電話以降、キャンパスノートの中身は更新されていない。
そんなものを取り出して、今から何をしようとしているのだろうか。
晴美はバッグを太ももに置いたまま、老化薬を右手に持って、眉間にしわを寄せながら、固まっている。
晴美にとって誠は特別な存在。
それはキャンパスノートにも色濃く表れていた。
おそらく、この先のシナリオは想定していないもの。
全てを失うかもしれない恐怖が、晴美の動きを止めているのだろう。
少しして晴美は、意を決したようにギュッと老化薬を握る。
「ごめんなさい」
晴美はそう呟き、薬の蓋を開けた。
誠の湯呑を手前に寄せ、薬を少量入れると、蓋をして、バッグの中にしまう。
バッグのチャックを閉め、椅子に掛けると、薬を入れた湯呑を手に取った。
ゆっくりと湯呑を回して混ぜ、様子を見る。
そこへ誠が戻ってきた。
「ごめん。遅くなった」
晴美は一瞬、驚いた表情を見せるが、すぐに表情を戻し、湯呑をテーブルに置いた。
「大丈夫だよ。何かトラブル?」
「うん、大した話じゃないけどね」
「行かなくて大丈夫?」
「電話で済んだから大丈夫だよ」
「そう、良かった」
「ところで何で俺の湯呑が、そっちにあるんだ?」
「あ、ごめん。えっと――お茶、少なかったら店員に頼もうと思って」
「あぁ、そういうこと……ありがとう」
誠は御礼を言って、スッと座る。
「うん」
晴美は何事も無かったかのように返事をして、ぎこちなく湯呑を誠の方へ戻した。
誠は戻された湯呑を手に取り、口にする。
「あ……」
晴美が声を漏らすと、誠は緑茶をゴクリと飲み込んだ。
「どうしたの?」
「うぅん。何でもない……」
晴美はそう答えると、自分の方にある湯呑を手に取る。
まるで心を落ち着かせるかのように、鼻でスゥーッと深呼吸をすると、緑茶を口にしてゴクリと飲み込んだ。
「そう?」
食事を済ませると、水族館近くのお店でショッピングをして、デートを満喫する二人。
帰る頃にはもう、辺りは暗くなっていた。




