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隠していたこと

「ごめんなさい」


 誠は申し訳なさそうに顔を歪めて、楓に謝った。


「やっぱりね……私みたいなオバサンなんてダメよね」


 楓は苦痛で顔を歪め俯くと、力が抜けたかのように、スッと誠の手を離した。


「そんなんじゃないですよ。もし俺が、付き合っている人が居なければ、断っていたか、どうかなんて分からないです」


 誠の目は泳ぐことなく真っ直ぐで、言っていることは、本心なのだろう。


「付き合っている子が居たのね」

「はい」

「そう……ありがとう」

 

 楓の表情は変わらず、か細い声で、返事をした。


「私こそ、ごめんなさい」

「いえ」

「これからも、変わらずに接してくれる」


「もちろんです」

「ありがとう。さて、これからどうしましょうか?」


 楓は居た堪れないようで、誠から視線を離し、遠くを見つめた。


「とりあえず、戻りましょうか」

「そうね」


 ※※※


 4人はそれぞれ世間話をして、時間をつぶした。

 そして一時間が経つ。

 

 バーベキューをした所で、誠と楓は話をしている。

 石田と沙織は、二人を見つけ、近づいた。

 石田は、どこか暗い面持ちが残る楓をみて、何か気付いたのか、眉間にしわを寄せる。


「あ、帰ってきたわね。それじゃ交代しましょ」


 楓はそう言うと、石田に近づく。


「はい。どこに行きましょうか?」

「静かな場所が良いな」

「分かりました。さっき自分達が居た場所なら、誰も居なかったので、そこに行きましょう」

「うん、分かった」

 

 二人は静かに歩いて行った。

 沙織が誠に近づき、誠のTシャツの袖をグイッと掴む。


「私達はどうする?」

「石田達の邪魔をしちゃ悪いから、反対の方を歩いてみるか」

「分かった」


 二人はジャリ……ジャリ……と、音を立てながら肩を並べて歩き出す。

 しばらくして沙織が立ち止まる。

 川の方に近づくと、しゃがみ込んだ。

 

 誠も川の方へと近づき、沙織の斜め後ろに立つ。

 沙織は透き通るような綺麗な水を手ですくい、遊び始めた。


「冷たい」


 誠は何を話せばいいのか分からない様子で、そんな沙織を黙って見つめていた。


「楓さんと一緒に居て、どうだった?」

「どうだったって?」


「楽しかった?」

「そりゃ、まぁ……」


 楽しかったと言ってしまえば、変に誤解されてしまうのではないか。

 かと言って、楽しくなかったといえば嘘になる。

 そんな複雑な気持ちを表すかのように、誠は言葉を濁していた。


「そう、良かったね」


 沙織は誠の曖昧な反応に、腹を立てているようで、素っ気なく答える。


「何だよ、その言い方。何か言いたいことあるなら、ハッキリ言えよ」


 何が原因で沙織が素っ気ない態度を繰り返すのか、誠は分からない様子で、イライラを募らせる。

 

 誠の荒い口調を聞いて、遊んでいた沙織の手が止まった。


「別に……ねぇ、誠さん。さっき楓さんに告白されたの?」


 沙織は誠に背を向けたまま、質問をした。

 楓と接点がないはずの沙織が、なぜそんな事を言い出すのか。

 誠は驚きを隠せず、固まっている。


「何でそう思うんだ?」

「――良いから、答えて」


 沙織はその先の答えを早く知りたいのか、誠の答えを急かした。


「されたよ」

「そう……なんて答えたの?」

「断ったに決まっているだろ」


「何で?」

「何でって、沙織さんが居るからだよ」


 沙織は誠の気持ちを試すかのように質問を繰り返し、最後の質問の答えを聞くと黙り込む。

 誠は自分の答えを聞いて、沙織が何を言い出すのか心配のようで、眉間にしわを寄せながら、沙織の後姿をジッと見つめていた。


 沙織は意を決したかのように唾をゴクリと飲み込むと、口を開く。


「私ね。誠さんに隠していたことが二つあるの」

「隠していたこと?」


※※※


 石田と楓は、さっき沙織と居たコンクリートの階段の一番下で、肩を並べて座っていた。


 石田は楓の様子が気になるようで、チラチラと見ている。

 楓は誠に振られた事がショックのようで、黙って俯いていた。


 石田がスッと立ち上がる。


「誠と何かあったんですか?」

「――別に」

「そうですか」


 石田はしゃがむと、丸くて平べったい小石を手に取る。


「じゃあ、何でそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」

「そんなの、あなたには関係ないじゃない」


 石田は険しい表情を浮かべ、川の方へ向い、拾った石を水平になるように、力強く投げつけた。

 石田の気持ちを反映するかのように、石は勢いよく飛んでいき、水面を跳ねて、美しい波紋を作っていく。


 石田は石を投げて冷静さを取り戻したようで、表情を戻して、楓の方へと近づいていく。


「少し俺の話をして良いですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」


「俺、昔から感受性が強いせいか、イライラしている人といると、イライラするし、悲しい人がいれば、一緒に泣く事もあって、だからカメレオン石田なんて言われる時期もあったんです」


 石田は昔を思い出したのか苦笑いをする。


「いまは大人になったから、そんなこと言う奴は居ないですが、性格はそのままで……正直、いまの雰囲気、泣きたいぐらいに悲しいんです」


「俺……我儘だけど、楓さんには笑っていて欲しいです。それだけで俺は嬉しいです」 


 楓は顔を上げると、本当に今にも泣き出しそうな石田をみて、苦笑いを浮かべる。


「ありがとう。落ち込み過ぎたわね」

「さっきね、誠君に告白したの。本当は告白するつもりなんて無かったけど、そんなに若くもないこともあって、焦っちゃった」


「なんかね、振られた事がショックだったのか、それともこんなにも焦っている自分が居る事にショックを受けたのか分からないけど、このまま何もないまま終わるのかな? なんて事まで考えてしまって……」


 石田の過去に触れ、楓は心を開いたかのように語り出す。


「あ、ごめんね。また暗い表情になっちゃったね」

「いえ、話してくれてありがとうございます」

「こちらこそ、聞いてくれてありがとうね」


 話したことにより気持ちが落ち着いたようで、楓はようやく笑顔を見せる。

 石田も負けじと笑顔を見せた。


「これでようやく本題に入れる」

「今のが、本題じゃなかったの?」


「はい」

「そう、じゃあ聞かせて」

「はい!」


 石田は緊張しながらも、嬉しそうに会話を始めた。

 しばらくして楓も自分の事を語り出す。

 お互いの事を理解したいかの様に、次々と会話を弾ませていた。


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