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新たな予感

「晴美ちゃん」


 晴美は今日も沙織の家を訪れ、洗濯物を干す手伝いをしていた。

 洗濯物を物干し竿に掛けると、沙織の方を向く。


「何?」

「この前のこと誠さんと話したよ」

 

 晴美は心臓を鷲掴みされたような表情を一瞬、浮かべるが直ぐに表情を戻す。


「へぇ……、どうだったの?」

「晴美ちゃんの言う通り、気遣いからだった」


 晴美は沙織から目を背けると、しゃがんで洗濯カゴからTシャツを取り出した。

 立ち上がり、ハンガーにTシャツを掛けながら「あら、良かったじゃない」

 と、素っ気なく答える。


「うん、ありがとう」


 沙織は御礼を言うと、しゃがんで洗濯カゴからズボンを取り出した。

 晴美はそれに気付き、しゃがんで近くにあった踏み台を沙織の方へスッと移動する。


「別に。私はただ本音を言っただけで、何もしてないけど」


 沙織はズボンを持ちながら、スッと立ち上がり、ニコッと笑顔を浮かべた。


「そんなことないよ。あなたのおかげで、聞いてみようって思えたの」


 晴美は無表情で洗濯カゴからバスタオルを取り出すと、スッと立ち上がった。

 

「そう、良かったわね」

「うん!」


 晴美の素っ気ない態度は変わらず、二人は黙々と作業を続ける。

 だが、肩を並べて立っている二人の距離は、最初の頃より近くなっていた。


「晴美ちゃん。これが終わったら、ご飯食べに行きましょうか?」

「はい」

「何が食べたい?」


 晴美は左指を唇にあて、考え始める。


「そうね……パフェが食べたい」


 沙織はクスッと笑う。


「じゃあ、ファミレスにしましょうかね」

「はい」


 ようやく少し明るい雰囲気が漂う。

 若返り薬の事があってから、晴美は沙織と一緒に食事に行くことは無かった。

 晴美は少しずつ、沙織に心を寄せているのかもしれない。


 ※※※


 数年の月日が経ち、誠は無事に大学を卒業し、社会人になっていた。

 A4の書類を片手に持ち、生産管理課にあるコピー機の前に立っている。


「すみません、コピー機を貸してください」


 誠が近くに居た30代前半ぐらいの女性に話しかけると、女性は誠に向かってニコッと微笑む。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 誠は御礼を言って、コピーを取ると、部屋を出て行った。

 誠に話しかけられた女性は何か気になることでもあったのか、誠をジーッ……と見送っていた。


「あの子、礼義正しくて顔もカッコイイから、もてそうね」


 そこへ別の女性が近づき、話しかける。


「そうね」

「狙ってみたら?」


「え……私、もう歳ですから」

 

 女性は歳を気にしているようで、俯き加減にそう言った。


「歳って言う程でもないと思うけどな? 勿体ない。まぁ話しかけられて、ラッキーだったわね」

「うん。今日一日、頑張れそう」


 女性は顔を上げ、元気を取り戻したようで、可愛らしく両手でガッツポーズを見せた。


※※※


 それから数日後。

 木造のカントーリー風の喫茶店で晴美と、会社で誠から話しかけられた女性が向かい合って、椅子に座りながら、話をしている。


 二人は顔見知りのようで、女性の方が偶然、晴美を見つけて、久しぶりに話がしたいと喫茶店に誘っていた。


 女性はお化粧が濃い目で、薄い茶色のショートボブに、ヘアピンを付けて髪型をアレンジしている。

 服装は白のスリットが入ったロングスカートに、肩が露出した黒のブラウスを着ていた。


「ねぇねぇ、サヤカさん。聞いてくださいよ」


 女性は前のめりになりながら、晴美に向かって、そう言った。

 晴美の本名は佐藤 サヤカだった。

 誠にバレないように谷口 晴美という偽名を使っていたのだ。


「最近、若いイケメン君と仕事で絡むことがあって、話しかけられることが多くなったの」

「へぇー、良かったわね」


 晴美は興味無さそうに、携帯を触りながら、返事をする。


「うん。私がもう少し若ければな……」


 女性のその言葉に、晴美の眉毛がピクリと動く。

 女性は目の前のコーヒーを、スプーンでクルクルと、混ぜ始めた。

 晴美は真剣な顔つきで、バッグに携帯をしまう。


「若ければ手に入るとは、限らないわよ?」


 晴美は自分の経験を踏まえて、アドバイスをするが、そのことを知らない女性は、険しい顔で手を止めた。


「サヤカさんは良いですよね。いつまでも若々しい顔しているから、そんな余裕な発言が出来て。私なんてあの頃と比べて、だいぶシワも、たるみも出てきた。結婚もまだなのに……」


 女性が暗い表情を浮かべると、晴美は心を痛めたかのように眉を顰め、悲しげな表情を浮かべた。

 晴美はカップを手に取り、ミルクティーを口にする。

 一口飲むと、スッとテーブルの上に戻した。


 晴美も歳のことで悩み、若返り薬を飲んでいる。

 女性と自分が重なり、心が乱れているのだろうか。

 落ち着かない様子で、沈黙のまま、同じ動作を繰り返す。


 また一口、ミルクティーを飲むと、テーブルに置く。

 鼻で溜め息をすると、口を開いた。


かえでちゃん。だったら、試してみる?」

「え?」

「これから言う事は誰にも広めないでね」

 

 晴美が真剣な顔でそう言うので、楓は目を丸くしながら、固唾を飲んだ。


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