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焼き餅

 一人で家に帰った誠は、すぐに自分の部屋へと向かった。


 部屋の電気を点け、本棚からアルバムを取り出すと、天についたホコリを手で拭って、床に落とす。


 ベッドの横にある机にアルバムを置くと、椅子を引いて座った。


 アルバムを手に取ると、開く。

 そこには沢山の家族との思い出が詰まっていた。

 

 沙織と二人だけで写る写真もあれば、伯父と2人だけで写る写真もある。


 誠の動きはパラパラとめくる時もあれば、じっくりと見つめる時もあった。


 30分ほど経ち、ソッとアルバムを閉じる。


「やっと分かった。別に伯父さんに嫌な事をされた訳じゃないのに、伯父さんの事があまり好きじゃなかった理由」


「俺……伯父さんに焼き餅を焼いていたんだな」


 どうやら誠は、昔が恋しくてアルバムを開いたのではなく、一枚一枚、沙織との思い出を確かめながら、自分の気持ちを整理したくて、開いたようだ。


 椅子の背もたれに背中を預け、天井を見据える。

 

「幼いころから抱き続けたこの気持ち、そんな簡単に諦めて良いのか?」


 もうすぐ死ぬ自分を愛すのではなく、他の人を愛して幸せに暮らしてほしい。


 その沙織の願いと裏腹に、誠はまだ沙織を諦められない様子だった。


 一方、沙織は部屋の電気も点けず、薄ピンクのパジャマ姿で、ベッドの上に座り、すすり泣いていた。


 誠の前では気丈に振舞っていたが、本当は後悔や悲しみ、そして恐怖。


 様々な感情が、沙織の中で渦巻いていたのかもしれない。


「こんな事なら、若返りたいなんて思うんじゃなかった」


 涙を拭き過ぎて目蓋が痛いのか、少し長い上着の袖で抑えつけるように涙を拭う。


 天井を見上げ、鼻でスゥー……と、息をする。

 はぁー……と、ゆっくり吐き出すと、真っ直ぐ壁を見据えた。 


「嘆いたって仕方ないよね。もう進んでしまったんだから」


 沙織はそう呟くと、ベッドに横になった。

 仰向けのまま、今度は天井を見据える。


「マコちゃんには悪いことしちゃったな……でも今の私が出せる答えは、あれしかなかった。マコちゃんならきっと、いつかは分かってくれるよね?」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう呟くと、もう何も考えたくないのか、ソッと目を閉じた。


 静まり返った部屋に目覚まし時計の秒針の音だけが響く。

 刻一刻と時間が過ぎ、30分ほど経過する。


「本当はね。最後まで聞きたかったんだよ。マコちゃん」


 沙織は起きているのか、それとも寝ているのか。


 判断は出来ないが、ハッキリと未練を口にした。


 次の日の朝。


 誠はなかなか眠れなかったのもあり、いつもより遅い9時30分に目を覚ました。

 

「沙織さん、どうなったんだろ?」

 

 むくりと上半身を起こし、ベッドから出ると、パジャマのまま部屋を出て、沙織を探し出す。


 二階の廊下を進み、ベランダに続く窓に目を向けると、洗濯物を干している沙織を見つけた。


 明らかに背が縮んでいて、背伸びをしながら、物干し竿に掛けていく。


 沙織が誠のボクサーパンツを手に取り広げる。

 10代前半ぐらいの沙織に、パンツを持たれたのが恥ずかしかったのか、誠は慌ててベランダへと向かった。

 

 ガラッと網戸が開く音に沙織が気付き、振り向く。


「あら、マコちゃ――誠さん。おはよう」


 沙織はニコリと微笑むが、いつものような明るさが感じられない。


 誠は沙織が小さくなった現実から目を逸らすかのように、少し俯き、悲しい表情を浮かべた。


 すぐに顔をあげ、引きつった笑顔を浮かべる。


「おはよう。ごめん、手伝うよ」

「そう? ありがとう」


 会話もせず、二人で黙々と洗濯物を干していく。


「これでお終いね」


 沙織が最後の洗濯物を誠に渡す。


「ねぇ、沙織さん。服、ぶかぶかだね」


 沙織はブカブカの白いTシャツにジーンズの裾を折り曲げ、履いていた。


「予め下着は困ると思って買っておいたんだけど、服はどうにかなるかと思って、買わなかったのよね……失敗だったわ」

「じゃあ、俺が買ってくるよ」

「サイズは分かるの?」


「携帯で調べるから大丈夫」

「そう。じゃあ、お願いしようかしら」


「分かった。着替えたら、直ぐに行ってくるよ」

「ご飯は?」

「買い物に行ってから食べる」


「分かった。私はご飯の用意をしておくね」

「うん、ありがとう」


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