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好奇心

 食卓にハンバーグと、コーンスープ、サラダが並ぶ。


 沙織は誠の茶碗に大盛りに装うと、自分の茶碗と一緒に、テーブルに持って行った。


「えっと、あとは……お水ね」

 

 台所に戻りコップに水を入れ、テーブルに戻る。


「あとは大丈夫だよね?」

「うん、大丈夫」


 誠の返事を聞くと、沙織は自分の席に座った。


「やった。今日は俺が好きなハンバーグだ」


誠が嬉しそうに笑顔でそう言うと、沙織も嬉しそうに微笑む、


「最初は焼き鮭にしようかと思ったけど、あなたが喜ぶと思って、ハンバーグにしたわ」


「ありがとう!」

「どう致しまして」

「頂きます」

「頂きます」


 お互い気を遣っているのか、手を合わせると、若返りについては触れずに、食べ始める。


「マコちゃん。髪の毛を切ってきたのね」

「うん、短過ぎたかな?」


「全然。夏なんだから、そのぐらいが良いわよ。似合ってる」

「ありがとう」


 誠の頬が緩む。

 満足気な笑顔を浮かべると、コーンスープを手に取った。


「ところでマコちゃん。明日もバイトよね? 何時から?」


 スープを飲んでいた誠の手が止まる。

 ゴクッと飲み込むと、テーブルに置いた。


「えっと……休んだ」

「そう。明後日は?」

「明後日も」


 誠は真面目な人間で、今まで学校もバイトも、よほどの理由がない限り、休むことはなかった。


 そんな誠が二日も休むだなんて何かあると、沙織は感じ取ったのか、誠の目をジッと見つめる。


「何か隠してない?」

「いや、別に」


「嘘。あなた嘘を付いている時、ジッと見られると、目が凄く泳ぐのよ」


 確かに誠の目は、視線を合わせないようにしているのか、泳いでいた。

 誠は観念したかのように口を開く。


「えっと……バイト、辞めてきた」

「どうして……」

「店長と喧嘩して。大丈夫、お金なら十分、貯めたし」


 沙織はまだ疑っているようで、誠から目を逸らさない。


 きっと自分のために嘘を付いているのだと、見抜いているようだった。


「あなた、そうやって大学まで中退するつもりじゃないわよね?」


 誠は黙ったままコップを手に取り、ゴクッと飲んだ。


 そのまま何も言わずにテーブルにコップを置く。


 その瞬間、また少し目が泳ぐ。


 沙織はそれを見逃さなかったが、鼻でため息をつくと、誠から目を逸らした。


「まぁ、この話は後でいいわ」


 誠はホッとしたかのように、ハンバーグを食べ始める。


「そういえば明日、お盆祭りがあるみたいね」

「あぁ、花火もあるみたいだな」


 誠は他人事のように答えると、ご飯を頬張った。


「――行く?」


 沙織は恥ずかしかったのか、それとも何か気がかりの事があるのか、少し躊躇ってから、誠を誘う。


「え?」


 誠は驚いたのか、口に入れた御飯がテーブルにポロッと落ちる。


「もう、汚いわね」

「悪い……」


 誠は拾い上げると、ティッシュに包んだ。


「でも、どうしたんだよ? 行き成り」

「だって中学生の時から、一緒に行かなくなったじゃない?」


「それは……母親と一緒なんて、恥ずかしかったからだよ」


「ふーん……じゃあ、それを抜きにしたら、一緒に行きたかった?」


「え、どうだろう……」


 真剣に考えだす誠を見て、沙織は感情が読み取れない複雑な表情を浮かべる。


「ごめん、意地悪な質問だったわね。それより、せっかくだから行きましょ」


「俺は良いけど、大丈夫なのかよ?」


「うん。若返るだけで、体が痛かったりするわけじゃないから。ね、行きましょ」

 

 本当なら誠は、迷うことなく行きたいはず。

 だが沙織の事を思うなら、ここは断るべきなのだろうか?


 そう思っているのか、誠は御飯茶碗と箸を持ったまま固まっていた。

 

 そんな誠を沙織は、どこか悲しみが帯びた真剣な眼差しで見つめている。


 誠は沙織の表情をみて、決心したかのように頷いた。


「分かった。行こうか」

「やったー。せっかくだから浴衣でも着てみるかな?」

 

 沙織はワクワクが伝わるほど、さっきの顔が嘘だったかのように明るい笑顔をみせ、ご飯を食べ始めた。


 誠はその表情をみて、自分の決断は間違えではなかったと確信するかのように、優しく微笑んだ。


 誠はご飯を食べ終えると、食器を台所に運び、自分の部屋に戻った。


 部屋の電気を消したまま、ベッドに横になり、天井を見据えている。


「バレちゃったか……この先どうなるか分からないから、大学も辞めようかと思っていたけど、考えたら、もう少しで夏休みだから様子見だな」


 ボソッと呟くと目を閉じ、右腕をオデコの上に乗せた。


「はぁ……」


 何かまだ心配事があるのか、大きく溜め息をつく。


「それにしても俺、不謹慎だな。若返る沙織さんをみて、悲しい半面、ドキドキしている。これが好きってやつなのかな?」


 まるで初恋をしているかのように、純粋な気持ちを呟く。


 揺れる想いに頭を悩ましているのか、落ち着かない様子で、ベッドの上で、横を向いたり、仰向けになったりと、次から次へと態勢を変えていく。


 しばらくして、何か考えついたのか、急に動きが止まり、仰向けのまま天井を見据える。


「この気持ちを伝えたら、どうなるんだろ?」


 最後にみせた誠の気持ちは、その先の未来を見てみたいと思う好奇心で溢れていた。


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