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Phoenix Syndrome  作者: 大島くずは(原作)/仁司方(改変)
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カナエ・レポート


 ノルデンク公国とその周辺における不老不死伝説と不死鳥の説話の連関性についての調査に先立っての予備レポート


 レンドール国際総合人文科学振興財団テレシナ研究センター

 特任専属上級フェロー・カナエ


 このレジュメは正式な報告書ではなく、作成指示を受けています調査の内容が広汎に渡るため、私自身の確認もかねて注意を向けるべき点を簡単にまとめたメモであることを前おきしておきます。したがって、引用元、参考文献などをまとめたインデックスは省略されています。



 まず第一点として、不死と形容される状態にはいくつかのパターンが存在しうる、この部分について整頓しておく必要があるでしょう。


 おおまかにいって「定命がない」非自然死体と「殺害されない」不死身にわけることができると思われます。自然界でも、クラゲの一種は成体から幼生へ若返ることで理論上では寿命が無限ですし、プラナリアのように切り刻まれても再生する生き物が存在しますね。とはいえ、クラゲは天敵や環境の要因で死んでしまいますし、プラナリアも刃物で切られることには耐性があるものの、水の汚れなどそのほかの害には無防備同然です。


 伝承において「定命がない」存在は、比較的ありふれているといえます。アクシデントに遭わなければ死にはしないという、まさにクラゲと同じような、寿命がないだけのありふれた生き物にすぎないこともしばしばですが、反面、自ら死を望まない限り衰えもしなければ傷も受けないような、ほとんど神のごとき存在の例もあります。不死だけれどあまりに永く生きすぎて、飽きてしまい自ら死を選んだりするほどです。それでもたいていにおいては可死であり、「定命がない」のと同時に「殺害されない」場合は、刑罰として死ぬことを認められていない状態のあらわれであったりします。


 さて、すこし先走ってしまいましたが、伝承における「殺害されない」不死身の存在を見てみましょう。同時に「定命がない」例もありますが、多くの場合、不死身の者が永久不滅の生命をも持っていることはありません。なぜかというと、「殺害されない」存在が登場する神話、伝説は、その者がいかにして殺されるかを主題としていることがほとんどであるからです。


 剣をとおさず火も効かず、毒も受けつけない最強の英雄が、その総身にただ一カ所の急所――かかとの腱であったり、両肩のあいだだったりしますが――を突かれて死亡する。森羅万象のすべてから宣誓を受け、その身を害されることがないと保証されたはずの神の子が、あまりにちいさかったために宣誓を免除されていたヤドリギの枝先に貫かれて落命する。昼も夜も、陸でも海でも殺すことができない怪物は、黄昏どきに波打ちぎわで討ち取られる。

 ――とまあ、不死身の登場人物は必ず殺されるのがお約束といっても過言ではないほど、伝承における「殺害されない」存在は、その謳い文句に反してよく殺されます。


 不死身という状態も、さらにいくつかのパターンにわけることができるでしょう。

 そもそも傷つかない。再生する。ごく普通の生き物と同様に傷つき病に冒され毒に苦しむが死ぬことだけできない。傷つき殺されるが、即座に、あるいは夜明けなど特定の時間になると忽然となにもないところから再出現する。――よく目につくものを列挙するとこんなところでしょうか。


 第一の、そもそも傷を受けることがない、いわゆる「無敵」の存在は、厳密な不死身ではないのではと思われる例が多いようです。必ずといってよいほど弱点が存在し、それを突かれた場合はあっさりと死んでしまいます。弱点は身体の特定の部位であったり、場合によっては体外に存在していたりしますが、いずれにせよ弱点を攻撃されたさいの脆さは通常の人間より甚だしいものがあります。普通はかかとの腱が切れても、たしかにとても痛くて歩けなくもなるけれど、死んだりはしませんよね。


 伝承の時代には剣とか弓矢とか火くらいしか攻撃的な手段がありませんが、もし「無敵」の防御を打ち破れる強力な武器で傷を与えたら、彼はきっと死んでしまうでしょう。


 傷はつくけれど再生する不死身と、身体への害は通常どおりに被るけれど死ぬことだけはない、このふたつのパターンでは、程度が問題になります。きわめて高出力な大口径レーザービーム、あるいは核爆発などで、跡形もなく蒸発させたとしたら、それでも彼は再生するのでしょうか、身体は原子の単位までバラバラなのに彼はそれでも生きているのでしょうか。


 殺されても再出現する存在、というのは「殺害されない」存在とは少々ちがうかもしれません。神話としては永久に戦争を繰り返す戦士の世界がありますが、コンピュータ・ゲームのリポップのほうがイメージしやすいかもしれませんね。

 自機がやられてしまったら再開地点(リスポンスポット)からやりなおし。傷を受けるけれど再生する不死身も、究極的な形態はこれと同等だと考えられるでしょう。


 そうなると、跡形なく消し飛ばされてから再出現した彼は本当に以前と同一の存在なのか、ちょうどまっぷたつに割ったら彼は二体に増えるのか、あるいは脳なり心臓なり再生の基準となる器官が存在するのか、ならばその器官を抉り出して培養液に漬け生かしておくことで再生を阻害し実質彼を殺せるのではないか、そして……とまあ、いくらかの思考実験が浮かんできますが、今回の主題とは関係が薄いのでこのくらいにしておきましょう。


 ある意味では、死ぬけれど復活する存在のほうが、不死身だけれどもし生命を喪ったらそれきりでよみがえることがない存在よりも、完全な不滅の存在に近いといえるかもしれません。まさに不死鳥はこれに類するのです。


 不死鳥は五〇〇年に一度自らの炎によって焼死し、その灰の中から若返って復活します。殺されてもやはりその身の炎は荒れ狂い、内より自らを出現させるといわれています。

 自裁と転生をする周期が五〇〇年ではないこともありますが、おおむね世界各地で似通った霊鳥の存在が古代より伝わっています。幸運を運ぶ瑞兆でありおめでたい幻獣とされますが、自らの不死性を他者にまでもたらすという言及は意外とすくないことに留意すべきかもしれません。集中地のひとつが、ノルデンクとその周辺です。


 ノルデンクでの不死鳥は畏怖をともなった信仰の対象であり、その姿を見ることが必ずしも喜ばしいとは限らないという点でも、特異さがきわだっています。

 母親がいたずら好きな子供をたしなめるさいに、暗くなっても外で遊んでいたらトロールにさらわれてしまいますよ、とか、食い意地の張った子は魔女のおやつにされてしまいますよ、とか、嘘つきの子は閻羅に舌を引き抜かれてしまいますよ、などと、さまざまな超自然の存在をあげて怖がらせますが、ノルデンクでは「悪い子は不死鳥さまに燃やされてしまいますよ」といわれるのだそうです。実際にノルデンクと周辺各地には、同時多発的な人体発火の記録が過去数度に渡って遺されているのです。これも、調べておかないといけないことでしょうね。


 ノルデンクの不死鳥が妖精やドラゴンのような伝説の生き物と一線を画しているのが、歴史上に実在していたカガミ家との関係なのですが……この前にお話ししたとおり、そのときのメインテーマは魔女審問で、カガミ家と不死鳥のかかわりに関する資料は積極的に集めたわけではなく、電子化もせず紙のまま、私の当時の研究室におきっぱなしでこっちには持ってきていないのです。


 郵送の手配はすんでいるので、数日中には到着するはずです。可及的速やかに正式な報告書を提出いたしますので、いましばらくお待ちください。


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