光と闇が両方そなわり最強に見える
「勇者が来た」
俺が夢魔二人とくつろいでいるとサルガタナスがやって来た。
早くね?
さっき来るかもとは聞いたけどもう来たの?
「まだ押し返す余裕も有るには有るが今回は捕獲を試みたい。そう言う訳だから手伝ってもらうぞアスカ。クルムとアヤムもだ」
「分かったー、じゃあ私は幻惑の魔法で勇者と他の奴等を分断するね」
「ああ、クルムはアヤムのフォローに回れ。アスカは俺と勇者の相手だ。良いかアスカ、俺の指示通りに動けば必ず勝てる。落ち着いて指示に従え」
「分かった」
「それからアスカ、君の力についてだが、君の足は握る際にはあらゆる物を潰す力があるが、開く力は並みのハーピーと同程度だ。過信しすぎるなよ」
何それ、ワニの口みたい。
◇ ◇ ◇
勝てました。
勇者の仲間をクルムちゃんとアヤムちゃんが催眠とか魔法とか使って分断してくれた。
後はサルガタナスと勇者が戦ってる所を、サルガタナスの力で透明になった俺が不意打ちするだけの簡単なお仕事。
勇者の剣を掴んでキュッと握るだけで簡単にひしゃげました。
この勇者マジで魔王倒したん?
俺の中で魔王株の暴落が止まらない件。
「ぐっ……くっ」
勇者は俺に背中を踏みつけられて身動きが取れずにいた。
そんなに力込めてるつもりないんだけどなー、あーでも鎧に爪がめり込んでるわ。
「良いぞアスカ、そのまま鎧を切り裂け」
「はーい」
爪で鎧を切り裂く。
「馬鹿な!?精霊の加護が込められた鎧だぞ!?」
「へー、何それ強そう」
俺が鎧をぐちゃぐちゃに切り裂くとサルガタナスは魔王の魂が入った宝玉を手に近づいて来た。
あー、もしかしてそれ勇者に植えつけちゃうパターン?
エグイわー。
「この気配! やはり魔王は消滅していなかったか!」
「ご明察。では私が今から何をするかも分かるかね?」
「ま……さか……やめ、止めろぉ!!」
「ははは、勇者の魂に魔王の魂。反発し合う二つを混ぜたらどうなると思うね?」
サルガタナスが悪魔らしく実に楽しそうに宝玉を勇者に近づけて行く。
勇者と魔王の魂が混ざったらどうなるんだろう、光と闇が両方そなわり最強に見えるのかな?
「そこまでにして貰おうか。そのような愚物でも一応人類の希望、と言う事になっているのでな」
声のした方を見ると男が数人の部下を連れて歩いて来ていた。
あ、サルガタナスに見せてもらったから知ってる、この人王様だ、確かエゼルって言ってたっけ。
「…………ふむ、私のダンジョンにようこそエゼル王。どうやって此処まで私に気付かれず来れたのかね?」
「何故お前に俺の手の内を教えてやらねばならんのだ? 下っ端」
「下っ端とは私の事かな?」
「俺を此処に足止めする為に切り捨てられた奴が下っ端でなくて何なのだ? おい、連れて来い」
エゼルが促すと後ろに控えていた兵士達がアヤムちゃんを連れて前に出て来た。アヤムちゃんは捕まってしまったようだ、周りにクルムちゃんの姿は見えない、無事だと良いんだけど。
「取引だ。こいつと、そこの愚物と魔王の魂を交換だ」
「……レートが狂っているようだが?」
「別に断っても構わんぞ? その場合は力づくでいただくだけだ。言っておくが此処に居る者達はそこの愚物より手練れだぞ。俺を含めてな」
そう言ってエゼルが剣を抜き放つと、側近達も武器を構え出した。
「お前を討つのは俺にとって大いに痛手だが、魔王の復活には代えられん」
「……ふむ、良いだろう。くれてやる」
サルガタナスがエゼルに宝玉を渡したので俺も勇者を解放してやった。
「エゼル王! どうして此処に! やはり悪魔と繋がって居たのか!?」
「たわけか貴様。この程度の状況を察する事も出来んのか? お前がどう見ても言う事を聞きそうになかったから、こうして俺自ら出張って来てやったのであろうが。それよりも、これに魔王の魂が封印されていると言うのは間違いないのか?」
エゼルが尋ねると勇者は宝玉をじっと見つめながら答えた
「間違いない。この宝玉から魔王の気配を感じる」
「ふむ。魔王の能力か、あるいは封じてあるせいか、俺の魔眼では何も見えんな……。 お前達はこの魔王の魂を追って来たのだな? 何故俺に報告しなかった?」
「……貴方は、悪魔と繋がって居る可能性が有った…………」
「……はぁ、まぁいい。俺と悪魔に繋がりがあると言うお前の予想は完全に見当違い。と言う訳でも無い」
そう言うと王様が輪っかのついた鎖をサルガタナスに放り投げた。
「これは、隷属の首輪かね」
「ああそうだ、サルガタナス。我が軍門に下れ」
「なっ! エゼル王! 悪魔と契約するおつもりですか!?」
「契約では無い、隷属だ。倒せないのなら支配するのも手段の一つかと用意しておいたのが功を奏した」
「俺を隷属させられるとでも?」
「その為に今までじわじわと削ってきたのだ。お互いに、その首輪がお前の力を縛り付けられる事を祈ろうではないか。もしお前の力がその首輪で抑えられんのなら、やはりお前を殺さねばならん」
「 」
「何?」
「いや何でもない。エゼル王、我はこれより汝に帰順する。これより我が身は汝が手足となろう」
サルガタナスはエゼルが差し出した首輪を自ら自分の首に装着した。
「……やけにあっさりだな、何を考えている?」
「魔王に従うより貴方に従った方が面白そうなのでな。殺されないと言うのであれば、こう言った選択肢も悪くない。これまでの戦いで貴方の優秀さは骨身に染みているし、自ら此処まで乗り込んで来ると言う胆力も気に入った。それに、悪魔は元々人間と契約して堕落させるのが仕事だ、何かおかしい所があるかね?」
「堕落させるのが仕事、か。やってみろ」
サルガタナスが悪魔らしい邪悪な笑みを見せると。
エゼルは殊更面白そうに獰猛な笑みを見せた。




