こっちでも俺は孤児か
「はい、お兄様、お口を開けてくださいな、あーん」
「あーん、ハグ、モグモグモグモグ」
用意されていた食事は俺の大好きな目玉焼き乗せハンバーグだった。
しかもデミグラスソース掛け。
見た瞬間、異世界感仕事しろ! と思ったが、クルムちゃん曰くサルガタナスの魔力を使って、あっちのハンバーグをクルムちゃんが再現してくれたらしい。
俺の服や部屋にある調度品、部屋そのものもダンジョンの魔力を使ってクルムちゃんが作ってくれたのだそうだ。
クルムちゃんが知っている物、原理が分かる物などなら大体再現したりアレンジして作り出す事が出来るらしい。
試しに服やら宝石やらバッグやらをアヤムちゃんが作り出してくれた。
マジかよ!
魔力すげぇ!
魔力使えば何でも作れるならスマホとかパソコンとかも作れるんだろうか。
あーでもネットに繋がってないとあんまり意味無いのか?
ん? スマホやパソコンの原理とか俺も分かんねーな。
こんなことならあっちで二人にもっと色んな物見せておけばよかった。
銃とか作って貰えたら万が一戦いになったりしたときに有利なのになー。
ん? 俺引き金引けねーな。
今もフォークが持てなくてクルムちゃんにあーんして食べさせて貰ってるしな。
しかし何でも魔力で作れちゃうとかほんと凄いな、もしかしてこの世界の文明って結構進んでいるのでは?
俺の中での異世界ナーロッパの文明値を上方修正する必要があるかもしれない。
あれ、でもサルガタナスってアスタロトとかネビロスとかと一緒にアメリカに住んでるんじゃなかったか?
じゃあ此処は異世界アメリカ大陸なのか?
等と考えていたらいきなり扉がバーン! と開いてサルガタナスが入って来た。
「おい、お前達、さっきから随分と魔力を無駄使いしていないか?」
「ピェッ」
してました、思いっきり。
アヤムちゃんがお試しとか言って色取り取りの宝石をぽこじゃか出してました。
え? ひょっとして魔力って使ったら減るの? あ、当たり前かー。
「アヤム、そこにある宝石の類は全部没収だ」
「えーー!」
「黙れ、クルムも、魔力の無駄使いは止めろ、お前達、此処が今どう言う状況か分かってるのか?」
「んー、風前のともしび?」
「っ! ……そうだ、魔力が尽きたらその時点で終わりだ、それが分かっているなら無駄遣いは止めろ」
アヤムちゃんとクルムちゃんに釘を刺すとサルガタナスは俺を見た。
「ハーピー殿、アスカとお呼びして構わないかな?」
「え? あー、はい……あれ? 何で名前知ってるの?」
「食べ終わったら私の部屋に来てくれ、色々と説明する必要がある」
わーい、説明回だー。
◇ ◇ ◇
「状況を説明をする前に、まずは謝罪しなければならない事がある。アスカは本来、成体となった状態で卵から孵化するはずだった、これは全てのハーピーがそうして生まれると言う訳では無く、アスカが特別なのだが――」
サルガタナスの説明を受けて俺は自分の身体を見た。
ハーピーの成体ってどれくらいの状態なのか分からないけど少なくともこの身体は成体とは言わないと思う。
ないよー、おっぱい無いよー。
「――うむ、私は本来、君が成体になるために、君の卵に蓄えられた魔力を無断で借用した。故に、卵は君が成体になる前に魔力が尽きて、君は生まれてしまったのだ」
…………んー?
つまりあれか?
こいつ俺の親が俺の為に蓄えてくれた貯蓄に勝手に手を付けて?
そのせいで俺は大人になれなかったって事?
あれ?こいつ敵じゃん?
「待ってくれ、これには深い訳がある、今からそれを説明する。」
何やら深い訳が有るらしい。
人の魔力に手を付けて、どんな言い訳が通るか聞いてやろうじゃねーか、えー?
抗議の視線で睨むとサルガタナスはコホンと咳払いをして話し出した。
「もう聞いているかもしれないが、此処は私の作ったダンジョンの中なのだが、現在このダンジョンは危機的状況にある。上に――」
サルガタナスが上を指さすと天井にいかにも異世界ファンタジーな感じの町が写った、何これ、プロジェクター?
違うかな、多分サルガタナスの力だ。
「――このような攻略拠点を建てられてしまってな、しかも、人間の王の一人がこの町に居座って直接指揮を執ってるのだが、これが手強くてどうにもならん。いざとなったら転移して逃げるかと思っていたら、奴め、魔封じの宝玉をダンジョンを取り囲むように配置して来てな、逃げられなくなってしまったのだ。」
何だこいつ、マヌケかよ。
「俺が此処に残ったのは、この王を此処に引き付けておく事が、結果的に魔王軍を支援する事に繋がると考えたからだ。俺が此処で人間側でも屈指の国力を持つアルテウス王国を引き付けている間に魔王が率いる魔王軍が各地の人間達を各個撃破する、はずだった」
ふーん、策士じゃーん。
「俺が此処で耐え忍んで5年目に、魔王が勇者に討たれた」
ファー!? 魔王様、おいたわしや。
魔物に転生したからにはいつか会えるのかもと思っていたのに、もう既に死んでしまっているらしい。
「魔王が討たれてから魔王軍は各旅団ごとにばらばらになってしまったが、俺は此処から逃げる事も出来ず、それから3年間、何とか耐え忍んでいたと言う訳だ」
ふーん、つまりこいつは8年間もこのダンジョンに引きこもって人間を撃退している訳だ。
8年かー、それは長いわ。
「そんな長い間よく戦えたね」
「ああ、長い、おまけに、誰も助けに来ない、最近まではな」
ほうほう。
「あの二人と君のおかげで、状況が一変する可能性が見えた」
ふーむ、ん?
つまり俺の成長に使われるはずだった魔力がサルガタナスに取られたのはクルムちゃんとアヤムちゃんが俺を此処に連れて来たから?
あの二人も敵って事?
「勘違いするなよ、あの二人は君を助ける為に此処に君を連れて来た。 『これ』から君を助ける為にな」
そう言うとサルガタナスはごとり、と机の上に禍々しい色をした宝玉を置いた。
「あの二人が君が入った卵を此処へ持って来た時、君は此処にある魔王の魂に憑りつかれていた。魔王は殺されても魂の状態で漂流し、魔力の高い物に憑りついて、復活する力がある。君から魔力を抜き出したのは、この魔王の魂を君から切り離すためだ」
「……魔王に憑りつかれたらどうなるの?」
「魔力を食い尽され、精神を蝕まれ、肉体は魔王が生まれるための苗床になる。君の場合は卵から、君ではなく魔王が生まれていただろうな」
「oh……」
サルガタナスさん俺の命の恩人じゃん?
「魔王が君の卵に憑りついた後、それに気が付いた二人は私の所にやって来て魔王と君を切り離す手伝いをするよう私に迫った。あの二人の力だけでは魔王を君から切り離すのは無理だったからな。私は遠見の力と転移の力を使って、あの二人を君の夢に送り込んだ。その後は、君の知っている通りだ。二人は魔王の魂を君の魔力ごと絞り尽し、私は絞られた魔力ごと魔王をこの宝玉の中に封印した。結果君の卵は魔力が尽きて、君は予定より幼く生まれた訳だ」
「……質問しても?」
「どうぞ」
「……このダンジョンは魔封じの宝玉に囲まれてるから悪魔は出入り出来ないんじゃなかったんですか?」
「俺の様な魔神は宝玉に引っかかって移動できないが、夢魔や魂だけの魔王なら隙間から入り込める」
ザルかよ。
「貴方は魔王様の部下なのに魔王様を封印して良いんですか?」
「構わんとも、こいつのせいでこちらも散々振り回されたからな。いずれは復活させるが、色々と俺に有利になるように首輪をつけてやる」
うわー、悪そうな顔、初めて悪魔っぽい顔したわ。
「その魔力は返して貰えるんですか?」
「この魔力は魔王の魂に汚染されていて危険だ。代わりに私が魔力を返すとしよう、とは言えこちらも火の車だからな、今すぐ返す事は出来ん。まぁ命を助けてやったんだ、無利子無担保無期限返済で構わんだろう?」
返す気ねーなこいつ!
「俺って特別なハーピーなんですか?」
「君の母はエルダーハーピーだった。君は卵の中で次代のハーピーを纏める者として、知識を付け、成長した姿で生まれるはずだったそうだ」
知識って、あっちの世界の学校に教育丸投げかよ!
「因みに、君の母君と私は面識があるが、君の母君は君が見ていた夢の中の世界からの転生者だったそうだ。君が卵の中で見ていた夢は君の母君と関係があるのかもしれんな」
おお、俺のお母さんが転生者ですと!?
そういうのもあるのか。
あんまり読んだ事ないパターンだなー。
「俺の母さんって何処に居るんですか?」
「……君の母君は君を産む際、全ての魔力を卵に注ぎ込んで力尽きたそうだ」
…
……こっちでも俺は孤児か。
「クルムちゃん達と俺ってどう言う関係なんですか?」
「クルムは君の母が作り出した使い魔だ。通常、使い魔は主人が死ぬと共に消滅するが、君の母とクルムは魂の譲渡契約をしていたようだな。魂を譲渡された使い魔は主人から独立した個体になる、自分が死んだ後、君の事をクルムに託すつもりだったのだろう。アヤムは恐らくクルムが作り出した眷属なのだろうな」
「……」
なるほど……大体の事が分かって来た。
「さて、まだまだ質問があるかもしれないが、こちらもまだ状況説明が終わって居なくてね。しかもこれが結構な厄介事なのだが」
「なんですか?」
「君にくっついた魔王の気配を追って勇者がこのダンジョンに来てしまった」
「な、なんだってー!!」




