そりゃフェニックスの羽だろ!
「おんなぁ、おんなぁ」
「くさ、い、キモ……」
男が片手で首輪を引っ張りながらもう片方の手で俺の身体を触って来る。
気持ち悪い。
怖い。
誰か助けて!
(落ち着きなさいアスカ! 心が揺れ動いてたら魔法が使えないの!)
落ち着くとか無理!!
息臭っ!
顔怖っ!
無理無理無理無理!
「おい、何やってるニャ!」
俺のピンチに気が付いたオフャムが駆けつけてくれる。
助かったぁ。
と思ったら牢屋の中から沢山の手がニョキニョキッと出て来てオフャムに伸びた。
「ニャ!?」
「おおおおおんなあああああああ!!」
「もう一人居るぞ!」
「こっち来い、来いよおおおおお」
「こっちに来い! 触らせろ!」
「お願いだ、出してくれ! 此処に居たくない!」
「フヘヘ、猫ちゃんこっちおいで、こっちおいで」
「……オェ……」
鉄柵越しの地獄絵図にオフャムが嘔吐く。
いや、気持ちは分かるけど!
助けて!
オフャムが躊躇している間に他の男達の手がこっちに伸びて来た。
痛っ!
痛い!
羽がもげる!
服が伸びる!
って、何処触ってんだこらぁ!
「こ、のぉ!」
俺は足で鉄柵を掴むと柵の向こうに居る男の足ごと握り潰した。
「ぎゃあああああ!!」
「何だこいつ!」
「鉄柵を握りつぶしたぞ!」
男達が驚いて手を放した隙を見て飛び退く。
足を握り潰された男が激痛に転げまわる。
どうしよう、咄嗟に人の足を握り潰してしまった。
足に肉片と返り血が付いて気持ち悪い。
「へ、へへっお嬢ちゃん、ありがとよ」
俺が鉄柵の一部を壊したせいで細身の男が牢から出て来た。
これマズくね?
「おい! 此処から出れるぞ!」
「お、おおおおお俺も出るぞ!」
「どけぇ! 俺が先だ!」
「ああ、感謝します! アンタは天使だ!」
囚人たちが隙間から出ようと殺到して来る。
「まずい、逃げるニャ!」
牢屋が混乱する中、俺はオフャムに通路の奥に引っ張られていった。
◇ ◇ ◇
「ったく、お前のせいで騒ぎになったニャ! 早くアルヴィンを助けないと!」
オフャムに引っ張られて牢屋の最深部についた、此処にアルヴィンが居るらしい
「見張りは居ないの?」
「居ニャイ。此処の宮殿ほんっとザル警備にゃ」
ニャムは扉に近づくと何やら調べ始めた。
「ねぇニャム、扉近くの天井に丸い水晶みたいなのが埋め込んであるんだけどアレは何?」
「あ? 飾りかニャンかだろ?」
えー。
いやー、でも設置してある位置が何て言うか……。
いやまさかなー。
「うん、やっぱりあたしじゃ開けられニャイ。おいハーピー、頼むニャ」
「ハーピーじゃなくてアスカって呼んで」
俺は扉を足で掴むと力を籠める。
何の抵抗も無く、扉は潰れてしまった。
「ドヤァ」
「はいはい、ありがとありがと」
オフャムは俺の力にちょっと引き気味になりつつも部屋に入って行った。
俺はどうしよう。
正直勇者と顔合わせるの気まずいな、剣も鎧も壊しちゃったし。
俺が部屋に入るか逡巡していると誰かの足音がした。
さっきの囚人の一人がこっちに来てる。
こいつ何で奥に来てるんだよ、折角檻から出れたんだから逃げろよ。
「見つけたぁ」
「……何でこっちに来た、出口は反対」
「牢から出たってどうせ捕まるさ、だったらこっちに来たって別に構わねぇだろぅ?」
「……」
「お前、セイレーンじゃねぇよな?」
「ハーピー」
「ハーピー! やっぱりか! ははっ、こりゃいいや。初めて見たぜ。おとぎ話の化け物が実物はこんなに可愛いとはねぇ。しかも隷属の首輪付きと来てる。こいつは神様からの贈り物か?」
どうしよう。
逃げようかな、迎え撃つ意味無いし。
俺は部屋に逃げ込む事にした。
「おい、逃げるな」
「!?」
男が命じると足が止まる。
おいおいおいおい隷属の首輪さんよ。
いい加減にしてくれよ。
無差別に誰の言う事でも聞いちゃうの?
普通こう言うの登録した特定の人の事だけ聞いたりするもんじゃないの?
奴隷は人類の共有財産かよ!
「何だぁ、誰の言う事でも聞くようにしてあんのか、ますます都合が良いじゃねぇか。やっぱりお前は神様からの贈りもんだぁ」
あ、やっぱり誰の言う事でも聞かないようにはできるっぽい。
じゃあ今の俺は所有者設定的なのがされてない感じ?
男が手を伸ばしてくる。
「助けてっ!」
「黙れ」
「っ!」
やばいよ、声も出せなくなった。
オフャムさん早く助けて―!
せめてもの抵抗として身体を翼で包み込む。
「動くなよ」
くそぅ、隷属の首輪作った奴絶対許さん。
男は手を伸ばすと、羽を触り始めた。
「これがハーピーの羽か。知ってるか? 伝説ではハーピーの羽には死人を生き返らせる力が有るんだとよ」
そりゃフェニックスの羽だろ!
いてててて、抜こうとすんな!
「こいつを全部売ったら一体いくらになるかねぇ。これを持ってたら処刑された後生き返れるかもしれねぇ」
プチッ
「っあ!」
「へへ、痛かったか? すまねーな」
痛ったー!
髪の毛10本くらいまとめて抜かれるくらい痛い!
思ったよりは痛くなかったけどそれでも痛いもんは痛い!
あ、待って、もう抜かないで、禿げちゃう、翼が禿げちゃうううううう!
「おい、何やってるニャ」
「む?」
俺が男に羽をプチプチ抜かれるのに耐えていると、やっとオフャムが出て来てくれた。
オフャムがナイフを構えると男は後ずさる。
「おいおい、止めてくれ。俺はアンタと争う気はねぇよ」
「失せろニャ」
「はいはい、分かったよ。頼むから見逃してくれ」
オフャムが軽く威嚇すると男は去って行った。
あー、痛かった、まだ翼がヒリヒリする。
「羽を抜かれたのかニャ? あー、死者を生き返らせるって奴か。そんな事ほんとに出来るニャ?」
知らねーよ。




