猫耳が飛び込んで来た
うーん。
このまま夜になると俺の純潔は失われてしまう。
かと言って逃げても、相手がクルトからエゼルに代わるだけで結果は同じらしい。
純潔をクルトに奪われるか、エゼルに奪われるか、究極の選択しか俺には残されていないとマルフミーラは言う。
そこでマルフミーラは体の主導権を俺からマルフミーラに移さないかと提案して来た。
ヤられる時だけ意識をマルフミーラに入れ替えて嫌な所を受け持ってくれるのだと言う。
でも正直俺はその提案にあまり乗り気じゃない。
身体の主導権を他人に譲るってのは単純に怖い。
返して貰える保証もないし、よほどの信頼が無ければ無理だ。
そして俺はマルフミーラをそこまで信用できて無い。
それに自分の身体を人に預けてる間に純潔じゃなくなると言うのも何というか、嫌だ。
男に置き換えてみて欲しい。
自分が童貞じゃなくなる時に身体の主導権を他人に譲りたい奴は居るだろうか?
居ないだろ?
その時の相手による?
まぁ、確かに。
その点クルトとエゼルは顔立ちは超整っている、二人ともサラサラの金髪だし、エゼルは細マッチョな体型で覇気があって王様と言う身分で有りながらダンジョンに自ら乗り込む度胸もある。
クルトは一見可愛い見た目だけど、不意打ちとは言え護衛の男の首を一瞬で跳ねるくらい剣の腕前が有るし、さっきの二人の兄にも毅然と対応していたように見えた。食事の給仕をしてくれる時はとても優しい。
俺が普通の女の子だったなら普通に惚れてたかもしれない。
問題はそこだ。
俺はまだ自分が女で有る事が受け入れられない。
当たり前だよな?
一昨日までの17年間男として生きて来たのに。
一日や二日で、よーし! 今日から女だ!
って意識を切り替えれる訳ない。
どうしたもんかなぁ、と悩む俺の視界に。
「お前、アルヴィンの聖剣を折って精霊の鎧を引っぺがした奴ニャ?」
猫耳が飛び込んで来た。
俺の視界に、ふわふわした明るい茶髪のショートボブからぴょこんと生えた猫耳が映っている。
顔の下半分は家具に隠れて見えない。
いかにも忍び込んで来ましたってスタイルで俺に話しかけて来た猫耳少女に、俺は見覚えがあった。
勇者様御一行の一人である猫耳娘だ。
猫耳娘は部屋に俺以外誰も居ないのを確かめると、こちらに近づいて来た。
「お前、ハーピーニャ?」
おおぅ、語尾が「ニャ」だ。
ちょっと感動する。
俺が頷くと猫耳娘は俺の足を見て行った。
「あたしはオフャム。取引ニャ。此処から出してやるからあたしを手伝え」
……何ですと?
此処から出して下さる?
「アルヴィンが悪徳国王に捕まったのニャ。アイツ、アルヴィンのおかげでサルガタナスを従えられたのに、恩を仇で返す気ニャ!」
……え?
勇者が危ない所を助けられて無かった?
恩が有るのは勇者の方じゃね?
「アルヴィンが捕まってる部屋はちょっとエグめの魔法で封印されててあたしじゃ開けれないニャ。でもアルヴィンの聖剣でさえ折れちゃうお前ならあんな扉ぶち破れるはずニャ」
ちょっとエグめの魔法って何だろ。
まぁ俺の足ならいけるんじゃない?
オリハルコンでさえ握り潰せたしな!
でも一つ問題が有る。
俺の足にグルグル巻き付いてるミスリルの鎖。
これは鍵が無いと開けれない。
俺が足元を見るとオフャムはキラーンと目を輝かせた。
「ふふん、こんな錠前楽勝ニャ」
オフャムは針金を取り出すと一瞬で錠前を開けてくれた。
すげぇ!
「あたしは勇者パーティーの斥候ニャ。開錠は必須スキルニャ」
やったぜ!
じゃあついでにこの忌々しい隷属の首輪もオナシャス!
俺が笑顔で首輪を示すとオフャムは耳をフニャっと倒して申し訳なさそうに言った。
「……解呪は専門外ニャ」
つかえねー。
しゃーない、自分で取るか。
俺は前後開脚して後ろ足で何とか隷属の首輪を壊そうとする。
「お前、それ自分で壊す気ニャ?」
……一分経ち……二分経ち……。
もうちょっと、後もちょっと……。
「ねぇ、時間ニャイんだけど」
分かってるけど……もうちょっとだからちょっと待って……もうちょっと、もうちょっと……。
……一分経ち……二分経ち……。
ガシッ
っとオフャムが俺の首輪を掴んで持ち上げた。
「悪いけど、待てニャイ。全然もうちょっとじゃニャイし?」




