天弓のアルコ
ねぇ、声の人。
(何よ?)
そろそろアンタが誰か教えてよ。
(その時が来たら教えてあげるわ)
えー、いつまでも声の人って呼ぶのもなんだし名前くらい教えてよ。
(……マルフミーラよ)
マルフミーラは何でエゼルに捕まってるの?
(何でって……内緒よ)
えー、良いじゃん、部屋の外にも出れなくなったし折角だからおしゃべりしようよ。
(しょうがないわねー、じゃあアルコの話をしたげるわ)
アルコ?
(アンタのお母さん)
俺のお母さんの事知ってるの!?
(ええ知ってるわよ。アルコは天弓のアルコって呼ばれてて有名だったから)
天弓?
(天弓って言うのは虹の事よ。虹から放たれた矢の如く敵を貫くって言われてたのがアンタのお母さん)
何で虹なの?
(アルコが呪歌を歌うと濃密な魔力で光がねじ曲がって虹が出来るのよ。あとは、海流を掴んで空に引っ張り上げて虹を作っただとか聞いたけど)
……何それ凄い。
海流を空に引っ張り上げるってもう握力チートってレベル越えてるし。
(握力チート? 何よそれ、アルコの力は反故の趾足って言って、掴んだ物と世界の法則を切り離す力よ?)
世界の法則?
(うーん、何て説明すれば良いのかしら……例えば水は掴めないじゃない? でもアルコの趾は『水は掴めない』って言う法則を無視して水を掴むの)
なにそれ。
(アルコの趾は『世界はこうである』、と言う法則や摂理を反故に出来たの。だから、どんなに硬い物でもアルコは簡単に握り潰してたりしてたわ。)
あー、硬いのを握り潰すのは俺も出来たよ。
此処に来る前にもミスリルとかオリハルコン握り潰したし。
(……は? 何言ってんの?)
?
(え?)
え?
(え? じゃないわよ! 何言ってるの? アンタがオリハルコン握りつぶしたって!?)
サルガタナスにやれって言われて潰したよ。
(なん……てこと……反故の趾足を使えるって事?)
反故の趾足かどうかは分かんないけど。
(アンタねぇ、その力は神が定めた世界の摂理を捻じ曲げられるのよ?)
?
(人間が作った隷属の首輪の呪縛なんて楽勝で反故に出来ると思わない?)
!!
何ィ!
まさかの自由へのマスターキーが俺の足だった!?
マジかよ今までずっと鎖でぐるぐるにされてて使えなかったから試して無かったわ。
じゃあ鎖さえ外れたら問題解決じゃん!
やったー!
(でも鎖が外れたとしても問題は一つ残るわね)
え、何?
(アンタの趾、首まで届くの?)
え?
届くでしょ?
鎖で巻いてあるから首輪を掴んだりは出来ないけど一応検証してみるか。
……あれ?
人間の頃とは膝の可動範囲が変わってる。
頭に膝を付けたりは出来るんだけどなー。
足が長すぎて逆に首に届かない。
柔軟性は有って人生で初めての180度開脚が出来てしまったけど、足で首輪を掴むのは……。
あ、前後開脚した状態で後ろになってる足を曲げたらギリ行けそう。
ぐおお、これキッツ。でも行けそう。もうちょい、あともうちょい、届け……届けえええええ…………。
「……柔軟運動をなさっておられるのですか?」
「ピェ!?」
あーびっくりした。
いつの間にか知らない人達が部屋の中に居たよ。
「お初にお目にかかります、クルト様から踊りと歌を指導するよう仰せつかりました、ベルギットと申します」
「楽師で弟のレンレットです、よろしくお願いします」
…………え?
◇ ◇ ◇
「どうでしたか、午前の授業は?」
「疲れ、た」
疲れたよおおおおおおおおお。
足の鎖外してくれたから一瞬チャンスかなと思ったけど全然そんな事無かった。
エゼルやクルトの命令に逆らえないのと同じようにベルギットとレンレットの指示にも逆らえなかったよ!
この首輪外さないと一生人間に逆らえなくなっちゃうよ!
「ベルギットは飲み込みが早いと褒めてましたよ。声も美しくて才能を感じたそうです」
……そんな事言われてもどう反応すりゃいいのさ。
褒められたらそりゃ嬉しいよ。
今まで碌に褒められた事無い人生だったしさ。
踊ってみたとか歌ってみたとか、ずっと低評価で再生数も無かった俺に才能が有るって?
えへへー。
あれ、めっちゃ嬉しいわ。
俺チョロいなー。




