最初の展開雑に端折らないで
「こういう展開に鍛えられてる兄貴はもう大体分かっちゃってると思うけど一応説明するね。今の兄貴の現状は、『異世界に転生して体がハーピーになっちゃった!?』って感じだよ。良かったね、ずっと来たがってた異世界に来れたよ」
溺れかけてシャッキリした頭の中に操夢ちゃんの雑な説明が入って来た。
いや、本当に雑。
薄々、これ異世界転生かも! とか思ってたけど!
もっと困惑させて! 戸惑わせて!
最初の展開ガッツリ端折らないで!
「もう、アヤム、お兄様にいい加減な嘘つかないの!」
「えー、兄貴に飲み込み安いように噛み砕いてあげただけじゃん?ね?」
ね? って言われても。
え、どういう事、今俺嘘付かれたの?
ここ異世界じゃないの?
「お兄様、正確に言うとお兄様は転生された訳では無いのです、お兄様はその卵の中で長い間夢の中に居たのです」
「で、今生まれたの、だからこっちが本当の世界。兄貴が今までいたのは夢の中の世界で、夢の中では人間だったけど兄貴は本当は元々ハーピーで女の子なの、おっけー?」
……おぅ。
何か思ってたのより変化球だった。
あっちが異世界でこっちが現実のパターンだった。
まぁ俺は元々こういう展開になった時に『現実世界に帰るんだ!』ってならないタイプの人間だったけど。
実際に元の世界に帰れないって言われると結構焦る物がある。
そもそもこの二人の言う事を信じても良いのか?
俺ちゃんとあっちで17歳まで成長してたよ?
いや、17まで親も友達も彼女も居ない人生がちゃんとしているのかはともかく。
ん?俺親居なかったっけ?
あ、そうか施設で育ったんだ。
あれー、記憶が所々曖昧だぞ。
んん? 今更だけど親が居ない俺に妹が二人も居るのおかしくね?
って言うか自称妹を名乗る見た目どう見ても悪魔なこの二人を、何の違和感も無く抱いてた俺馬鹿じゃね?
あれ、冷静になったら怖くなって来た。
「ほらー、兄貴固まっちゃったじゃん、やっぱいきなり現実突きつけるべきじゃなかったんだよクルム姉優しくなーい」
「どうせ後で分かる事なのだから最初に全部話した方が良いでしょう?」
「……」
この時の俺の気持ちを理解して貰えるだろうか。
昨日散々女の子と楽しんで眠り、朝起きて相手の姿をよく見たらあれあれ、こんな容姿の子だったかな?
的な。
それの、一週間散々色々とヤっちゃった女の子達、よく見たらあれあれ、どう見ても悪魔でした!
バージョンである。
前者はまぁ、性欲の暴走が成す若気の至りで済ます事も出来るだろう、経験無いけど。
でも後者は有り得なくないか?
え、前者も何言ってるのか理解できない?
そっかー。
「あれ、何かもうウチらのヒュプノ、破られてない? プライド傷付くなー」
「まぁ、流石ですわお兄様。生まれたてでもうそこまで高い耐性をお持ちだなんて」
むくれているている操夢ちゃんとは対照的に繰夢ちゃんは嫣然と微笑んだ。
今の発言から推測すると、どうやら俺は操られていたらしい。
そう言えばアッチの世界で、肉体的なアレコレ以外にもすっごい高いバッグとかスマホをねだられるままに買い与えてたような気がする。
あれ?もしかして俺って今ピンチなのかな?
もしこっちが現実だとして、俺の両親的な存在は何処?
両腕が翼で両足がチキンレッグな俺と目の前に居る二人は種族的に見ても兄弟ではない。
「そんなに警戒しないでくださいませ、私達は貴方を守るために此処に居るのです」
そう言うと繰夢ちゃんは俺の前に跪いて自己紹介をした。
「私はクルム、夢の世界ではお兄様の妹として繰夢と名乗っておりました」
「ク……ル……」
クルム、繰夢、読みは全く一緒だ。
名前を呼ぼうとして、声が上手く出せなかった。
口の中ねちょねちょなんすよ。
何で? 生まれたてだから?
「フフ、説明する前にまずはいろいろと綺麗にしましょうね」
そう言うと操夢ちゃんは俺を抱え上げた。