下腹がムカムカする
「父上!」
俺が涙目でエゼルにのしかかられているとクルトが扉をバーンと開けて飛び込んできた。
「何をなさっているのですか! その子は私に下賜されたはずです!」
「……しかし、お前は手を付けなかったんだろう?」
「っ!」
「気に入らなかったのなら返せ」
「気に入っておりました! 気に入っておりましたから返してください!」
「……ふむ」
エゼルが退くと俺は急いでクルトやエゼルの位置から反対側にベッドから転げ落ちた。
怖い。
身体がガクガク震えて止まらない。
「クルト、気に入っていたのなら何故手を付けなかった?」
「私は父上ではありません! 私には私の考えが有るのです!」
「考え、か」
エゼルはカツカツとクルトに近づいて行くといきなり拳を振るった。
「お前の考えなど知らぬ。出された料理はすぐに平らげろ、器を愛でるような真似をするな」
「女性は、料理ではありません!」
エゼルがクルトを叱責しだした。
ベッドを挟んだ向こう側でのやり取りを見ていると突然アヤムちゃんが話しかけて来た。
「惜しかったねー兄貴。ってちょっと兄貴めっちゃ震えてるじゃん、大丈夫?」
「うううううううう」
怖かった。
アヤムちゃんの言う通り震える身体が止まらない。
でもそれ以上にアヤムちゃんを守ってあげられなかった自分が情けなくて嫌になる。
「アヤムちゃんごめん、守ってあげられなくて」
「何言ってんの兄貴? あー……気にしなくていいよ、ウチらみたいな悪魔は身体をエーテルで形作ってるだけだから。」
「えーてる?」
「うん、見ててね」
そう言うとアヤムちゃんはほっぺに人差し指をプニッと当てた。
おおー、人差し指を当てた所から肌が小麦色になっていく。
「じゃーん、黒ギャル風。似合う? うちら悪魔にとって肉体って言うのは、うーん……兄貴に分かりやすく言うとアバターみたいな感じかなー。魔力を使えばこんな風に見た目もある程度変えられるし、一回リセットして作り直せば生まれたての新品って事。それにウチら夢魔にとってはこういう事って食事と一緒だから、毎食気にしてたら餓死しちゃう、ウチが言いたい事分かるかな?」
「……分かった」
「うん、良かった。じゃあ兄貴こっち来て、抱っこしたげる。あーもうめっちゃ震えてるじゃん、かわいそかわいそ」
俺がアヤムちゃんに慰められているとエゼルとクルトのやり取りは一段落ついたのかこちらを見て来た。
「おいアヤム、その肌の色はどうした」
「黒ギャル風イメチェンだよー、似合います?」
「元に戻せ」
「えー、折角イメチェンしたのに」
「変化させられるのは肌の色だけか?」
「んーん、年齢も身長も骨格も変えれるよ」
「何!? 何故昨日言わなかった!」
「聞かれなかったし?」
エゼルはアヤムちゃんに胸も大きく出来るのかとか伸長を低くできるのかとか色々聞き捲っている。
さてはロリ巨乳好きかこいつ。
アヤムちゃんとエゼルのやり取りを見てると下腹がムカムカする。
何か親しげになってない?
「アスカ、いつまでそこに居るんですか。部屋に戻りますよ」
俺はクルトに抱きかかえられて部屋に連れ戻された。
(惜しかったわねぇ、もうちょっとでエゼルとヤれてたのに)
ふざけんな。
アヤムちゃんも言ってたけど『惜しかった』の意味が分からない。
何でアヤムちゃんも声の人も俺がエゼルにヤられちゃった方が良いと言うていで話しかけて来るのか。
(それは説明できないのよねー、アンタが強く聞き出されて喋っちゃったら警戒されちゃうし。まぁ何でも良いから次は上手くヤられなさい)
断る!
◇ ◇ ◇
クルトはハーピーを抱き上げてエゼルに一礼すると、退室して行った。
残された部屋でエゼルはどっかりとベッドに腰を下ろしてアヤムを抱き寄せる。
「全く、アレも世継ぎを作る前に死ぬかもしれんな」
「王子様の事心配なの?」
「それなりにな、あれは俺の子の中ではましな方だ。お前を躱してあっちのハーピーを選ぶ所といい、危険を察知する能力もある」
「あは、ウチの何処が危険なの?」
「危険だとも、俺が午前の執務を放り出してしまうくらいにな」
「きゃん♡」




