あっ、察し
俺が呼び戻されたのは宮殿の中のエゼルの部屋のバルコニーの様な場所だった。
「何を自由に飛び回っている。クルトはどうした……ん?」
エゼルは俺の首輪を乱暴にグイっと引っ張った。
イタタタタ、もうちょい優しくしてくれよ。
「お前、昨日より明らかに成長しているな、どういうことだ?」
「分からない。起きたら大きくなってた」
本当に分からないんだからこう答えるしかない。
エゼルは俺を頭のてっぺんから足の爪まで見回すと顎を掴んでクイっと顔を持ち上げて、今度はじっくりと顔を見つめる。
うわー、顎クイされちゃったよ。
「ふむ、美しいな。やはりクルトにくれてやったのは惜しかったか。こんなに早く成長すると分かって居れば俺の手元に置いていた。何故黙っていた?」
「知らなかった。成長した原因、分から、ない」
あれぇ。
何だろう、エゼルの目を見てたら頭がぽーっとして心臓がドキドキして来たよ?
思考が、まとまらない。
身体が、熱い。
「ん? ……お前、昨日はクルトとどうなった、夜伽の相手はしたのか?」
「クルト、すぐ寝た」
「ハッ、またかあいつ。全く奥手な奴だな」
エゼルは後ろに控えていた従者にクルトを呼んで来るように伝えるとこちらに振り返った。
俺は振り返ったエゼルにとてとてと近づいてキュッと抱き着く。
何故こうしたのかは分からない。身体が勝手に動いていた。
「鬱陶しい」
ガッと蹴られて倒れた。
痛い。
「何だその顔は。何を発情している」
発情? 俺が?
「昨日と随分と態度が違うではないか。何を企んでいる」
エゼルが俺の目を覗き込んで来た。
エゼルの目はダンジョンの中で見た時の、模様が浮かんだ目をしていた。
(何よこいつ、魔眼持ちじゃない! ちょっとアンタ、何で言わないのよ!)
魔眼って何?
(ああもう、何の魔眼よ!)
「答えよ、何を企んでいた?」
「空を飛んで、逃げようとした」
「他には?」
「?」
「……ふむ……魂を見た限り、嘘は無いようだが……」
(魂? …………うっそ、もしかしてこいつの魔眼って見魂眼? っぷははははは何それビビって損したわははははは。ざーこ!ざーこ!)
けんこんがん? 何?
「ざーこ?」
「何?」
「けんこん、がん? ざーこ?」
「…………ほぅ」
ガシリと、首輪を握って持ち上げられた。
苦しい。
「良い度胸だ」
エゼルは俺を部屋の中に引っ張り込むとベッドの上に放り投げた。
「ん? 兄貴もう来たの?」
なんとそこにはアヤムちゃんが居た。
何で?
……あっ、察し。
察すると同時に俺の頭は一瞬で覚醒した。
と言うかさっきまでの俺は一体どうしてたんだろう。
急に頭の中がぽわぽわして思考がまとまらなくなってしまった。
いや、そんな事は取り合えず後回し。
今はアヤムちゃんだ!
アヤムちゃんは気怠そうにシーツを纏っている。
シーツ以外は何も身に着けていない。
ベッドの上でシーツだけを纏う美女。
ゆうべはお楽しみでしたね!
ふざっけんなああああああああああ!!!
「っっ~~~!! っっあっっ~~~~かっ~~~~!!」
くそぉ、エゼルに罵詈雑言を浴びせてやりたいけど隷属の首輪のせいでそれらの暴言は発せられない。
俺が言葉を発する代わりに手足をバタバタさせているとエゼルが覆いかぶさって来た。
「急に発情したと思ったいきなり挑発して来て今度は暴れ回るか、分からん奴だな」
俺だって何でこんな事になってんだか分かんねーよ!
でもこいつが昨夜アヤムちゃんにやった事は容易に推測出来る!
俺はこいつを許せねぇ!
「そこの夢魔はお前の何だ? 友達か?」
エゼルが俺を押さえつけながら聞いて来る。
隷属の首輪が有るから命令されたら俺はおとなしくなるしかない。
しかしエゼルは命令する事も無く力づくで俺を押さえつけながら服を引っ張る。
離せよ!
破けちゃうだろ!
「っっかっ、かぞくっ」
「家族? ハハッ、夢魔とハーピーが家族か。フハハハハ、これは良い。そうか、それで怒って居たのか」
何がおかしいんだこいつっ!
「しかしハーピー。怒って状況が呑み込めていないようだが、お前も今から同じ目に合うぞ?」
「ピェ?」
此処はベッドの上。
俺はエゼルに押さえつけられ。
着ていた服を剥ぎ取られた。
……あっ、察し。
やべーぞレイプだ!
どどどどどうしよう!?
昨夜アヤムちゃんに起きた事が今まさに俺に起きようとしている!?
アヤムちゃんと目が合うとアヤムちゃんはにっこりと笑ってサムズアップして来た。
助けて!
両翼を頭の上で片手で押さえつけられる。
空いた方の上が身体をまさぐって来た。
足を開かれてエゼルの身体が内股に割って入る。
ヤバイって!
「――っ!」
「つっ!」
エゼルの手に噛みつくと一瞬怯んだのか身体が離れた。
あっっぶねぇぇぇぇぇ
一瞬の隙を突いてこのまま逃げ――
「動くな」
「っ!」
エゼルに命令されると身体が動かなくなってしまった。
「少し遊び過ぎたか。しかしまぁ、マグロを抱いてもつまらんしな。」
エゼルは腕を伝う自分の血をペロリと舐めるとニッと笑った。
「俺に怪我をさせない程度に抵抗して良いぞ」
「っ!」
こいつ、最低だ。




