ミッドナイトでノクターンな夜
口の中を変な味のする液体でくちゅくちゅ濯いだら歯磨き終了である。
クルトに聞いたらこの液体はスライムの一種で、口の中に残った食べかすやら付着物やらを全部取ってしまうらしい。
何それ異世界すげー。
あっちの世界より便利じゃん?
などと思考を飛ばして現実逃避しているとベッドに運ばれた。
まじかー。
そうだよね、ベッドこれしかないもんね。
まぁこのベッド見た事無いくらい広さあるし、端と端に寝たらフィジカルディスタンスは十分とれるよ、うん。
と思ってたら抱き枕みたいにギュッとされた。
近い近い近い近ーい!
密です!
完全密着だよ!
「アスカは良い匂いがしますね」
クルトがスンスンと俺の匂いを嗅いで来る。
おい馬鹿止めろ。
気持ちは分かるよ?
俺もあっちの世界ではクルムちゃんやアヤムちゃんをクンカクンカしまくったさ!
でもやられて初めて分かったわ。これ、嗅がれる方は嫌悪感ヤバイ!
てか俺風呂入ったばっかりだしどう考えてもお前がぶっかけたボディソープの匂いだよ!
絶対お前からも同じ匂いがしてるよ!
ええ、どうしよう。
ミッドナイトでノクターンな夜が始まってしまう。
ん? ミッドナイトと夜で被ってんな?
いやどうでもいいよそんな事!
このままだと生まれて初日にして俺の貞操がヤバイ!
男として17年生きたから俺は知ってるんだよ!
男は狼だって!
据え膳喰わぬ奴なんかいねぇ!
飯食って風呂入ってベッドの上でやる事なんて一つだよ!
「…………スー」
寝たよ!
ええ、マジかよクルト君。
君は今一千万人の読者の期待を裏切ったよ!
え? そんなに居ない? そっかー。
とは言え助かった。
風呂に入ったのにもう汗かいちゃったよ。
もがくけどクルトはがっちりホールドしてて離れないし。
汗の匂い嗅がれるの、嫌だなー。
「んー…………かあ…………様……」
「…………」
クルトの母さんってどんな人なんだろう。
風呂に入ってる時に母親は居ないって言ってたけど、昔は居たんだろうか?
今は居ないって事なのかな。
俺の母親はどんな人だったんだろう?
サルガタナスの話だと魔王を握りつぶしちゃうくらい凄い人だったらしい。
クルムちゃんとアヤムちゃんに俺を託した後死んだ。
何故死んだ?
俺を産んだからだ。
何で俺なんか産んだんだろう。
「…………」
あっちの世界に居た時、俺は施設の中で暮らしていた。
何で、あっちの世界で俺には家族が居なかったんだろう?
クルムちゃんとアヤムちゃんとの出来事を抜きにして、俺の人生において家族と言う物は羨むものだった。
学校の授業参観の時、クラスの奴等の母親を見て羨ましいと思った。
学校の運動会の時、自分の子供の名誉の為に一生懸命走る父親が羨ましいと思った。
卒業式の時、両親と記念撮影を撮る同級生を羨ましいと思った。
俺には両方いない。
記憶も無い。
そもそも設定されていなかった。
何故だ?
どうせ夢の世界なら。
偽りでも良いから家族が欲しかった。
「かあ………………さ…………」
クルトの奴、お母さんの夢見てるのかなぁ。
男として17年生きたから俺は知ってるんだよ。
男は皆ナイーブで。
甘えんぼで。
マザコンだ。




