銀閃が閃く
エゼルがアヤムちゃんとサルガタナスを連れて去って行く。
「はぁ、全く、こんな幼児を閨に入れたら民にどう思われる事か、父上は奔放が過ぎます」
クルトはそう言うとエゼルと同じサラサラの金髪をかき上げながら悪態をついた。
あれー、何かエゼルの前だと猫被ってたっぽいぞこのショタ。
「この足では歩かせられませんね。ディーツ、運んであげてください」
クルトが命令すると護衛の男が俺を小脇に抱える。
俺の足は開けないようにミスリルの鎖でぐるぐるにされてしまっている。
無理をすれば歩けない訳では無いが痛いし遅い。
ダンジョンから此処までは勇者のパーティーメンバーのドワーフっぽいおっさんが運んでくれたけど、その人も勇者やエゼルと一緒に行ってしまった。
って言うかドワーフ見ちゃったよ! 後猫耳娘も!
悪魔見た後だからインパクトが若干下がっちゃったよね!
◇ ◇ ◇
王子の部屋まで荷物のように運び込まれる。
何か俺自分の足で移動するより人に運ばれる方が多い気がするなぁ。
「さてと、まずは自己紹介しましょう。僕はクルト、この国に沢山いる王子の一人です。そっちの彼はディーツ、僕の護衛です。君の名前は?」
クルトが穏やかに微笑みながら俺に尋ねて来る。
正直さっき悪態ついてる所見ちゃったから猫被ってるのバレバレなんだよなー。
「お……わ、たし、は……アスカ」
ショーック。
一人称「俺」が使えなくなりました。
いっそ僕っ子になってやろうかと思ったけどクルトと被るし止めた。
「アスカは何が出来ますか?」
ええー、何この質問。
え? これ面接? 面接なの?
こんなの職業訓練の授業で一回しかやった事無いよ。
生まれた当日にもう就職面接とか異世界ハードモードかよ。
「わから、ない、今日、生まれた」
「今日生まれた?」
「今日、卵から、産まれた。孵化した。孵った」
「ふーむ、今日卵から孵ったのに、もう喋れるのですか?」
「卵の中、学ぶ、夢」
「へぇ、ハーピーはそう言う習性なのですか」
「違う、お……わたし、だけ、特別」
やべぇ、質問された事にペラペラ答えちゃうよ。
何コレ、隷属の首輪思ってたよりやばいかも。
「特別……面白いですね。卵の中では言葉以外に何を学んだのですか?」
「国語、社会、算数、数学、理科、生活、音楽、ダンス、美術、図工、工作、家庭科、体育、武道、道徳……」
うわぁ! 何喋ってんだ俺の口! 止まれ止まれ!
「は? 社会? 道……徳?」
クルトがディーツと目配せするもディーツは肩を竦めた。
いや、まぁ困るよね。
「アスカ!」
「ピェ!」
クルトが俺の肩を掴んだ。
怖いよー、目が座ってるよー。
「もっと、色々教えてください」
◇ ◇ ◇
「つまりアスカの母様は異世界から転生して来た者で、アスカはその母様の故郷の夢を卵の中で見ていたわけですか」
「そう、です」
「ふぅん……ふぅん、面白いですね」
やばいよー!
あっちの世界で読んだ小説とかだと主にこう言う転生者的情報はトップシークレットなのに!
全部しゃべっちゃった!!
何か腹黒感あるショタに全部しゃべっちゃったよ!?
「聞きましたかディーツ?」
「はい、驚きました、まさかハーピーがこんなに知識を持っているとは」
ああ、ディーツがさっきまでと明らかに違う目で俺を見てるよ。
そりゃそうだよね、目の前の怪物が実は自分より高学歴とか。
本来人間のアドバンテージである知識で劣っていると言うのは、人間にとってこの上ない恐怖の一つだ。
「僕もびっくりですよ。ディーツ、剣を貸してください」
「はい」
え、嘘、まじで?
終わるの?
俺今日生まれたばっかりなのに?
クルトがディーツから受け取った剣を鞘から引き抜くと、銀色の刀身が俺の姿を映してきらめく。
クルトの表情からは何も読み取れない。
さっきまで愛くるしく笑っていた少年の顔とはまるで別人だ。
小さくてもちゃんと王族なんだなー、と思った。
まじかー。
まじでかー。
俺の人生短すぎでしょ。
まだ何にもしてないよ……。
ヒュッ
銀閃が閃く。
ゴトッ
首が落ちた。




