俺の両腕が翼になっている
どうしてこうなったのか分からない
冷静になって考えてみれば、今年高校を卒業しようという俺に、同い年の妹が突然二人も出来るなんて有り得ない。
その自称妹達の頭に角が生えていたり、背中に蝙蝠羽が付いていたり、スカートの中から悪魔尻尾がにょろりと出ていたり、俺の事をお兄様♡とか、兄貴♡とか呼んでくれて、初対面から好感度が100%を振り切っているなんてことも有り得ない。
ましてや、そんな妹達に出会った日の夜に、童貞を奪われてしまうなんて、冷静に考えれば有り得ようはずがない。
そう、俺は、冷静ではなかった、何故だ!?
童貞だったからだ!!
いられる訳ないだろ!
彼女いない歴=自分の年齢の俺に。
それこそ童貞の妄想の中にしか存在しないようなこんな美少女達が現れて。
冷静でいられる奴が居たらそいつは男じゃない!
どう見ても悪魔的要素満載だろうと関係ない。
いや寧ろ悪魔でいい。
この17年の間に人間の女が俺に何をしてくれた?
何もしてくれちゃいない。
自分から行動しろ? 死ね!
俺は俺に優しくしてくれるなら悪魔に魂を売ったって良い。
こっちから売り込みたいくらいだ。
お安いですよー、いかがっすかー?
そんな訳で俺のチェリーは出会ったその日に妹を名乗る少女達に美味しく頂かれてしまったのであった!
お粗末!
◇ ◇ ◇
「……んー……」
目が覚めるとまだ外は薄暗かった。
妹達と出会ってから今日までの一週間は正に我が世の春状態だった。
人生でこんなにも幸福だった一週間がこれまであったろうか? いや無い。
世間が自粛と自宅待機でてんやわんやなこのご時世に、二人の妹と自宅待機で濃密な濃厚接触である。
今日までの甘やかな記憶を思い返しつつ、隣で寝ているだろう妹達のおっぱいを堪能しようと伸ばそうとした俺の両手は。
硬い何かに阻まれて止まった。
「……?」
気が付いたら俺が寝ていたのはベッドの上ではなかった。
何か硬い入れ物の中に閉じ込められてしまっているようで、手も足も折り畳み体育座りのような体制で丸まっている。
ズボッ
「!?」
少し足で壁を押したら簡単に貫通してしまった、どうやらこの壁は相当に薄かったらしい。
足が貫いた場所からどんどんひびが入り、砕けると外から光が入って来た。
パキパキ、カラカラ
壁が崩れて体に降って来る。顔に掛かって来る破片が煩わしく、腕で顔を庇おうとして腕にふわふわした羽が付いて居る事に気が付いた。
羽だ。
と言うか、翼だ。
俺の両腕が翼になっている。
「ああ、孵りましたわね」
「やっぱり、まだ未成熟じゃん」
「多少未成熟でも仕方がありませんわ、こうするしか方法がありませんでしたし」
「そうだな……」
声がした方を向くと男が一人と少女が二人立って居た。
少女達の顔には見覚えがあった。
いや見覚えどころではない。
そこに居たのは俺の妹、繰夢ちゃんと操夢ちゃんだった。
「……繰……?」
繰夢ちゃんを呼ぼうとした俺は困惑した。
俺の喉から出てくる声音は明らかに昨日までの声と違っていた。
と言うか女の声だ、俺の喉から女の声が出ている。
「まだ意識ははっきりしていないようだな、では、後の事は任せる」
「かしこまりました」
「りょうかーい」
繰夢ちゃんが恭しく頭を下げ、操夢ちゃんがだるそうに手をひらひらと振ると男は何処かへと去っていった。
「さーてまずは、あー、まずは洗いますか、生まれたてで粘液ねちょねちょだし、洗ったらシャッキリするでしょ」
そう言ったのは操夢ちゃんだった。
操夢ちゃんが指を振ると何処からともなく水が出てきて俺を包み込む。
「~~~~~っぷわっ~~~~ぶふっ~~」
顔まで水が迫ってくると何処かぼーっとしていた意識が溺れるかもしれないと言う恐怖で覚醒した。
ばたばたと翼を振って水から逃れようともがく。
「アヤム、もっと優しく丁寧に出来ないのかしら?」
「は?やってるじゃん、この上なく優しく丁寧に洗ってるよーだ」
お付き合いいただけたら幸いです。