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エピソード5.未知なる森へ❺

『セリーヌ滝を見に行ってみよう』これは俺から提案した事だった、彼女の気持ちも考えずに無理矢理嫌な過去を話させてしまった罪悪感もあり、良い気分転換になればとの思いもあり、後は俺自身ももっとよく見える場所でセリーヌ滝を見てみたいと思ったからだ。


「…すっげー!!ここからだと良く見えるぜ?ほら、見てみろよ?」


セリーヌ滝の間近とまではいかないが、本当にこの開けた場所からはよく滝が見える、俺はティティスに場所を譲って見せる。


「………本当に……あの頃のままだわ………」


ーーゴォォォォ!

少し近付いた場所に来ただけでも滝の轟音と、水飛沫が凄い、それだけであの滝の大きさと迫力が分かる。


「…でも、まじでこんな滝俺の世界では見た事ねぇよ。やっぱ異世界ってすげーって思うわ」


「……アンタってさ、よく異世界最高とかテンション高めに言ってるけど、こっちの世界ってそんなに良く見えるの?」


「んー、良く見えるっつーか……ただ単に憧れてたからかな?」


ティティスは俺を真っ直ぐに見つめ次の言葉を待っている。


「俺さ、元の世界に居た頃って…全然生きてる実感がしなかったんだよ。何をしても楽しくなくて…ずっと違う世界に行ける事を夢見ながら生きてたんだ。だから、今の俺の状況って想定してた内容とは違ってたりする事も多いけど、夢が叶ったようなもんなんだよ。…だから、そう言う意味では良く見えているのかも知れないんだけど、こっちに来て色んな人達と出会って、大変な事の方が多い気もするけど、それでも今はすげー充実感がある、生きてるって感じる。こんなすげー滝も見れたしな」


俺の言葉を最後まで聞き終えたティティスは、複雑そうな表情で答えた。


「…それでも、やっぱり私には良い世界には見えないわ」 


彼女はきっと、まだ俺が知らないような色んな苦しみを味わってきたのかも知れない。


「…でも」


徐々に朝日が差し掛かり、次の言葉を続けようとするティティスを眩しい光がチラチラと照らしている。


「…でも、この世界に来たのがアンタで良かったかも…」


「………」


散々泣き腫らした瞼のせいでいつもより子供っぽく見えたせいか、突然そんな事を不意打ちで言われたからか自分でも分からないが、そう言って笑ったティティスの笑顔にドキッとしてしまい、俺は完全にリアクションを取れずにいた。


「…何か言いなさいよ?」


「あー、うん。まぁ…アレだな、そう言ってもらえる事は嬉しいかな…やっぱり…」


恥ずかしさのあまり頭をガシガシと掻き、極力平然を装いながら答える。


「…イチロー」


「…ん?」


「…話、聞いてくれてありがとう。…ちょっとスッキリした…」


「…お、おう。…また、いつでも付き合うよ」


「うん」


「………」


お互い相手が喋るのを待っていたようで、結果的に暫くの間無言で見つめ合ってしまった、それが気まずくて、妙に照れ臭くて俺は視線を逸らし適当な話題を振った。


「…あ…て、てか…もうこんな時間になっちまったな?……勇者が起きて心配してたらいけないし、そろそろ帰るか?」


「そうね」


俺の提案にティティスも頷き二人で来た道を引き返す、不意に見せてきたティティスの柔らかい表情に今だドキドキしている俺とは対照的に、隣を歩く彼女の横顔は言葉通り少しだけ晴れやかになっていた。


きっと彼女の生き甲斐は世界の力になる事、誰かの力になる事だ、それだけに目標が高く隣で戦う勇者と自分を比較して、まだ力が全然足りないって思い込んで、成長できているはずの自分の力に気が付かないで、ずっと劣等感や焦る気持ちから自分を攻撃してばかりなのだろう、彼女の攻撃的な性格はこうゆう所からきているのかも知れない。


『正直、世界を救う為なら自分は犠牲になってもいいって…何か死に急いでるようにしか見えなくて』


再びコーネリオンの言葉を思い出す、改めて幼なじみの彼等がティティスを心配する意味も分かったような気がした。


ーー突然森の雰囲気が変わり、緊張感が走る。

俺より先に異変に気が付いたティティスは既に周囲を警戒している。


「……何か……来るわよ…!」


「あ、あぁ…!」


俺は武器を取り出し構える、この森のざわつき感はつい最近も経験した奴だ。


「グガァァァァァ!!」


突然雷のように、聞き慣れたモンスターの咆哮が響いた。


ーードンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

そして、なんの運命の因果かわからないが俺達の目の前に、地響きのような足音を響かせながら再び色違いのテュランノスが現れた。


「……テュランノス!?」


「…えぇ。もう一匹居たのね…」


ティティスは、不安そうな表情で俺にもう一度あの質問を投げかけてきた。


「…ねぇ、イチロー?…さっき言ってくれた事って本当?」


テュランノスを前に恐怖で表情が顔張るティティスの身体は見間違いなんかではなく、震えている。


「本当に…私だけの力で、テュランノスに勝てると思う…?」


あの話を聞いて俺の中で全てが合致した気がした、昨日テュランノスと戦う前に一瞬ティティスの足が震えているように見えたのはやはり間違いなんかじゃなかった、彼女は恐らくテュランノスに対して恐怖のトラウマがある、それが原因で上手く対応出来なかったに違いない、だがティティスの攻撃が命中した時、テュランノスに確実に大ダメージを与えられていた、要するに彼女に自信さえ持たせれば、本来の彼女のコンディションで挑めばあのモンスターは倒せない相手ではない。


「絶対に勝てる!つか、今のお前なら楽勝で勝てる!俺が保証する!だから、だからさっ」


俺はティティスの恐怖を吹き飛ばせるように、自信を持たせるように出来るだけ明るく、敢えて軽い口調で、笑いかけるように言った。


「…だからっ…めちゃくちゃ強くなってカッコよくなったお前の姿、この場所でお前のお父さんに見せてやろうぜ?」


グッと親指を突き立てティティスに向ける、そんな彼女は再び泣きそうな顔で笑った。


「……もぉ、アンタのその自信…ほんっと何なのよ。…でも、そうね…今はアンタの言葉に騙されてやってもいいかも…」


彼女は俺に聞こえないような声で小さく『お父さん』と呟いたように見えた、そしてその一瞬で気持ちを切り替えたのか、彼女はいつもの勝ち気で力強い表情に戻っていた。


「グガァァァァァ!!」


うるさいくらいに咆哮をあげ続けるテュランノスを静かに闘志で燃えた瞳で捉えるティティス。彼女はそのままの姿勢で後方に居る俺に声をかけてきた。


「ねぇ、イチロー」


「何だよ?」


「…やっぱ、何でもないわ!!」


その言葉を最後にティティスは全力でテュランノスに向かい特攻を仕掛けた、彼女はそのまま凄いスピードでテュランノスの脇腹に体当たりのような姿勢で突っ込んだ。


ーードガッ!

『グゥ!?』と苦痛の鳴き声をあげるテュランノスは、前回同様口を大きく広げ炎を吐き出そうとし始めた。


「……させないわよっ!?」


ティティスは、テュランノスの脇腹を激しく蹴り、炎を吹き出そうとする顔面目掛けて高く飛び上がった、そして拳を大きく振りかぶり、テュランノスの右頬に関心の一撃をぶちかました。


「グギャァァァァア!?」


余りの激痛にテュランノスは炎を出す事を辞め、その場でのたうち回った、完全に戦意喪失しているようだ。


ーーそこからティティスが、テュランノスを倒すまでは本当にあっという間だった。


「…すげぇ」


一人で倒せると想定していたがここまで秒殺出来るとは正直予想していなかった、この結果こそが彼女の実力を証明している。

意外と呆気ない終わりに戸惑いを隠せないティティスは先程の力強い表情とは打って変わって何とも言い難い表情で俺に助けを求めてきた。


「…イ、イチロー……あのっ……私っ……」


「素直に喜べよ」


その言葉でティティスはまた泣いた、しかし今度の涙は悲しいから、辛いから泣いているんじゃない、正真正銘の『嬉し涙』だった。


「……勝てたっ……私っ…テュランノスに勝てたっ…」


「あぁ…まじでお前はすげー奴だよ。あんなクソみたいに強いモンスターをこんなにあっさり倒せるんだから」


「…も、もうっ……今日は本当に駄目だわ…アンタなんかの前でこんなに泣いてっ…」


ティティスは再び俺から顔を背け涙を拭う。

『アンタなんか』って言葉がなんともティティスらしくて俺は思わず吹き出し笑ってしまった。


「………何よっ…」


俺に笑われ、不貞腐れたようにコチラをチラ見してくるティティス。

やっぱりコイツはいつも見たいに毒づいてくる方がコイツらしくて俺は好きだなと思った。


「…いや、悪い。こんな時にでもお前口悪いんだなって思ってさ」


「…くっ…口が悪くて悪くて…悪かったわねっ!」


鼻をすすりながら怒るティティスは何とも迫力の無いものだった。


「つーか、もう分かっただろ?」


「……何が…?」


「お前は強い。ビックリするくらい強い。それは近くに居る俺が一番分かる、だからどんなに頑張っても無駄だって言うなよ、自分なんかって言うなよ」


「……………」


「ちゃんと強くなってんじゃねーかよ。自分の頑張りを、自分自身をこれ以上否定すんなって」


「……………でも」


急にシリアスな話を振った俺の言葉を無言で聞き続けていたティティスが口を開いた。


「……でも、やっぱり私は…まだまだだって思う…勇者と比べると本当に私は弱くて、全然駄目で凄く焦る気持ちがまだある……でも、でもね…」


俺はティティスの言葉に頷きながら、その後の言葉を待つ。


「…でも、アンタの言ってた事…少し分かったような気がした…」


「俺の言ってた事?」


するとティティスはビシッと人差し指を立て、あの時の俺の口調を真似て言い切った。


「テュランノスを一人で倒した!」


「………」


俺がキョトンとしているとティティスは恥ずかしそうに口調を戻し、捲し立てるように補足を入れてきた。


「…だ、だから。…アンタの言う通り私の努力は無駄にはなってなかったんだなって……その事はちゃんと気づけた。…正直まだまだ勇者の隣に立つには全然なんだけどさ…」


「そっか」


「…そうなのよ」


もう泣き顔を見られたくないようで、さっきからコチラをチラチラとしか見てこないティティス。


「…何か…文句ある?」


「は?文句なんかねーよ。お前が少しでも自分を信じられたんなら良かったなって思って、そっかって言っただけだ」


「…ふーん」


「つか、そろそろ帰るか?まじで勇者起きてんじゃね?」


「…そ、そうね!」


かなり長い道草を食ってしまった俺達は今度こそ帰る事にした。


ーー帰り道の途中にすっかり泣きはらした瞳のティティスに俺は問い掛ける。


「そう言えばさ?…テュランノスと戦う前、何て言おうとしたんだ?」


「………あー、アレね?………うん、何でもない…」


は?何でもない訳がない。

逆にこう歯切りが悪い事を言われると非常に気になるものだ。


「いやいやいや、言えよ!……それともアレか?アンタの名前を呼んでみたかっただけよ的な思春期のアレか?」


「そんな事ある訳ないでしょ!?」


「じゃあ何だよ?」


「………いや、だから…」


ティティスは少し言いづらそうに言葉を続けた。


「…アンタに魔の森に入った時から不機嫌だったって言われてたから…もう色々話しちゃったついでに、この戦いが終わったらもう一個の話も聞いて貰おうかと思って…」


「ほぉ、では聞こうか?」


「…でも、やっぱりいいわよ。…あまり楽しくなる話じゃないし…」


「何だよ、言えよ!モヤモヤするだろ?」


「……う、うん……なら言うけど…」


俺の圧に負けて、ティティスはその話を語り出す。


「……実は私、王様の息子のエリアード様に…その凄く言い寄られていて、何度も断っているのに、本当にしつこくて…凄くあの人嫌なの。…でも最近は権力を使って断り辛い状況をどんどん作られてて……それが凄くストレスで…正直あの人の顔を見るだけで凄く嫌な気分になるのよね…」


あー、これはアレだな。

俺やっちまった的なアレだな。

しかも、ティティスは戦いを前にアドレナリン全開のノリで咄嗟にこの話をしようと思ったのだろうが、恐らく後々になり冷静に考えて俺に対する配慮を込めて話をしないでくれたのだろう、そして、俺はそんな彼女の配慮など気にも止めず、アホみたいにこの地雷の話題を聞き出してしまったんだな。


「ア、アノトキ……ソノヒトノコトヲ…『元彼(もとかれ)』……トカ、イッテシマイ………ア、アノ、スミマセンデシタッ!!」


ーービシッと誠心誠意を込めた土下座をティティスにする、冷や汗たらたらでまるでロボットが喋るみたいになってしまった。


「まー、あの時は本気で殺してやろうかと思ったけど…今はもう怒ってないわよ…」


「……ホントウニ……モウシワケゴザイマセン…」


冷や汗たらたらの俺の様子を見て、今度はティティスが吹き出し笑った。


「ふふ、あはは…もう何なのよその謝罪の仕方は?…だからもう怒ってないわよ」


「……本当に…?」


地面から頭を上げ、ティティスを見上げる。


「えぇ、本当よ。……こんな所で仲間に土下座して、ほんっとバカなの?ほら、立って…早く勇者の所に帰ろ?」


ティティスは笑いながら、地面に膝をつく俺に『早く帰ろうと』手を差し伸べてきた。

俺は前にもこんなシーンあったなと思いながらも、あの時とは全然違う心境でティティスの手を掴んだ。

【私の糞みたいな自己満小説を読んで下さっている親愛なる方々へ】


事前になろう小説に登録など作業が非常に面倒かとは思いますが、ブックマークや広告下側にある欄【☆☆☆☆☆】の星を押してポイントを入れて下さると本当に作者のやる気とモチベーションに繋がります、応援宜しくお願い致します!

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エピソード5.未知なる森はこの❺で終わりです。

次回のエピソード6.では遂に次の四天王と戦いになります。

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