4話 運命
初めましての方はこんにちは。既知の方は忘れましょう。
みーくんです。1作目になります。(5回目)
「storyteller」も、今日でいよいよ終わります。今日はこの4話と5話を同時に投稿する訳ですが、僕の専らの関心はこの”前書き”と控えている”後書き”をどうするかというものです。0話と1話を同時に投稿した際には、省略という技を使って回避したのですが、流石に最終話で省略をするというのは気が引ける……。まあ、しますが。
よろしくお願いします。
ある日、僕の物語にとっての大きな転換点……ターニングポイント、それが訪れる。
その日も僕はいつものように”台本”を読んでいた。今日は何が起こるのか、それを確認する為だ。
今日は彼女のピアノの発表会がある。それが終わった後にデートをする約束をした。だから、それに関することが書かれている筈だ。どこを回り、何を食べ、何をするのか。
……しかし、そこに書かれていたのは、僕の予想を裏切る未来だった。
「何だよ……これ……」
そこには、僕の乗ったバスが事故に遭い、意識不明の重体を負った僕の姿が書かれていた。それ以降も、僕の台詞は一切無く、見舞いに来た親やクラスメイトたちの僕への台詞しか書かれていなかった。
「…………嘘だろ……」
”台本”の正確さは知っている。だからこそ、
そして、僕の頭にはある考えが浮かんだ。これまでは一度も試したことがない……試す必要がなかった検証だ。
「……”台本”に、逆らう」
そう、この”台本”に書かれていることに逆らい、別の方法で会場まで行く。
そうすれば、事故になんて遭わないし、意識不明の重体なんてものを負わずに済む。恐らく、事故自体は起こるだろう。それは変えられない”未来”だ。ただ、それに僕が巻き込まれるか巻き込まれないかの違いだ。
「”台本”とは異なる未来に行こうとしたら、”台本”を書いた何かの意思に背いたら……」
でも、やるしかない。やらなければ、僕に未来はない。
僕は急いで準備をする。バスには乗れない、”台本”にはないことだから、母さんに送迎を頼むことも出来ないだろう。とすると、自力で会場まで辿り着くしかない。
自転車か? いや、自転車だと遠すぎる。電車を使おう。
「『母さん、行ってきます』」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
気を付ける、か。気を付けた結果どうなるかは分からない。……ここまでは、”台本”通りだ。
「『うん』」
僕は家を出た。
これまであった”台本”の存在による安心感が、今は余計に不安を煽っていた。
未来が見えないことが、人の行動が分からないことが、こんなに怖いことだなんて。
”台本”に縛られず生きると言えば格好良いのかもしれない。元々はそうだった筈なのに、”台本”と出会うまでは、そんなことを考えもせずにいた筈なのに。……”台本”と出会ったことは、僕にとっての幸せなのだろうか。
「……とにかく、まずは駅に着かないと」
違和感がある。
人とやたらとぶつかるのだ。まるで僕のことが見えていないとでもいうかのように、僕にぶつかっても何も言わないし振り返りもしない。まるで、透明人間だ。ぶつかってはいるから、存在していることは間違いないけれど、文字通りの透明な人間。
人は、案外すれ違っているときに気を払っているのかもしれない。透明人間だから、気付けたこと。
試しに、立ち止まっている男性に話し掛けてみることにした。
「あの…………あの!」
返事はない。
「おい!」
返事はない。
さすがに、この距離で怒鳴って気が付かない筈はないだろう。殴ってやろうかとも考えたけれど、何の罪もない人にそんなことをするのは気が引けたのでやめておいた。
けれど、間違いない。誰も、僕の存在を認めない。目の前に居ようが、話し掛けられようが、触れられようが、誰も。姿は見えないし、声も聞こえない。だけど、存在自体はしている。だから、認めないというよりも無視をされているような感覚に陥る。
次第に、違和感が恐怖へと変わっていく。嫌な汗が背中を伝うのが分かる。
誰にも見られないというのは自由で良いと思うかもしれない。実際、僕もそんな妄想をしたことがある。誰にも干渉されず、好きなように生きてみたいと。でも、まさか本当にそんなことになるなんて。自由? 好きなように? いいや、不安でしかない。誰にも存在を認知されないということは、それは……。
でも、それは考えていたことだ。初めて検証をしたとき……母さんから返事を貰えなかったときから、薄々気付いていたことだ。十分、想定範囲内だ。そう、これも検証だ。あくまで推論でしかなかったものに、確証を与えただけだ。だから、僕には恐怖を感じる暇なんてない。次に僕が取るべき行動は--。
「あ」
「あ」
目の前に、あいつが居た。
そうだ、今日は学校は休みだったんだ。そんなことをあいつの顔を見て再認識させられる。
……? ちょっと待てよ、僕が見えるのか? 明らかに僕を見て反応をした。僕のことが見えていなければ、反応なんて出来る訳がない。
「……っ! あのさ、お前……」
しかし、僕が言いかけた直後、あいつは僕を無視するかのように前に向かって歩き始めた。他の人間と同じように、まるで何も見えていないかのように。
「待てよ! 何かさ、今、僕変な感じになっちゃっててさ」
僕の方には一瞥もくれず、前だけを見て歩いて行く。
「何か、皆僕のことを見えてないっぽくてさ。近くで怒鳴ったりしても無視とかされちゃったりしてて」
前だけを見て歩いて行く。
「理由は分かってるんだ。何となくだけど……でも、お前だけは違ったんだ。さっき、僕のことを見て止まったろ? ほら、言ったろ? 『あ』って。同じタイミングでさ。なあ?」
少し顔がこわばったのが分かった。けれど、尚も僕のことを無視し続けている。
本当のことを、話すべきか。
「実はさ、変な冊子を拾ったんだよ。僕の部屋にあって--」
「そこには未来が書いてあって、まるで”台本”みたいでさ。僕の行動が全部書かれてるんだ。僕の”台本”なんだ」
…………僕の、”台本”?
そのとき、僕はある仮説を思い立った。ある、恐ろしい仮説を。盲点だった。
「……なあ、お前も持ってるのか?」
「……」答えはない。
「”台本”だよ! お前も持ってるのか? なあ、見えてるんだろ!」
「……」もし、それが本当だったら。
「なあ! 答えろよ!」
「……」何も答えない。だが、バッグに手を入れた。前を見ながら、歩きながら。
「っ!」バッグから出された手には、一冊の冊子があった。見覚えのある、黒い表紙だ。「……”台本”」
こちらの方には一瞥もくれず、尚も前に進み続ける。今ではその理由が分かる気がした。
全てが、今、はっきりした。嫌な予感は、的中した。
「…………じゃあ、テストで赤点を取ることも……補習を受けさせられることも……全部知ってたのに?」
「……」
「全部知ってて、お前はそうしたのか?」
そう、こいつは知っていたんだ。自分の未来を。これから自分の身に訪れることを。
「何でだよ? …………これか? ”台本”にそう書かれてたからか? 僕と同じように……全部”台本”に従ってただけで……?」
”台本”。
「っ! そうだ、台本だよ! これから起こることは全部ここに書いてあるんだ! だろ? どうにかして元の路線に戻せば--」
すっかり忘れていた。急いで”台本”を開き、先程のページを探そうとする。今からでも会場には十分間に合う。そこまでの途中にある出来事に遭遇することは出来ないけれど、そんな細かいことはどうとでもなる。元の道筋を辿りさえすれば……。”台本”の筋書きに戻すことが出来れば……。
しかし、それは叶わなかった。
「……何だよ……何なんだよ、これ……」
”台本”には、何も書かれてはいなかった。そこにはただ、白紙のページが続いているだけだった。
「ちょっと………………ちょっと待ってよ。……嫌だったんだって」
事故になんて遭いたくない。意識不明の重体? 冗談じゃない。
「だってさ……こんな未来、嫌に決まってるだろ!? 僕が何をしたっていうんだよ! こんな……未来が見れるってそういうことだろ? 少しくらい変えたって良いだろ? だって、僕が死んだらどうなる? なあ? 最初の村で勇者が死んだら! 主人公が死んだら! …………主人公」
そして、僕は悟った。
そう、最初の村で勇者が死ねば……主人公が死ねば、物語は成立しない。なぜなら、主人公である勇者が魔王を倒さなければならないからだ。魔王を倒せるのは勇者だけ、その勇者は何があろうと死ぬことは許されない。
だから、多少無理がある設定だろうと勇者は生き延び、物語は進み続ける。魔王を倒すまで、勇者は死ぬことはない。
でも、僕は違う。違った。僕は、主人公じゃなかった。
ただ、僕を主観として書かれているから僕の”台本”なのであって、これは、決して僕の物語ではない。
僕が意識不明の重体を負おうと、物語は続いて行く。むしろ、僕が意識不明の重体を負うことが、この物語のメインストーリーだ。この”台本”に書かれている物語の軸だ。
僕は、意識不明の重体にならなければならない。そうしなければ、物語は続かない。
つまり、僕は、間違えた。勘違いをしていたんだ。
この”台本”の物語は、自分の物語だと思っていた。自分が主人公だと思っていた。だから、間違えた。
「…………何で」
膝から力が抜け、僕は床に倒れ込む。ひんやりとした感覚に包まれる。
それなのに、誰も見向きもしない。当然だ。本来、僕はここには居ないんだから。ここには誰も倒れていない筈なんだから。
あいつも他の人たちと同様に、見向きもせずに歩いて行く。
皆、自分の”台本”通りに演じているんだ。
自分の”台本”通りに生きているんだ。
「……待って……待てよ……待てって……!」手を伸ばす。しかし、届かない。
呼吸が出来なくなっていく。
誰も見ない。
視界が暗くなっていく。
誰も気付かない。
段々と意識が薄れていく。
誰にも知られない。
最期の力を振り絞って、届く筈もない手を伸ばす。届く筈もない声を出す。
ああ、僕は死ぬのか。
そう思った瞬間、僕の横を歩いていた人が立ち止まった。そして、僕を見下ろす。
「駄目じゃないか、勝手なことをしたら」
そうして、僕は気を失った。
5分後に5話で”後書き”を書くので、省略。
有難うございました。
みーくん




