表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8秒間の幸せ  作者: チャッピー
8/8

残り1秒

そして、何も産み出さなかった。結局彼女は最後まで僕の側にあった。なにも産み出さず、残すようなものも僕にはない。

 最後まで僕は消費者だった。8秒だけ毎日幸せを享受して、そのために8時間かもっと長い時間を誰かの幸福の時間にささげてきた。

 いや、僕の仕事が誰かを幸福にできたかなんて知りようがない。だって僕は何も変わらないことをやり続けて、その対価として生活に必要ぎりぎりな金を受け取ってきたにすぎないのだから。

 もう遠いことのように思えた。つい数日前に終わったことなのに、全てが現実感のないものだった。

 かろうじて長所と言えた一つはすでに失って、もう一つは数日前に使う機会すらなくなったものになった。

 本格的に一人だけだ。毎月以前より少ない金を振り込まれるようになる。そしてやれることと言えば、水やりくらいの物しか残らない。いや、それ以外の物など最初からなかったようにすら思う。

 代り映えしないアパートの一室は物が増えることはないが、壊れたり古くなった家具やPCは買い替えたから、入った時から見た目はだいぶ変わっていた。初めて入った時の部屋の様子などもう思い出せなかった。

 ただ、この、プランターだけはなにも変わらずそこにあった。父や母よりも長生きして、すでに父や母といた時間よりも一人でいた時間が長くなっていた。

 もう、声も思い出せなかった。それでもそれを薄情とすら思うことはない。

 僕には思い出になるものはなかった。仕事も世話になった人がいないわけではないが、それは名前すら浮かばない。

僕に残ったのは彼女の水やりする役割だけだった。それに多少の後悔もあるが、後悔だけの人生よりは役割があるだけマシなのかもしれない。

僕の人生を評価する人間なんて、すでに誰もいない。

 これから死ぬまでは、僕は仕事がないということ以外同じように消費者として振舞うだろう。彼女に水をやりながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ