6幕:ココと不思議な出会い6
食後、消化のいい夕食も持って部屋に戻った。
お腹を空かせている女の子がいるはずだから。
夕食時にレールナさんが別に用意してくれていたらしい。
簡単な温野菜のサラダ、そしてトマトと香草のスープパスタ。それから果物のデザート。
自分たちがいただいた夕食を小さな子供用にアレンジしてくれたらしい。お肉少しだけ控えめ、具材小さくカット、、、病食も意識してくれてもいるみたいだった。そんなレールナさんの特別食からは出来立ての食欲を唆る香りが立ち上がりこれでもかと刺激してくる。
さらにお皿に並々と盛られていて子供でもお腹いっぱいになりそうなくらい。それに小さなスプートとフォークがセットでとても可愛らしい出来栄えだと思う。
ノックをしてから部屋に入る。
相変わらず全身をシーツやら何やらで隠したままだ。
反応がない子には香り攻撃だ。
美味しい香りを手で煽ってあげる。
部屋においしそうな香りがこれでもかと広がった。
すぐにベッドの下からぐーっと音がなった。
どうやら効果は抜群のようだ。
シーツを少しだけ下げて、恐る恐るこちらを見ている可愛らしい瞳が見える。
「早く食べないと無くなっちゃうよー。お兄ちゃんが食べますよー。」
おっとエールを飲んでたから饒舌になったかもしれない。
あの純粋な瞳は以前こちらを見たままだ。
「すごく美味しそうだなー。」
呟いたと同時にふと思いついた。
食べないなら食べるように仕向ければいいのではと、、、。
釣れないなら釣り上げればいいのだ。
フォークにパスタを絡めて女の子の前に運んだ。
「はい、あーん。」
「!?」
パクッと釣れた。
シーツから顔だけ出して女の子が釣れた。
幼女が釣れた。
すかさず撒き餌じゃない、パスタ、サラダ、パスタ、サラダの順で口に運んでいく。
全く反応がなかった幼魚がスレていた幼魚がこれでもかと食いついているのだ。
失礼、魚ではない可愛い子供が。幼女が。
だから釣り上げなくてはならない。
それからデザートも。お残しは許されないのだ。
あっという間にパスタもサラダもデザートも無くなってしまった。
忙しくて昼は運べなかったから本当にお腹空いていたんだろうなと思う。
彼女の体を少し起こしてからコップを口元に運んで水を飲ませてあげる。
まだ硬かった表情もずいぶんと柔らかくなった気がする。
落ち着いてから改めて彼女の頭を撫でてあげた。
今度はビクッとされなかった。
「美味しかった?」
彼女は顔は頷いた、小さくゆっくりと。
「お腹いっぱいになった?」
また頷いた、少し大きく。
「自分の名前言える?」
彼女は頷いた。
「ココ。」
ちょっと嬉しくなった。
女の子が口を開いてくれた。
やっと気を許してくれたのだ。
もう一度頭を優しく撫でて諭すように蒼葉は語りかけた。
「じゃあココは、今から歯磨きして顔を洗ってトイレに行って戻ってきてベッドの上でまた寝ること。ちゃんとできますか?」
今度はしっかりと頷いた。
ベッドから抜け出してきた彼女と一緒に水回りの配置と彼女用の道具を教えてから分かれて調理場へ向かった。
それから食器を洗い後片付けをして部屋に戻った。
夜でも飲めるように飲み水も持ってきている。
すでに彼女も部屋に戻ってきていた。
ベッドの縁にちょこんと座っている。
金色の髪にエメラルドグリーンの瞳に白い肌、そして白いワンピースから覗くほっそりとした手足。
ローロちゃんに貸りた白いワンピースがまるで彼女を綺麗なお人形さんのように魅せている。
ただ寝起きで綺麗でサラサラだった髪がめちゃめちゃだけど。ほんとこの子は美少女、いや美幼女だなと思う。月華ちゃんやローロちゃんに負けない美幼女だ。それにしてもココは見た目の割に体が小さい気がする。5、6歳くらいだろうか、それとも小学生?いや幼稚園の年長さんくらいとかほんとそのくらい小さな女の子だ。成長速度も人それぞれだから聞いてみないと判断はできないかな。
そんな女の子がまっすぐ自分を捉えていた。
だから彼女の前に座った。
目線が彼女に合うように体を落として、、、
「ココは体は大丈夫?痛くない?」
上下に顔が揺れた。
「今ねここのお店にお世話になってるんだ、臨時だけどね。それで部屋を貸してもらって食事をいただいてさ。ココがもし良かったら少しの間だけでもいいからお手伝いしてくれないかなと思ってるんだけどどうかな?」
彼女は瞳を逸らさずちゃんと頷いてくれた。
「ココは偉いね。」
そう言って彼女の頭を左手で撫でてあげた。
くすぐったそうな彼女を見て、そしていつものように唱える。
今まで何度と唱えてきた魔法が始まる合言葉を。
「eins、zwei、drei!!」
「!?」
右手に一輪の花を咲かせた。
黄色な花びらを持ち野原に力強く咲いている元気が出る花だ。
その力強く咲いていた小さな花を彼女にプレゼントした。
いきなり目の前に出されたものに彼女は大変驚いたようだ。
小さな手で花を受け取り触ったり匂いを嗅いでみたりしだした。
ふふふ、、、それは本物ですよ。
さっきお店の庭で見つけたものです。
次に彼女の前にぬいぐるみを出してあげる。
小さくて可愛らしいわんこのぬいぐるみだ。
これはお店の忘れ物置き場に置いてあったものだ。
小さな瞳にだんだんと輝きが満ちてきた。
これだからマジシャンは止められないんだよね。
次を出そうとする前に、ココが真っ直ぐに見つめてきた。
今までで一番キラキラしてるような感じだった。
「お兄ちゃんも魔道士なの?」
「そうだよ。みんなを笑顔にできる奇術師だよ。秘密にしてるココと同じだね。」
それから彼女の小さい小指をとって念を押す。
「でもこれは秘密だよ。二人だけの秘密。わかった?」
「うん!!」
力強く答えてくれた彼女の頭を優しく撫でる。
彼女は眩しいくらいに良い笑顔だった。
蒼葉:釣れた(*´▽`*)〜❀