48幕:大魔導士と魔法の言葉4
レールナお姉ちゃんから赤いものが流れた。
だから回復魔法を唱えたのにお姉ちゃんは動かなかった。
そして蒼葉お兄ちゃんの口からも同じものが溢れた。
同じようにしたのにお兄ちゃんも動かなくなった。
そして黒い手に持っていかれた。
それから黒い手が執拗に纏わり付いた。
魔力を込めて闇を手を吹き飛ばそうとしたのだ。
怖かったけどみんなを守ろうとしたのだ。
でも魔力を込めても力を込めても闇は手はココを無理やり闇に引きずり込んだ。
そしてまた新たに大切な人たちを喰らおうとしている。
世界が闇に染まる目の前で大切な人たちが突然と消えてしまった。
トミミもアミミもピピルもオレンもレールナお姉ちゃんもソフィアお姉ちゃんもおっちゃんもアイスラお姉ちゃんも目の前から。
どうにかしたくてもどうすることもできなかった。
目から涙がこぼれ落ちる。
悔しくて杖を握りしめる。
でも一度込めた力が少しずつ抜けていく。
身体中から力が抜けていくのだ。
杖に魔力を込めても身体中に魔力を込めても魔法で吹き飛ばそうとしてもどうすることもできないのだ。
魔法ができないのだ。
何もできないのだ。
ココは次第に何も考えることができなくなった。
大切な人たちのはっきりとした姿が少しずつ消え去っていく。
音も香りも何もかも。
そして逆に湧き上がってきたものがあった。
いやそれはすでにあったものだった。
感じていたものだった。
それが何倍にも膨れ上がり内から彼女を支配しようとしていたのだ。
それは今までにない恐怖だった。
あの時よりも大きく深い闇。
目の前から大切な人たちが消えていく恐怖。
そしてどうすることもできない己への絶望。
胸が締め付けられるほどの強烈な哀しみ。
これまでに体験したことがないほどのものが小さい心を締め付けていく。
小さな子供では受け止めることができないほどのものが彼女を蝕んでいく。
そして全てが闇の手の中に収まった。
どのくらい経っただろうか、ふと目の前に誰かがいることに気づいた。
そこだけが不思議な光景だった。
闇の中に浮かぶ世界の中でそこだけが違った色をしていた。
しばらくして黒くて大きな手がココの手を包んだ。
心臓が鷲掴みされたような気がした。
もう何も考えたくなかった。
【zwei】
だがその時だった。
黒い闇の中で誰かの声がココには聞こえたのだ。
だからココは目を開き顔を上げ真っ直ぐに見据えた。
それは人の手だった。
同じ黒い手だった。
その手の周りにも同じ黒い手が浮かんでいた。
それはほかにも次々と現れココを握り締めようと必死に迫ってきた。
そしてココの細い首を無理やり締め付けようとした。
次第に息ができなくなっていく。
そして視界がだんだんと消えて、、、
「たす、け、て、、、」
それでもココは必死に手を伸ばしたのだ。
動かない手を必死に伸ばしたのだ。
黒い手とは違う方向。
そこにさっきの手があったからだ。
その手は悲しそうな顔をしていた気がした。
泣いていたような気がした。
でもなぜだろうか。
その手は温かかった。
逸る気持ちのままココはその手を握りしめた。
今までよりも強く。
だからだったのだろうか。
今度ははっきりと心に響いてきた。
【drei】
あの声が聞こえる。
魔法を唱える時に聞こえる声だ。
「みんなをたすけて、、、」
黒い手の力が彼女の細い首に群がった。
それにも関わらず自然と呟いた。
なぜかは分からない。
だけど心臓の音は高く唸り胸が踊っている。
やがてココは必死に目を開け、そして叫んだ。
心の限り想いが届くように。
「あおばおにいちゃん!!」
その瞬間、世界が黒い闇の全てが光の粒子となって吹き飛んだ。
光はやがて空に舞い漂い空を光り輝く星空のように飛び散った。
それはまるで歓喜しているかのように踊り狂い、そのまま一つの星になり、そして人の姿へと変わっていった。




