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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
第0章 ホルクスの街と英雄街
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47幕:人形師と舞台の幕開け3−3

 


 振り下げられた刄はそのまま地面を転がった。

 赤い短剣を持ったまま空の彼方に。


 直後、男の四肢に細い突起物が突き刺さっていた。

 続けて首筋にすっと静かに何かが突き立てられ男はそのまま地面に静かに沈んだ。


 何が起きたのか分からなかったのだろう。

 亜麻色の髪をした小さな女の子がこちらを見ていた。

 目の前の光景についていけてないのだろう。

 その瞳が動くことはなかった。


 アイスラは固まったままのココを解放しローロと二人を抱き寄せた。


 しかし遅すぎたのだろう。

 彼女の大好きな姉は横たわったまま微動だにさえしない。

 その瞳からは光が消えつつあった。





 刀身についた赤いものを乱暴に拭き取り腰にしまうと蒼葉は倒れた女性に近寄った。

 だが目の前の異様な光景が理解できないのは蒼葉も同じだった。

 ヴァネッサが故意にギルドを離れたのを機に拘束されていた職員たちを解放し、地下室に向かった。


 だが遅かった。


 レールナさん、、、どうして、、、なんで、、、


「レールナっ!?邪魔っ!!」


 ソフィアが呆然とする蒼葉を押しのけ倒れこんだ彼女を看入る。

 手慣れた動きで体を動かし気道を確保しながら手で衣服で直接止血していく。

 だが赤い液体は止まることなく流れ出していた。


「出血が多すぎるっ!!脈が小さい、、、レールナっしっかりしてレールナっ!?」


 彼女一人で出来ることなど限られていることを痛いほど知っているのだろう。

 ソフィアはすぐさま周囲を見渡し次の指示を出した。


「シュガール回復道具を早くっ!!緊急用の巻物を持ってきてっ!!ここに回復呪文できる人はっ!?私一人じゃ追いつかない!!」


 ソフィアは階段近くにいたままの部下に指示を出し、そのままシドをアイスラを見渡した。

 だが二人は静かに首を振った。


 人形から戻った街の人たちも誰もが下を向いたままその光景を眺めることしかできなかった。

 ソフィアのおかげで冷静さを取り戻した蒼葉はすぐにその場を離れた。

 対応できる人間のことを熟知していたからだ。


 その彼女を無理やり抱きかかえ目の前に連れてきた。

 体が震え体が強張り今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっている彼女を。


 一瞬の間の後、暗い雰囲気が支配した中で小さな両手から光が溢れ出した。


「回復呪文!?ココちゃんっ!?」

「レールナ、、、おねえちゃんならっ、、、だいじょうぶだもん、、、」

「そうだっ!?ココちゃんがいるです!!レールナお姉ちゃんをお願いですっ!!!!」


 すぐにココの存在に安堵した子供達がすぐに二人の周りを取り囲んだ。


 ココが回復呪文を唱えソフィアが胸部を連続で圧迫しながら途中、口づけしながら息を送り込む。そしてゆっくりと剣を引き抜いていく。蒼葉はバッグから薬品類を取り出し患部にあてがえば、トミミやアミミがレールナの顔や手足を綺麗に拭き、オレンやピピルがソフィアを傍らで手助けする。


 そしてローロは姉の手を必死に握りしめた。

 彼女の声を元気な姿を今か今かと心待ちにしているのだ。

 握りしめた両手により一層の力が篭る。


 だが現実は残酷だった。


「どうしてですっ!?なんでお姉ちゃんが冷たくなるですっ!?」


 握りしめた姉の手が冷たくなっていく。


「血が止まったのに、傷が塞がったのに、、、なんでお姉ちゃんが動かないですかっ!?」


 ローロは俯いたままのソフィアの顔を覗き込んだ。

 しかし何も答えてはくれない。


 近くにいるシドとアイスラに顔を向けた。

 だが目を合わせてくれない。


 周りに集まった大人たちは誰も答えてはくれない。

 こぼれ落ちる何かを無視しながら蒼葉に目を向けた。


「そうだっ!!蒼葉お兄ちゃんなら何とかできるですっ!!大魔導士の蒼葉お兄ちゃんなら何でもできるですっ!!」


 言葉が痛かった。

 どんな言葉よりも突き刺さった。


「蒼葉お兄ちゃんっ!?」


「おにいちゃっ!!」

「あーおにいちゃっ!!」

「「蒼葉お兄ちゃん!!」」


 子供達が一斉に真っ直ぐな眼差しを向けた。

 そして大粒の涙を零しながら蒼葉に摑みかかる小さな手はとても繊細で今にも折れそうだった。

 汚れを知らない瞳には蒼葉の姿が映る瞳には自分の惨めさ、無力さを見るようで直視することはできなかった。


 できることはすでに何もない。


「お兄ちゃん?」


「、、、、」


「蒼葉お兄ちゃん?」


「、、、、」


 ふとローロの中で浮かんだ言葉があった。

 ーーあの男は嘘つきだ。

 そう言われた言葉だった。


 ローロはそのまま自然と口にした。


「お兄ちゃんは、、、、蒼葉お兄ちゃんは、、、、嘘つきだったですか!?」


 顔を上げることができなかった。

 涙でぐしゃぐしゃの彼女にこれ以上向き合うことができなかった。


 自分は魔道士じゃない、、、大魔道士じゃない。

 自分はただの、、、。

 少しだけピアノができて料理ができてちょっとだけ人を楽しませることが大好きなただの大学生。


 平和な世界でぬくぬくと生きてきた人間であり弱い。

 戦う力なんて何もない。

 救える力なんて何もない。


 だけど叶わなかった。

 叶えることができなかった。


 何もできるはずがなかった。


 魔法使いの先生もブラックシャドーも魔法少女も全てが子供達を楽しませるための盛った作り話、ただのフィクションだ。

 蒼葉の魔法も何もかも。


 ただ子供達を笑顔にしたかっただけだった。

 心の底から笑顔にしたかっただけだった。


 全部笑顔にしたかっただけなのだ。

 あの眼差しを輝くような色で埋め尽くし感嘆の声を漏らせたかっただけなんだ。



 それは全部自分が用意した、、、ただの嘘の物語。


 全てが、、、





 自分が唱える魔法の言葉は全て、、、作り物なのだから。




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