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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
第0章 ホルクスの街と英雄街
72/162

46幕:人形師と舞台の幕開け2−1

 


 街の警備隊の詰所まであとわずかの距離だった。

 蒼葉たちは舞台からギルドに続く詰所まで順を追って駆け込んでいる。


「緊急事態で、、、!?」


 蒼葉は詰所の扉を乱暴に蹴り開け大声で叫んだ、、、だが返事はない。

 部屋の中にいる隊員たちは誰も動く気配がなく、彼らはその場で動きを止めたまま微動だにさえしなかった。


 顔なじみの隊員たちがまるで生き写しの人形になったかのようで誰一人相手にはしてくれない。


 ここもダメだ。


 どういうわけか分からないが先ほどから出会うほとんどの人が人形のように固まったままだった。

 だから蒼葉は即座に次に向かう判断をし候補場所を示唆する。

 子供達の体力やスピードを考えると短時間で逃げ切れるか怪しいところだ。このままだと他の詰所も期待できないかもしれない。


 移動する足跡だけが響き、裏通りの静かさが恐怖を余計に物語る。


 ここら辺りなら、、、


 蒼葉は一番可能性確実性が高いところを思い浮かべ優しく目線を下げた。


「ピピル、ローロちゃん、一番大きくて近い避難場、、、ギルドでいい?」

「えっと少し距離あるけどギルドが一番かも」

「ですです。災害あるときはあそこに逃げ込みなさいってお姉ちゃん言ってたです」

「じゃ二人とも案内よろしく。ココどう?」

「、、、きてる。ちょっとずつきてる」

「みんな手を離さないでね、ココは索敵しながら体力回復魔法ヒールをちょっとずつね。ゆっくりでいいからね」

「トミ、アミ、鼻と耳で警戒。変な感じがしたら教えて」

「「おにいちゃ、あい!!」」

「パトちゃん、オレンちゃんは何か気づいたことがあればその都度教えてね」

「はーい」

「、、、ん、わかった」



 ピピルがアミを、ローロがトミを、オレンとパトはそれぞれ手を繋ぎ、蒼葉はココを手を繋いだまま背中に載せている。

 彼女だけは安心して魔法に集中してもらうためだが、時折見せる顔色はだいぶ和らくなった。だがその小さな手に篭る力は未だに強いままだった。


「ココ何であいつがこっちを追ってこれるか分かる?」


 小さな顔が左右に少しだけ振られる。以前、緊張した素ぶりは変わらないのだが、それでも最初よりは回復した方だ。


 あの男を目にしたとき、彼女は全身が震え顔が青ざめていた。

 きっとあの時のことを思い出したのだろう。

 蒼葉とココが出会ったあの森のことを。


 あの時、目の前の異様さ、ただならぬ光景を捉えると瞬時に彼女を抱きかかえながらほっぺを軽く抓り水球と煙の魔法を唱えさせた。

 水球魔法と炎から発生した大量の蒸気、そして煙魔法を隠れ蓑にしてピピル、ローロの案内で、裏道、小道、地元の人間が知る道だけを使い姿を消した訳だが、、、逃げきれないらしい。

 魔術で索敵されているなら逆探知できそうなのだが、現状は情報が不足しすぎていた。

 もちろん自身の魔道に対する知識がないことも幸いしているだろう。


 前情報通りの賞金首なら絶対に勝てないことを理解している。

 ココの魔法とマロンとが合わさったら分からないが確実に街が廃墟になるだろうと思う。

 それに一度捕まったあいつが目の前に現れるなど予測できるはずもなく情報収集なども怠っていた。


 蒼葉たちに今できることは逃げることだけである。

 ほかを導き出すほど余裕はなく切羽詰まっていても、最優先事項は子供たちの安全確保だ。


 ギルドには蒼葉たちとは違い本当の実力者たちが誰かが絶対にいる。

 だからそこまで逃げ切れば何とかなるはずだった。

 それに残してきたレールナさんやミナさんたちのスタッフやご近所さんが気がかりだ。もし蒼葉とココが自由に動けるようになれば隠れて救出に行けるかもしれない。


 だから今は子供たちを安全なギルドへ行くことが最優先なのだ。


 建物の死角から様子を伺いながらギルドへと走る。固まったままの人たちを全て無視し一つ二つと区画を乗り越える。


 いつもなら近く感じる道のりが今日はとても遠い。


 次の角を曲がればギルドの正面入口だった。

 ギルドを覗こうとするタイミングとアミミたちがぺしぺしと足を叩く合図は同じだった。


「おにいちゃあぶないー」

「なんかいるー」


 二人の瞳が変わっている!?

 ギルド前の人誰だ!?制服、帽子、あれは司会の服装!?

 どうやら無事、、、違う何かおかしい!?


 彼女の周りに多数の人たちが倒れていた。

 身なりからほとんど全員が間違いなく冒険者だ。彼女を中心にし10人以上、そして静止した人たちが確認できる。ほかにギルド職員もいる。


 どういう!?


 その時、彼女と目線があった。


 まずい、、、気づかれている!?


 蒼葉は脳裏に異常を掴み取りすぐに声を出した。


「ココ、補助魔法、装備2、サイン裏3の1お願いね、終わったら隠れて!!ピピルみんなを連れて裏口からギルドに逃げ込んで、、、」

「うん、そうび2、うら3の1、、、わかった」

「ピピルは男の子だから先導してほしいけど大丈夫?」

「う、うん。あ、蒼葉お兄ちゃんは?」

「ここでくい止める!!」


 ココの魔法バッグから蒼葉の装備品を取り出し即座に装備する。

 冒険時のいつもの格好よりも少し物騒な装備を内蔵しており全てが黒色に統一されていた。

 続いてココの補助魔法により蒼葉の身体能力が上がった。


 これで致命傷以外数発はもらっても大丈夫だろうか。


 蒼葉は回り道をしてギルドの入口正面に目立つように姿を表した。

 裏口の方へコソコソと子供達が移動するのを横目で確認しながら警戒体制を取る。


 いつでも抜刀できるような体制であり、そしていつでも逃げられる体制である。

 呼吸を整え頭をクリアにする。

 やはり倒れていたのは冒険者たちだ。顔見知りのギルド職員もいる。


「あら、、、ついてるねぇ。わざわざ私の遊び相手になってくれるなんて律儀じゃないか、ブルーベル」


 ブルーベル?

 ステージの時点で個人情報がそれなりにバレているようだ。


「やっぱり、ステージの美人お姉さん?なんでここにいるんです?どういうつもりです?」

「美人だなんて嬉しいねぇ、、、だけど見たまんまさ。あいつと遊ぶ前に先にアタイと踊ってくれるなんて最高だよ」

「いやーダンス相手を間違っていると思いますが、、、」

「はぁ萎えさせてくれるねぇ」

「なら相手をする前にもう少しお姉さんのこと知りたいんですけど」

「そうしたいところだけどあいつがこっちに向かってるからねぇ」

「お姉さん以外にあっちのハゲと他の奴も相手にしなきゃいけないんだから名前ぐらい教えてくださいよ」

「はぁー仕方ないねぇ、ヴァネッサだよ」


 ビンゴ。

 他の共犯者確定。複数、、、何人だろうか。


「じゃあコソコソしてたのはヴァネッサさんの彼氏?」

「あいつらはただの部下さ」


 街ごと異変が起きてるからそれもそうか、、、ただ協力者はそんなに多くない。

 それと計画的犯行確定。あっ、、、そもそも住民が動かない時点で計画的か。


「そっかそしたらこっちにくる頭おかしいのが婚約者?」

「ははっは、、、あんた面白いね。あいつはただの仕事仲間だよ」


 最悪。

 全く狙いが分からない。

 あくまで仕事なら逃げられないか。金か何かで買収できないか、、、


「ちょっとそこのギルドまで行きたいんですけど見逃してくれませんヴァネッサさん?」

「残念だけどあんたを足止めするのが私の仕事さ。そうそうあんたが相手してくれないなら次は金髪のジャリだからね」


 あっちのクソ野郎は自分が目的、こっちはココが目的の一つか、、、最悪。男にモテるなんて最悪である。それに名前を教えてくれるということは、、、教えても大丈夫ということ、、、お約束だと、、、殺されるの確定!?


 ん、あれ?もしかしてココの位置バレてない?頭おかしいのだけが分かる?なぜ?


 顔だけを変えない技術を持つ蒼葉は知らぬふりで続ける。


「はぁ最下級のランクなんだから少しは手加減してほしいんですけど、ヴァネッサさん上から数えたが早いランクでしょ?」

「はっははは、そりゃもちろんあんた次第さ、、、さぁおしゃべりはもう終いだよ。そろそろ激しく踊りな、アタシが濡れるまでさぁ!!」


 時間延長は無理。自分への目線が変わらない。

 冒険者登録の格上確定なのは当たり前としてこの辺りに倒れてる人たちを倒したのは彼女の可能性が高い。だから状況証拠でほぼ黒。それか人形と同じやり口?普通は魔法か魔術、、、簡単な方法は消去法で魔術か。ココのクリアで治る?


 あーーー!?考える時間が足らない!!


 目の色が変わったヴァネッサを前に蒼葉は愛用のダガーを右手に掲げ半身を向ける。教官に教えてもらった致命傷を避ける防御重視の構えである。


 ヴァネッサは何事もないように細身の長剣を抜き踊るように蒼葉に切りかかった。

 上段の袈裟斬りからの返し斬り、そのまま体を回転させながらの薙払い。


 切っ先よりも間合いを取り斜め後ろ後ろへと避けていく。


「へぇー悪くない動きだねぇ、でもそっちはあいつがいる方だよ」

「ヴァネッサさんの腰使いがすごいからですよっと」


 太刀筋がどんどん鋭くなっていく。

 これ以上強く鋭く踏み込まれたら回避だけじゃ対応しきれなくなる。

 左手を腰にやりもう一本のダガーを取ろうと、、、


 !?


 目線が一瞬、左手に移った。

 やはり視界に捉えているらしい。だが効果あるかは分からないが意識は確実に削いでいるようだ。


 蒼葉の動きに一瞬、間を置いたヴァネッサはさらにギアを上げて斬りかかる。


「ほら子供だましは使わないのかい?」

「ったく普通、動きながら魔術は無理でしょ!!お姉さんじゃあるまいし!!」

「じゃあ仕方ないねぇ、代りにもっと激しく腰を振りな!!」


 だがヴァネッサの剣戟が蒼葉を捉えることはなかった。

 激しい連撃もギリギリのタイミングで蒼葉は避けていく。


「ちょこまかと動くねぇ、いい加減斬りあいしないのかい!!」

「いやだって触れられると人形にされるでしょ!?」

「んなことアタシができるわけだいだろ!!」


 この仕業はお姉さん以外か、、、まずい!?


 横薙ぎの渾身の斬撃が一瞬油断した蒼葉を襲った。

 ダガー越しに数メートル以上吹き飛ばされる。

 地面に何度もぶつかり転がった。


 それでもわざと後ろに飛んで衝撃を殺さなかったら、そして転がらなかったら完全にアウトだった。

 思わずガードのために出した2本目のダガーを持ち直しながらヴァネッサの動きを捉える。

 受太刀した両手首の痺れがままならない。


 状況は違うが選定試合を思い出す。

 あの時も何度も転がされた。


 手加減されていたとしても格上とのギリギリのやり取りは舞台とはまた違った刺激があった。

 逸る興奮を押さえつけ蒼葉は頭をフル回転させる。


 やはり追撃もせずに蒼葉の立ち上がりを待ち続ける、、、完全に上から目線の対応だ。

 本当に油断してくれてありがたい。

 故意に息を吐き足を引きずり片腕を支える。


 自分から攻める必要はない。

 痛みを堪えるふりをしながら左手を背中に忍ばせハンドサインを振りかざす。

 すぐに反応があった。


 ココの意志疎通の魔法である。


【あおばおにいちゃん、こちらココだよー】

【落ちついた?】

【うん、おちついたー。いまだいどころでひろったおかしのあじみしてるとこー】

【よそ様の家でつまみ食い!?これは後でいや、、、、頭領からココ忍へ、準備は終わってますか?どうぞ?】

【はっ!?りょうかいであります、こちらシャドーココ。マロンもおっけーであります】


 よかった。やっといつものココに少しだけ戻ったようだ。

 頭に響く微笑ましい声を聞きながら蒼葉はちょっぴり安堵した。


【今からSランク任務を言い渡します】

【Sらんく?】

【そうだよ、一番難しい任務でござる】

【おぉおーーー!?】

【忍頭は相手にわざと捕まって情報収集するからココ忍はマロンと一緒に潜入任務をするでござる】

【わかったー、、、でござる】

【人形が普通の人間に戻せるか、受付のお姉さんの部下がどこにいるか、あと街に魔術的異常はないか、協力者が探せないか、できたらファイヤーボールをめいいっぱい上空で爆発させまくるんだよ、いい?あとはバレないように】

【うんわかったー、、、でござります】

【たぶんしばらくお兄ちゃんとは連絡取れないけどココに任せるからね】

【!?】

【じゃあ合図で火炎球魔法をマロンに合わせて。その隙にマロンとココは予定どおりよろしく】

【うん、、、おにいちゃんだいじょうぶ?】

【大丈夫、、、だってお兄ちゃんは上忍だもん】


 声だけで分かる。

 彼女が心底心配しているのだと、そして恐怖を感じさせないように心配させないようにしているのだと。

 本当に優しい女の子だ。

 少し前まであれだけ震えていたのに、それでも今は人の心配を優先できるのだ。


 だけどやらなければいけない。


 やってもらわなければならない。


 ここにはマークスさんやシルクお婆ちゃんはいない。

 今は助けてくれる人は誰もいない。


 生き延びるためには自分たちでどうにかするしかないのだから。


「お!?目の色が変わったねぇ、、、何か仕掛ける気かい?」

「そろそろヴァネッサさんに直接手取り足取り教えてもらいたくて」

「ほぉーそりゃ、、、!?」


 その時、ヴァネッサとの会話が不自然に途切れた。


「ん、あんたたちか、、、どうしたんだい?中央広場かギルドか、、、あんたたちはそのままギルドを調べな!!何か分かったら連絡しな!!ん?一緒に拘束しときな」


「神々に使えし眷属よ時と場所を繋ぎ理を断ち志を我が魔力を持って補い伝えたまえ、、、意志疎通(コンタクトル)


「!?」


「例のブツの候補が絞れた。ギルド地下か中央広場だとさ、、、こっちはギルドを調査するからそっちは中央広場を任せたよ。なに!?あーそいつならまだ生きてるよ、もう少しでアタシが食べちまうところだったけどね。あん!?あーわかったよ、五体満足で会わせるから代りに他の獲物をよこしな」


 どういうことだろうか。

 獲物を放ってほいて第三者に集中して?誰かと話してる?、、、魔法?電話の魔法か!?いや詠唱入れてるから魔術か。


 あのハゲだとしたら今がギルドに逃げ込むチャンスだが、、、

 ん?あんたたちってこと、、、そのままギルドをって、、、身内がギルドにいる?拘束ってま、まさかソフィアさんたち、それとも子供たち?どっちかが捕まった、、、


 あ!!しまった、、、最初にギルドの安全を確認するのを忘れてた、、、


 悪手に次ぐ悪手。

 やはり平和ボケした蒼葉では何事も上手くいかないようだ。

 今後の反省に活かすことを決心し頭を再回転させる。

 ただし次があればだが、、、


 判断の間違いが悔い悩まれる。


 恐らくギルド内にヴァネッサの仲間がいて誰か人質をとっていること。新たに誰かが人質を取ったこと。時間的にピピルたちの可能性があるかもしれないこと。そして蒼葉はヴァネッサには確実に殺されないが、あの頭おかしいのが確実にあとで蒼葉を殺しに来るということ。ただしそいつがしばらくは確実にこちらに来ないということ。


 ココと仕掛けるにはまだまだ情報が足りない。その情報を再考する時間が足りない。


 ダガーを仕舞いヴァネッサに対峙する。


 背中で左手のハンドサインを作りながら無抵抗に少しずつ彼女に近づくのだった。




 石造りの頑強な建物とは違い質素な木製の扉を静かにこじ開けた。

 視界の中で銀髪の爽やかだがチャラついた笑顔が目に入る。


「やぁブルーベル奇遇だね、君もその美人に心を奪われたんだね」


 もし蒼葉が女の子だったならこの笑みに心を鷲掴みにされていただろう。

 そんな風に思えるほどの微笑な顔が蒼葉を覗き込んでいる。


 床に転がされたまま。

 手足を縄で縛られ情けない格好の男性の視線が蒼葉に向いていた。


 ギルド内のホールのど真ん中で一人転がっている彼はどうやら無事だったようだ。


「無事で何よりだけどシュガール一緒にしないでほしいよ。こっちは抵抗しないことを条件に武器を下げたんだから。だから手も足も口も自由の取引なんだよ」


「なんだと?こっちは放置プレイ継続中なのに自分だけ彼女とイチャイチャしてたとは、、、」


「イチャイチャとは失礼な、、、激しく踊らされただけだよ。おかげで腰がクタクタなんだから」


「なんだと!?まさか、まさかブルーベルまさかそのまさか一人だけ彼女と!?何て羨ましいことを、、、、、、、」


 盛大な勘違いをしたらしいシュガールを放置したまま蒼葉は入口から歩みを進めた。

 そして流し目で端から端を見渡す。


 室内はいつも通り明るく何が起きたかを知るには都合がいい。


 散らばった書類と事務用品。

 壊れた掲示板、連絡板。

 そして思っていた以上に荒れていない室内。


 ただしこの場には人がいない?


 職員や同業者は?


 後ろから牽制するかのように鋭い一言が蒼葉に浴びせられた。


「あんまり余計な真似はするんじゃないよ、もしもの時はいいね?」

「もちろんですよ。それで職員や子供たちは?」

「地下室で監禁してるよ、だから余計な真似はするんじゃないさ」


 そう話すとヴァネッサは受付の机に足を組みながら腰を下ろした。

 視線だけはこちらを向いたまま。


 目を離す気はないらしい。


 突き刺さる視線を感じながら蒼葉はヴァネッサの近くに静かに腰を下ろす。

 お尻に当たる無機質な石の床面がさらに硬く冷たく感じるような気がした。








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