45幕:人形師と舞台の幕開け1−2
無機質な空間が広がっていた。
冒険者ギルドの地下室とは違い、ここは一切の装飾は施されてはいない。
空間があると言っても6畳一間もない部屋が連続して連なっているだけの空間である。
だがここには異様な空気が満ちていた。
その原因はこの中に囚われた男のせいか、他に連なる部屋のせいか、もしくはここが少しだけ特殊な場所ゆえか。
入口には分厚い金属製の扉が取り付けられ中から開けることはできない。また中から魔術でぶち破ろうとしても部屋中いやこの建物中に張り巡らされた結界が魔力を霧散させ力技で破ることは不可能に近い。
中に入れられた人間も拘束され自由な身動きは取れない。
動けるのは食事や排便、そして聴取を受けるときだけだろうか。
それを人は監獄と呼ぶ。
地下は薄暗く他に誰がいるのかまでは判断がつかないだろう。
檻までの通りのみが魔石灯で照らされているだけであり手持ちの魔石灯を持たずしては奥まで覗くことは困難だ。
しかし今日は珍しく全てが見渡せるように強く照らされている。
長い静寂の後、何者かの歩く靴の音だけが響いた。
誰かが来たようだ。
ガチャリと音が鳴った瞬間、男の静かな声が響いた。
「てめぇら遅えぞ」
男は今にも掴みかかろうとするくらいの勢いで静かに檻を突き破った。
そして分厚かった金属製の扉は紙のように破かれていく。
「こっちも手間かかってねぇ、、、それとあんたの上司からだよ」
茶髪の女はそう呟くと一枚の手紙を手渡した。
『結構は今夜で目的は秘密と人形ね。でも最優先は人形。PS.美女と幼女は僕のもの。詳しくはこちらの魔術印をクリック』
「あの根暗ロリコンどM野郎、、、人形にするなら生きてようが死んでようが構わねぇだろうが。しかし、、、これであいつをやっと殺せるぜぇ」
不気味なほどの笑みを浮かべる男からドス黒い魔力がほとばしる。
「あんた少しは抑えな。今はまだ夜中とはいえ気づかれるよ」
「ちっ、、、で整えてあるのか?」
「部下たちが全て手配済みだよ。あんたの上司たちのおかげでこの街には雑魚ばかりさ。それからあんたのターゲットの情報も入手済み。素性は全くわからないが魔道士、シャドーなんて噂が飛び交っているよ。ただ今は食堂の店員をやってるんだとさ。たぶん囮情報だね、何を企んでんだか。しかしわざわざ騙されたふりして懐に忍び込むたぁ難儀だねぇ。そうそうそれと金髪のジャリ、、、見つけたら」
男は茶髪の女の言動を抑え手紙を突き出した。
そして記載されている小さな魔法陣に手を掲げ魔力を通すと目的の人物たちが脳裏に浮かび上がる。
「なっ!?これじゃアタイは遊べないじゃないか!?」
「あぁ忘れてんのかぁ、、、そんな余裕なんざねぇ。この街の本当の戦力たちが気づけば退路が絶たれるだろうがぁ。逃げ道をほかにも用意しとくことに越したことはねぇ」
容姿、言葉遣い、性格、そして実力も全てにおいて暴力的かつ威圧的。
見た目とは裏腹にこの男は頭がキレる。
それでも裏の世界でそれだけでは生き残ることはできない。
だがそれを体現してきたからこそ名うての賞金首であり二つ名を持つ男として世界中に名前を轟かせている。
残念がる茶髪の女に男はこう続けた。
「あいつに用意させとけ。じゃねぇとテメェの人形全部壊すぞと伝えりゃいい」
「はぁ、、、あんたたちは主従揃って人使いが荒いよ、ただこれで少しは遊べるかねぇ」
呆れる女は傍に控えた部下二人に合図を送ると二人はすぐに消え、無残なほど壊された牢獄の扉に薄いスクロールを貼り付けた。そして分厚い紙束を男に突き出す。
「これで異常事態が表に知らされることはない。逃げ道も手配済み。開始と同時にこの街には結界が張られて外部とは遮断される。そして各情報はほぼ入手済み。あとは結構まで隠れ家でお寝んねさね。しかしあんた二つ名と実態が違いすぎないかい?」
「ほっとけ」
『怒り狂う中指』ねぇ、、、
『旋律の人形師』が従える影の手先。その『十指』の一人。
その中でも先陣を切る役割を与えられた実力者としてこの男が一番有名だろう。
もちろん災厄として。
ギルド内や警備隊、衛兵たちの中では彼を見たら最上級の警戒をしろと常に檄が飛ばされていたのだろうか。街中のあちこちで警告付きの手配書が飾られていた。
まぁ時間までは隠蔽工作してしまうから誰も気づかないだろうが、、、
実際に顔を合わせたのは初めてだった。
茶髪の女は名前と態度の違いに可笑しさを感じながら男についてくるように促した。
結構までだいぶ余裕がある。
それまでは英気を養いながら時が来るのを待てばいい。
外から再度、壊れた魔術結界を構築し直すと二人は闇夜に姿を消したのだった。
部下二人:姐さんも人の事は言えねぇですぜぇ、、、( ̄ω ̄;( ̄ω ̄;)




