44幕:魅惑の屋台と初めてのライブ1 『地場産業は大打撃』
猫通り区の縁日初日を迎えた。
朝から通り中が活気に満ち業者や積荷の出入りは朝から続いている。
通りの両沿いにはすでに出店が立ち並び店員たちが忙しなく働いている。
亜麻猫亭の前でも前日から大きな出店が組み立てられ朝から飾りづけがされている。
昼過ぎにある程度出来上がった後、大まかに夕方少し前からお店が開店される。
今日を含め4日ほど続く予定である。
通りを端から順に区内にある様々なお店が開かれている。
亜麻猫亭が仕入れるパン屋さん、ココが大好物の串焼き屋さん、以前食べたケバブのお店屋さん、リーリの家の花屋さん、シェリの家の服屋さん、ピルファナさんとこの飲み屋さんなどなど。
もちろん区外の他にも、街外のお店、隣町からお店も大多数出店されている。
こちらには頭が残念な八百屋さんのフルーツパーラーやレールナさんの幼馴染アルスさんとこの手作りお菓子屋さんなども見受けられた。
通りの中央にはテーブルや椅子が規則正しく並べられており誰もが利用できるようになっている。
街路樹と交互に並べられ等間隔に魔石灯の暖かな明かりがすでに早くも照らされている。通りの端には簡易ステージが建設され4日間を通して催し物が行われる予定である。
その中には蒼葉とココのマジックライブショーも計画されており二人の出番は1、2、3、4日目の最後であった。亜麻猫区の縁日組織委員会の所属員による厳正なくじ引きの公平な結果である。
全くどこのどいつがこんなに蒼葉ココを押したのかは知らない、、、
そこからステージとは真逆の方向、街の中央側の一番端っこに蒼葉の出店はあった。
逆に中央側から遠い方、つまりステージ側に亜麻猫亭等の出店はあるのだがまだ営業が始まったばかりであり奥のステージの近くまでは人は流れてこないようだ。
亜麻猫亭では今回は簡単に供給できる軽食を中心に用意している。また注文が入ればその場で調理して出来立ての料理を提供もしているし亜麻猫エールや亜麻猫ラガーなどのお酒からルーリ監修のグッズ販売、そしてお土産用のデザートまで多岐に取り扱っている。
レールナが縁日の役員でもあるためお店の人数が心配されていたのだが、スタッフ一同結束の元、縁日を乗り越える予定であった。
ルーリ曰く蒼葉の予測できない裏切りと急な欠勤のため全体で人員が不足したためローロとココは離れ離れになってしまった。普段はマスコット役ではあるがちゃんとお手伝いもできる本当に孫の手、可愛い手でも欲しいはずのトミミ、アミミの二人も今日は保護者との外出のためこの場にはいない。
最近、ずーっと感じることがなかった孤独を抱えながらローロは自分とは違う外を見つめていた。隣では大方準備を終えた待機中のミナがそんなローロの隣に座り脇から通りを見渡している。
「今年はなかなか人の集まり悪いわね、、、みんな美味しそうなの食べてるけど、何かしらあの白いの?私も食べたいなぁ、、、あらもうこんな時間、レールナちゃんそろそろステージに行きなさいな。運営委員長がんばってね」
「あらほんと。ミナさん、お店よろしくね」
「お姉ちゃんいってらっしゃいです」
「ローロもよろしくね」
「はいです」
開催挨拶の予定時刻を過ぎる頃、レールナと入れ替わりでスタッフのリナが戻ってきた。
興味本位で先に通りを歩いてきたのである。
「ただいまーミナさんミナさん、蒼葉くんのお店見てきたけど物凄い行列できてたわよー」
「リナちゃんお帰りなさい。ほんと?私も見てきていい?」
「交代交代。あとねこれ蒼葉くんからの差し入れ。めちゃくちゃこれ美味しいのよ、ふぉふとくりーむって言うんだって。今日ルーリちゃん参加できてたら絶対、面白いことになったのに」
「あらそんなに?残念ねルーリちゃんの悔し顔と蒼葉くんのドヤ顔が見れないのは残念ね、、、どれどれ、、、これ美味しい」
「でしょでしょ!?それとねココちゃんたちが食べちゃいたいくらい可愛いの」
「それは行かなきゃ。リナちゃんちょっとここ任せたわ、そしたらローロちゃん連れていってくるわね」
「はーい、ごゆっくり」
ミナは隣で舌鼓を打っているローロの手を取り一応名義上のライバル店に顔を出すことにした。
「いらっしゃいませー、ブルーベリーナタデココのお店にようこそ」(蒼葉の営業スマイル)
「そふとくりーむ300クール、クレープ300クールー」(ココはにっこり)
「、、、ん。いらっしゃいませ。リンガソースとオレンギソースついかで追加で10クール」(小さなお辞儀でぺこり)
「お兄さんビールセット二つとソフトで2600クールね、彼女さんと楽しんできてね。ねぇそこのお兄ちゃん、セットで500クールでどうかしら?そうだ全セットなら2000クールだけど♩」(エルフ娘必殺の悩殺上目遣い)
「「「全部いただきます♩」」」
「貴様らこの列に2列に並ばんか!!そっちは割り込みをするな!!えぇーい!!」
「こらシド、もう少し丁寧に接客するのよ」
「貴様ら、この列に丁寧に並んでください、、、、、、くっ殺せ」(まさかの竜人のキメ台詞)
「おにいちゃんびーるせっと5こだってー」
「、、、ん。デザートセット8こ」
真っ先に元気いっぱいの微笑ましい笑顔を向けるのは金色の髪の女の子ココと赤茶色の髪の女の子パトである。
シェリ特性のユニフォームが可愛らしさを爆発させ見る者の目を優しくさせている。さらに声を掛けられた人たちは二人の無邪気な笑顔に心と財布の紐がガバガバになっているようだ。特に年配の方や女性を中心に保護欲を掻き立てられる世代は誰もが二人の頭を優しく撫でながら財布を取り出している。
「おじいちゃんありがとー。セットで10?わかったー」
特にココは天性の人たらしさが全開である。この笑顔、、、できる。
「、、、ん。ソフトクリーム10こ、、お兄ちゃん」
一方、パトちゃんはまだ人見知りが出てモジモジしながらも精一杯頑張っている。その様子はとても可愛らしい。蒼葉だけでなく他の人や亜麻猫亭の人たちにも慣れたようでこうして頑張ってお手伝いをしてくれているのでとても助かっている。
そして二人の幼女の傍で待ち構えているのはエルフの美少女アイスラの恐ろしい一撃である。
種族特有の美貌や白い肌、そして珍しい透き通るような水色の髪、シェリ特性のエロスと可愛らしさを詰め込んだ衣装が彼女をさらに引き立てている。
「お兄さん、、、どうかなぁ?」(誘惑するような流し目と谷間で)
なかなかのモノをお持ちなようで、ちょっとだけ覗き見える双曲の谷間が男性陣の目を誘った。
男たちは鼻の下を伸ばしながら近づき、女たちはその美貌に憧れを抱き寄ってくる。
その隙をついて彼女がわざとらしくアイコンタクトや声がけをしながらお客を引っ張ってくるので客足は全く途絶えない。
「そちらの彼女さん頑張ってね、セットで3000クール。堕としたいならさりげなく手を繋いだ方がいいわよ。あとはビール飲ませて判断を鈍らせるのが良いわ。ありがとう、追加で1000クールね。おまけのサービスしとくわね」
時折こちらにニヤリと視線が来るのだが、そこから彼女の本気度が伺える。
獲物が掛かったと言ってるようだ。
なかなかやる堕エルフである。
そしてそれぞれが世代や性別のターゲットに直接、品と金銭のやり取りを行い最後に一声かけたりとお決まりの追撃を忘れない。そして炸裂する悩殺ポーズと斜め上目遣い45度に120万点の笑顔と自然に触れるトドメの柔らかなボディタッチ。
これぞ教育のたわものである。
「ちゅ、注文した方はこちらへ並んでください、それから、、、えぇーい何故オレが、、、」
「シド、人前ではちゃんとする!!お姉さん方、お待たせしました、、、こちらをどうぞ。シドあっちのお客さんを並ばせてこい」
「えぇい、わ、わかりましたっ!!な、なぜ俺が、、、、くっ、こ、殺せ、誰か俺を殺してくれぇ」
そして堅物の竜人シドは見た目が強面のため雑務をお願いしている。
ほとんどアイスラに顎で使われているのだが。
薄い本のセリフを堂々と吐くなどけしからんのである。それでも彼がいるだけで粋がる人間は今のところ見えず安心して仕事に専念できるというものである。
蒼葉はもちろん調理係である。
同時並行で調理をこなしている。
伊達に繁盛店で働いてきたわけではない。お祭りやイベントなどの場数も豊富である。ときおり出来立ての品をココの魔法のバッグから取り出してもらい、辻褄合わせを行いながら提供する時間を調整していく。
その多忙の蒼葉を影で支えるのは小さな小さな黒いスライムのマロンである。
蒼葉の動きに合わせ神業とも言えるサポートを行いながら頑張っている影の功労者である。
蒼葉はホムホム村で仕入れた素材を元に作り出す至高のソフトクリームとクレープを港町で手に入れた蜂蜜やホルクスの果実で味の調整をする。
ソフトクリームがこの辺りにはないことは事前調査で確認済みである。似たようなものはあるのだが、シャーベットのようなものでこれには及ばない。つまり蒼葉たちの独占販売である。
片手間でクレープを焼き、それをコーンの代わりに丸めてからソフトクリームを盛り付けソースをかけて子供達に手渡し、冷めたクレープにソースや果物をトッピング硬めのアイスシャーベットを盛り付けエルフ娘に手渡す。
時折、蒼葉の横に戻り口を開けてくる雛鳥2匹と大きな雛1匹スライム1匹に甘い餌をやるのを忘れない。
可愛い幼女と美少女、珍しくて美味しいスィーツ、そして計算された接客マニュアルとお祭り価格と見せた適当な価格帯、そしてセット割りという甘い罠。メニューはそれだけではない。ほかにアルコール類や飲み物、香ばしい香りがする焼きそば、女性子供たちに大人気の綿あめの異国料理と異国菓子。全て周辺地域をリサーチした上での提供品であり蒼葉の数ヶ月の努力の結晶である。
蒼葉はメインからサブまで魔の手を緩めない。
全ては下克上のためだったのだが、それも杞憂に終わっている。
マジマジと見せつけたかったあの上司は急用で街を離れており蒼葉の叛逆心は空回りである。それにお店の手伝いを頼んでた塩胡椒組と下町娘組はドタキャン。いきなり出店できるかの大ピンチに陥ったけど、、、、3人のおかげでお店は大繁盛している。
ちなみに彼女たちがもし参加することができていたらこの場はもっとひどいことになっていただろう。もちろん蒼葉が用意していたメニューや屋台はこれだけではない。
とにかく残念である。
このまま街の人たちの財布の紐を緩くし徹底的に巻き上げ失ったボーナス分を何倍にして取り戻す。
全ては打ち上げを豪勢にし帰宅した上司の顔を上から目線で見下し引き攣った顔を楽しむために。
可能なら隣でお金の収支状況を見せつけてやるのである。
縁日ということを利用し遠慮なく本気で商売をしている蒼葉たちをすぐ近くで眺めている二人がいた。
彼女は小さな女の子と手を繋いで行列を一心にに捌いている光景を見て納得した。
どうりでステージまで人が流れてこないわけだ。
縁日では猫通りの入口という最悪の場所で外から訪れた人たちを最大限にカモにしているのだから。
そして納得した。
ルーリが最大限の警戒をしていた理由、あの手この手を使って身内に引き込もうとした理由が分かったからだ。そして彼女は思い出した。
「なるほど、これはすごいわね。このまま4日間続けば猫通りの地場産業は大打撃だわ、、、そっか、だから蒼葉くんは『縄張り荒らし』って呼ばれてるのね」
「、、、。ミナお姉ちゃん、たぶんそういう意味じゃないです」
「あららそうなの?これが今、商業ギルドで二つ名を与えられた期待の新星って聞いてたんだけど、、、ランクも何段も飛び級して異例だって、、、」
「ミナお姉ちゃん、それより早く行きたいです」
「そうね、、、じゃローロちゃん敵情視察に行こうかしらね」
「はいです、次はこっちの差し入れを持って行くです」
とりあえずあの口を広げている可愛い小さな雛たちの隣で自分たちもあーんと口を開けてみようかしら、、、そう画策するとミナはローロと一緒にお店へと足を進めたのだった。
ココ、パト、アイスラ:あーん( ^o^ ) ^o^ )^o^ )
ミナ、ローロ:あーん( ^0^ )( ^0^ )
蒼葉:あれっ?雛が増えてる? Σ(゜ Д゜ ) !?




