41幕:バレた魔道使いと東の国の殺し屋4−1 『企らむ青年』
ペシペシ。
ペシペシ。
ペシペシ。
いきなり目の前がガクンと揺れ身体中の力が抜けた。
思わず地面に膝をつき転びそうになるがすぐに倒れないように両手で体を支えた。
徐々に痺れが抜けていく感覚を自覚しながら力の込み具合を少しずつ確認していく。
そんな時、頭は頭にペシペシと触れる小さな感触を感じ取った。
金色の髪はさらさらふわふわで後ろに二つに纏めて亜麻猫の髪留めで左右にわけ止めている。こちらを覗き込む小さくて大きな瞳はエメラルドグリーンのようにとても綺麗なのだが、少しだけ曇ったような気がした。
「あおばおにいちゃん、おにいちゃんだめだもん」
「、、、。」
「えがおがいちばんだもん」
「、、、。」
まっすぐに彼女の瞳を見つめた。
その瞳に自分自信が写っていた。
無機質なほど硬く冷たい自分が。
自分の未熟さを自覚する。
こんな小さな子に心配されていたのだと。
自分のバカさを認識する。
こんな小さな子の目を曇らせていたのだと。
自分の無能さを思い知らされる。
つまらないことで頭がいっぱいいっぱいになるとは、、、
「ココごめんね、お兄ちゃん皆から怒られてめちゃくちゃイライラしてた」
「ちゃんとココとみんなでおこったからだいじょうぶだもん、それに、、、」
「それに?」
「おにいちゃんのまほうはえがおにするまほうだからわらわないとだめだよー」
「確かに、、、そうだよね」
笑顔の魔法、、、
まっすぐな瞳を見ているともやもやしていたものが消えていく。
今は目の前のことに集中するときだった。
報復は後でやればいい。
1回目の頭の薄そうな人ならともかく次は誰が試験管になるかわからない。
少なくとも確実に自分より強い人だろう。
手も足も出ないかもしれないし一撃でのされるかもしれない。
けれども自分が弱いとはいえ情けない格好だけは子供達の前では晒したくない。
子供達の前では格好良くいたい。
それに、、、
ここは駆け出しの冒険者や職員から付き添いまで何百人も集まる舞台。
自分がそうだったように全ての視線が目の前の二人に注がれる。
そんな人前に出る以上、エンターテイナーとして冷めた行為は許されない。
せっかくのチャンスなのだから舞台はとことん盛り上げるに限る。
ココとシルクお婆ちゃんの試合の余韻は誰しもが残っているだろう。
あの壮絶な試合の後で同じように派手な演出は蒼葉には無理だ。
だけど違う方法なら、、、
これをやったら知人のオーガさんに本当にトドメを刺されそうだが気にすることはない。
今、蒼葉にできることはあれしかないのだから。
「ココ、あのね白色のバッグ出してくれる?」
「うん、どうするの?」
「ふふふ秘密だよ、楽しみにしててね」
「えー!?」
「それよりお兄ちゃんはつい先日魔法剣士からジョブチェンジしました」
「うそだ!?ココきいてないもん」
「そりゃ秘密にしてたから。ちなみにシャドーです。あの東の国の物語の少年と同じ影とか忍者とかのやつです。」
「あぁあぁー!?あのおはなしのやつだー。おにいちゃんずるいずるいー、ココもなりたかったやつだもん。つづきもきいてないもん」
小さな眼がギラギラと輝いている。
この感じ魔法剣の時にも見たような覚えがある。
「ふふふ、、、闇に生きる正義の味方のシャドーは厳しい修行を積まないとなれないのです、もちろん秘密だけどね」
「ずーるーいー。むぅーつづきは?それとまほうしょうじょのつづきは?」
「終わったらまた話してあげるからね」
両頬をぷくーっと膨らませたココの小さな頭を優しく撫でる。
「ほんと?」
「ほんとだよ」
「じゃあまほうのせんせいのおはなしも?」
「ココがお利口さんにしてたらね、じゃ頑張ってくるね」
「うん、いってらっしゃいあおばおにいちゃん」
元気にぶんぶんと両手を振る女の子の小さなほっぺをつんつんと突いてから蒼葉はその場を後にした。
目前の見た目とは違う軽い大きな扉を開け中を覗く。
中央に見慣れた男性が剣を地面に置き両手を添えてこちらを眺めていた。
赤い髪は長く白髪混じりであり、背格好は蒼葉よりも高く、そして大きい。
「待ちわびたぞ、、、では始めようか青年」
彼はニヤリと笑うとそう口にしたのだった。




