39幕:バレた魔道使いと東の国の殺し屋2−3
とんでもない魔法合戦が始まった。
観客は誰もが息を吐くことを瞼を閉じることを忘れ目の前の信じがたい光景に釘付けにされていた。
「補助魔法も回復魔法も全属性もできたから次は同時詠唱じゃのー」
「わかったー」
杖の周りに青、緑、黄、茶の4種の魔力の球体が展開し回転しながら合成され一つの輝く球体となった。その球体はさらに回転しシルクへと解き放たれた。
その球体からはとてつもない魔力が感知できるのだが、シルクは難なくその合成魔法球を霧のように霧散させると再度ココに語りかけた。
「合格じゃのー、いつのまにか合成までできて偉いのー。次は遅延術式なー」
「うん、ちえん」
「えーとしいちがし、しにがはち、しさんじゅうさん!!」
可愛いい声が響き先ほどの合成魔法球が瞬時に四個できあがった。
そして小さな杖が振られるタイミングで彼女の周りに合計で20個の同じものが展開される。
「そしたらそれを形態変化するんじゃてー、好きなものに変えてええなー」
「うん、えーーとどうぶつにするー」
ココは少しだけ悩んでかわいい動物たちを選んだ。
お兄ちゃんとの特訓の末、できるようになったモフモフたちである。
「ことりさん、へびさん、うしさん、にゃんこさん、まろん、わんこさん、おにいちゃん、どらごさん、そふぃあおねえちゃん、あとあとしゅーくりーむに、、、ぷりん、けーき、、、ほかいっぱい」
ツッコミどころが満載であるのだが、そんなことに気づくものは一人もいない。
展開されていた魔力の塊は瞬時に形を変え生命を宿した。その造詣は本物そっくりであり一つ一つの仕草が偽物だと言えないほどのできである。ほかに魔法でなぜか浮いたまま動かなくなったものや正座して説教を食らう誰かさんとオーガとなった誰かさんなどが見られる。
「ココちゃんやそれを婆に放ちなはれなー」
「わかった、、、えい」
20の異種属性混合合成魔法の塊が放たれた。
だがシルクの前には分厚い壁のようなものが展開されそし撥ね返された。
「さぁココちゃんやどうするなー」
「んーとねこーするー」
反射された魔力の塊が小さな女の子に襲いかかる。
誰しもがあっと声をあげてしまった。
だがその魔力の塊は全てその女の子の前で瞬時に消えてしまう。
「おー魔法を吸収したのー。ココちゃんやーえらいなー」
「うん、ココおりこうさんだもん」
ここまでのやり取りは全て観客側でも聞こえていた。
その度に嘘だろ、信じられない、冗談じゃない、詠唱破棄嘘って冗談だろ、あんなの真似できるわけがねぇと様々な驚嘆の声が飛び交った。
長い詠唱による魔術など一度たりとも無い。
純粋な魔力によるぶつかり合い。そして魔法による神業の数々。
二人のやり取りは最初から異次元の領域に入っていた。
「最後は、、、魔道使いたるもの魔法や魔術が使えないならどうするかのー」
「それはもちろんちゃんばらするー」
「じゃあ婆とちょっとだけちゃんばらするのー」
「うん」
シルクは空中の小さな魔法陣を展開させそこから一振りの剣を取り出した。
地下訓練室に置いてある模擬刀の一つ、刀身が短い見た目通りの短剣である。その短剣は刃先を潰されていたのだがシルクが持つ短剣は違う。
刀身が青く輝いている。
「属性付与魔法か」
咄嗟に誰かが口にした。
武器に魔力を纏わせるだけでなく属性を変えた魔力を纏わせることでその特性も持つ。刀身が青く輝いていることから水系の魔法であることは間違いないだろう。
魔力付与だけで中々の難易度である。それも属性を切り替えた上での付与である。
もちろんその難易度は跳ね上がる。
それを詠唱破棄したまま瞬時に行えるなど人間を辞めているに違いない。
そもそもこの二人の選定の最初から誰しも真似できない難易度だったのだが、誰も理解が追いついていないのだろう。
そんなことにはお構いなく二人の魔法大合戦はなおも続いていく。
「まほーけん」
杖から迸る魔力が小さな刃を構築していく。
一方でココも小さな魔法陣を左手展開させ中から一振りのソーセージを取り出した。
「ぶるーべりゅう、、、さんだーそーど、ふぁいあそーど、、、かぜのまい、、えいっ」
二つの魔力剣が黄色と赤色に輝き出す。それから片方はバチバチと何かがほとばしり、片方はメラメラと燃え出した。
両手に魔法剣を持ったココはその場で宙に浮き突貫した。
打ち合うことわずか1分。
だがその1分はとてもつもないほど凝縮された1分であった。
ココは風のようにとてつもない速さでシルクに何度も切りかかった。
文字通り風となったココの動きを目で追えたものは何人いただろうか。
一方、シルクはその猛攻を水のように落ち着いて踊るように捌く。まるで舞い踊る貴婦人のように。
それもあっという間だった。
その終わりは唐突すぎた。
左手に持っていたファイアソードがぷすぷすと煙を上げた。
どうやら燃えつきたらしい。
さすがにソーセージでは無理があったようである。
しかし誰も言葉を発するものはいない。
誰しもが唖然としていた。
異次元の世界だった。
ただ一方で眼科に移る目の前の光景はこれまで見た光景は選定と言えるものではなく、、、すべてがまるで授業のようで、そして祖母が孫に丁寧に教えるかのようなほっこりとした光景であった。
ただし教えていた内容はとんでもないものでありこの場にいる誰しも、魔法や魔術に造詣があるものだけではなく全ての者を驚愕させ、そしてどん底に叩き落とした。
「ココちゃん次が最後じゃのー、うーんと今一番の超必殺技を婆に打ちなはれー」
さすがシルク婆ちゃんである。
ココが飛びつくフレーズを使いこなすとは、、、蒼葉だけが気づき納得した。
ルーリはそんな彼に疑問を浮かべながらちらりと見つつ、、、また視線を二人に戻す。
きっと誰もが二人から目を離せないでいることだろう
彼女も目の前の光景を信じられずにいるうちの一人なのだから。
「しるくおばあちゃん、、、じゃあいくねー。ぶるーべりゅう、、、、ひおうぎ」
左右に開かれた小さな左手と右手が輝き始め、それぞれに色が灯る。
右手は青く、そして左手は赤く。
青と赤の魔力がだんだんと調和し繋がり始め白く輝き出す。
そして少しずつバチバチとスパークし始め、、、やがて一気に光量が跳ね上がった。
「ココちゃんやそれ誰に習ったのかのー?」
「うーんとねあおばおにいちゃん!!きょくだいしょうめつじゅもんっていうんだって」
白い光は訓練室を満たし観覧席までも覆い尽くした。
●補足説明
・ココ:魔法と魔術を使う魔導使いの小さな女の子、シルクお婆ちゃんから魔法や魔術を教わる。
・鈴宮蒼葉:いきなり知らない世界に迷い込んだ大学生。趣味と実益が同じであるためどこの世界でも食っていけそう。ココと出会ってから様々なことを教えこむ。
・シルク婆さん:魔術と魔法を使いこなす美人エルフのスペシャリストで世界的有名人らしい。亜麻猫亭常連であり蒼葉のスイーツの大ファン。ココに出会ってからは常に魔法や魔術を教えていた。
・ソフィア:ホルクスの街の仕事ができる美人職員。蒼葉とココの担当係でありレールナの親友であり蒼葉の目の上のたんこぶ。オーガモードのことには触れてはいけない。
・ルーリ:亜麻猫亭の次女。蒼葉の上司、彼とは常に衝突したり逆に共同戦線をはったりと気は合う模様。
・リルリ:ルーリの親友の一人で愛称はリーリ。猫通り3人娘の一人。今日はギルドで臨時のバイトなのだが観覧席で観覧を許されている。淡白だが世話好きな性格の持ち主。
・神官ペッパー:ルーリより歳上の美人神官。亜麻猫亭の常連でルーリの友人の一人。最近の趣味はココに餌付けすることと蒼葉の異国料理とスイーツを食べること。
・魔術師ソルト:ルーリより歳上の可愛い系魔術師。亜麻猫亭の常連でルーリの友人の一人。最近の趣味はココに餌付けすることと蒼葉の異国料理とスイーツを食べること。
・ローロ:亜麻猫亭の末っ子でありココの大親友。ココのことが心配で不安。
・トミミ:小さな猫耳の男の子。可愛らしいお耳としっぽの持ち主で誰かにしがみつくのが癖。
・アミミ:小さな犬耳の女の子。可愛らしいお耳としっぽの持ち主で誰かにしがみつくのが癖。
恐れ入りますが、、、、ココに癒されたい方、蒼葉に同情していただける方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。




