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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
第0章 ホルクスの街と英雄街
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38幕:バレた魔道使いと東の国の殺し屋1 『駆け出し冒険者の戦い』

 


 とても空気が重い日だった。


 空は雨雲がのしかかり家の屋根に擦れるくらいに低くとても薄暗い。室内からは灯が外に漏れ出し通りをうっすらと照らしておりまるで朝と夜の時間が逆転してしまったかのような錯覚を覚える。

 それに肌が湿っぽい感じがするのは気のせいではないだろう。

 裏庭では小鳥たちは地面すれすれの低空飛行を行い蛙たちはオペラのように壮大な合唱を響かせている。

 雨が振り出さないのが不思議なくらいだ。


 普段なら2Fの窓から差し込む光だけで施設内は十分な明るさを保てているのだが、今日は朝から全ての魔石のランプを点灯させ無機質な光で屋内全てを照らしている。

 だから思っていたよりも室内は明るい。

 だが蒼葉はなぜだか気持ちは暗いままだった。



 そんな暗さを感じさせる彼とは違いギルド内は様々な人たちによって喧騒に包まれていた。

 大剣を装備したとても体格のいい少女、綺麗な鎧に身を包んだか弱そうな青年、薄手の軽革鎧のハーフエルフっぽい少女や小さな弓を抱えた獣人族と見られる青年に杖を持った小さな身長の女性まで多種多様な種族が見てとれる。

 ただし人種だけで言えば人族が大半であるし性別で言えば男性が7割以上のようだ。

 ホルクスの冒険者ギルドでも人族じゃない種族の職員もいるし、人族以外の光景が珍しいわけでもない。ただ少ないだけである。

 それでもこれほどまでギルドが混雑することは滅多になく珍しいことだった。


 今は多くの冒険者が受付に並んでいる。

 開始予定時刻は8時頃の予定であり、その全員が始まりを今か今かと待ちわびている。

 蒼葉もそれに習いココと一緒に並んだ。

 小さくてプニプニした手を見失わないようにしっかりと優しく包み込む。

 これなら迷子になることはない。

 これだけ人が揃う光景を見たのは初めてなのか、彼女はさきほどからずっと周りをキョロキョロと見渡している。ただその間も小さな手は蒼葉の手をぎゅっと強く掴んで離さない。

 たったそれだけのことだが蒼葉はなぜだか嬉しくなった。



 さて話を元に戻すが今日は誰もが待ちに待った新人冒険者ランク選定の日である。

 地下訓練室にてギルド職員の前で己の修練を見せることで己のランクを選定されるわけだ。

 冒険者には10段階ほどのランクがあるらしく、当人の力量やギルドからの評価、依頼主や第三者からの評価でそのランクが決定される。

 新人の場合、普通は最低ランクから始まるが中には2、3個くらい平気で飛び級するほどの人間もいるのだとか。

 もちろんそんなことになればギルドや第三者からの指名依頼が優先して入るようになるし何か良いクエストを斡旋してもらえる確率が高くなる。

 つまりその選定のランクで今後の人生が決まるといっても過言ではない。

 だからだろうか施設内外は街外から詰め掛けた多くの人で賑わっている。


 今ここに集まっているのは冒険者として新人ばかりである。

 蒼葉やココと同じ新人である。

 見た感じ10代半ば以上から20代くらいがほとんどだろうか、少なくともココのような子供は一人もいない。

 だから蒼葉とココが周囲からの視線に晒されたのは必然であった。なぜこんなところに小さな子供がいるのだろうか、そんな目で語りかけてくるような気がしたが蒼葉は気にせず周囲に溶け込むように振る舞い選定のことだけに思考を向けた。


 蒼葉からすれば当分先に伸ばして欲しかった選定であるが、ギルドの意向に従わざる得なかった。ソフィアが謹慎を食らうほどあの手この手で庇ってくれたことは間接的に聞いていた。

 今までなるべく先延ばしにしていたこと、あの手この手で正式な冒険者登録を行うことも含めて色々と彼女に甘えていたのだ。これ以上彼女への負担は心情的にも許されない。


 受付に並んでいる列の後ろから中を改めて見渡した。

 前方では職員さんが名簿と各新人たちのリストとの整合をしているみたいで頭を悩ませており、目立つ銀色の髪の青年もその脇で慌てながら仕事をしている。

 ちなみに知人の美人さんは奥の方で忙しなく指示を出しながら周りを動かしており、それなりの地位にいるか、もしくは仕事ができる立ち位置にいるのかが伺える。

 また中央では髪が薄い人が頭に汗を浮かべ陣頭指揮を取っており、、、とにかく皆さん見るからに大変そうである。


 蒼葉とココは受付を済ませ断りを入れてから一旦、亜麻猫亭に戻ることにした。

 今日はギルドから軽食の大量注文が入っており亜麻猫亭の人出が足りていないためだ。

 すぐに蒼葉たちも戻ってから手伝うつもりである。


 受付で蒼葉たちの選定に関しては夕方くらいになるだろうと聞いているので全ての注文を捌いてから行くつもりである。

 どうやら今日も大変な1日が始まりそうだ。




 大量の注文のほぼ全てが冒険者ギルドからの注文であった。

 大量のサンドイッチと飲み物、それから甘いお菓子類にケーキなどなど。

 仕事の片手間に手軽に食べられるものばかりだ。

 調理場の脇に置かれた注文用紙の束はとても分厚く一行に減る様子はない。


 一息つく間もないほど必死に蒼葉は調理し続けた。

 隣ではレールナさんやミナさんリナさんも必死に鍋を振るっており誰も休む気配はない。

 次女は大量の注文の事務処理とそれ以外のことから雑務処理まで全てを片手間で同時進行しつつ片付けている。すごい娘だ。子供たちは大量の調理道具や食器類を洗ったりふき取って並べたりルーリさんの指示通りに頑張っている。


 蒼葉は厨房を女性陣に任せ他のスタッフや臨時スタッフとともに四苦八苦しているサンドイッチの補助に回った。どうやらこちらの方がだいぶ遅れているようだ。

 一瞥したところ手順に乱れが生じておりこのままだとまずいことになりそうだった。

 空いたスペースに入りツナに卵、謎肉に色とりどりの野菜類からカットした果物までこれらをすべて適当な大きさと量でバターが塗られたパンで挟み込んでいく。

 工程を再度役割分担し己の作業を自覚させてから一つ一つ丁寧に、そして最大速度で蒼葉は軽食を作り上げていく。

 数分ほどやり方の見本を見せて最後にもう一度こちらのスタッフに指示を出し直してから蒼葉は次のデザートの方へと移動した。

 こちらは前日にすでに大量生産し終わっているので容器に入れて食べるときに加えるソースに一手間加えてから終了である。

 あとは最後の盛り付けだろうか、これが簡単なようでとても難しい。

 これには蒼葉が直接全ての容器に入った品々を手直しして回った。


 このままのペースで行けば第一陣も第二陣も余裕そうだ。

 本番はこれから昼食と重なる時間帯である。

 今のうちに仕事を先行させとかなければならない。

 蒼葉は調理場と食堂を見渡すと先に終わらせるべきものを把握してすぐに取り掛かった。





 昼食も取らずに調理に没頭していると隣から声がかかった。


「蒼葉くんそろそろ顔出した方がいいわよ。ここは私たちに任せて頑張ってきなさい」


 額に汗を浮かべた姿がとても眩しく白い布の髪留めから覗く亜麻色の髪と白い肌とが絶妙な大人なエロスを感じさせる女性である。もちろん亜麻猫亭の主人レールナさんだ。

 素敵な笑顔を蒼葉に向けて応援してくれている。

 その宝石のような笑顔が蒼葉の心を照らしてくれている。


「レールナさん、、、」


 彼女に会釈してからすぐに次々と声がかかっていった。

 後ろからは年上の女性二人がすぐに声をあげた。


「蒼葉くん、美味しいもの作ってるから頑張ってきてね」

「ココちゃんと一緒に頑張りなさいね」


 二人ともぶっとばしちゃいなさいとの可愛らしいジェスチャー付きである。同じようなジェスチャーを同じように真似て笑いながらお礼を口にする。


「ミナさん、リナさんありがと」


「「「蒼葉くんがんばれー、ココちゃんがんばれー」」」


 スタッフの声が次々とこだまする。

 軽くお辞儀をしてから蒼葉は調理場を後にした。


 着替え終わり荷物を持ってからココとともに玄関へと向かった。

 そこにはトミミとアミミとローロちゃん、そしてルーリさんが出迎えてくれた。


「おにいちゃがんばれぇ」

「ここちゃがんばれぇ」

「お兄ちゃん、ココちゃん頑張るです」


「ありがと、ココがんばるねー」


 可愛らしい応援に小さな女の子は両手をひょいひょいと振って合図を送る。それに負けじと3人もお返しに手を振っている。振るたびにぴょんと跳ねた3人の髪の毛が動いて可愛らしい。

 そんな子供達のやりとりに和みつつルーリは蒼葉をまっすぐに見つめた。

 それから二つの包みを彼の目の前に刺し出した。


「蒼葉くんこれあっちでちゃんと食べてね。ココ危なくなったらお兄ちゃんを盾にすること。必ず相手の弱点を攻めること。とにかく弱点よ、ソフィアさんと一緒に教えたとおり杖で思いっきり叩くのよ、いい?」


「うん、ルーリおねえちゃんココがんばってくるね」

「うん、責任は全て蒼葉くんがとるから精一杯がんばるのよ。あとで応援にいくからね」


 彼女は腰を下ろし目の前の女の子に視線を合わせた。

 プニプニのほっぺや細い腕は小さくてとても柔らかい。

 ふわふわの金色の髪の毛はとてもしなやかで肌触りが良く、エメラルドグリーンの瞳は宝石のように汚れなく輝いている。

 ルーリが整えた髪も邪魔にならないように一纏めにしており、髪型といい今日はいつもより冒険者らしい格好も相まって可愛さが普段より倍増しているようだ。

 そんな目の前の天使がぽふっと胸に飛び込んできた。


 ほんと可愛らしくて愛おしい。


 ルーリは一呼吸置いてからココを両手で力強く抱きしめた。

 すぐに子供達がそれぞれ後ろから抱きついた。


「行ってらっしゃい」

「うん、いってきます」


 手をブンブン振るトミミとアミミ、優しい目をしたルーリ、そして今にも泣きそうなローロを後に蒼葉とココは亜麻猫亭から歩き出した。

 目指すは冒険者ギルド。


 今から駆け出し冒険者の挑戦が始まる。



●登場人物


・鈴宮蒼葉 いきなり知らない世界に迷い込んだ学生。奇術とピアノが特技。

・ココ 魔法と魔術を使う魔導使いの女の子。天然の人誑しでありとびきりの笑顔を持つ。


・ソフィア ホルクスの街のとびきりの美人職員。蒼葉とココの担当係でありレールナの親友。子供が大好き。

・レールナ:亜麻猫亭の長女。凄腕の料理人であり亜麻猫亭のオーナーでありとびきりの美人さん。ケモミミと尻尾と子供が大好き。

・ルーリ 亜麻猫亭の次女。蒼葉とココの恩人であり類い稀な商才と先見の目を持つ美少女。ケモミミと尻尾は姉に負けず大好き。子供も大好き。

・ローロ 亜麻猫亭の末っ子でありココの大親友。頭脳明晰な女の子。

・ケモモモ 子供たちを探して異国からやってきたケモミミの美少女神官。ギャンブル大好き。

・トミミ:小さな猫耳の男の子。可愛らしいお耳としっぽの持ち主。

・アミミ:小さな犬耳の女の子。可愛らしいお耳としっぽの持ち主。


・ミナさん:亜麻猫亭スタッフの一人。綺麗なママさん。

・リナさん:亜麻猫亭スタッフの一人。可愛らしいママさん。




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