始まりのおはなし3
プロローグの3
「りあお姉ちゃん、お兄ちゃんいないよ、、、。」
私と月華ちゃんが分断マジックの練習の最中に気づかない間に消えてしまった。綺麗さっぱりと。
バイトの時間も過ぎているし練習の合間、私たちの隙を見てにどこかに抜け出したのかもしれない。残りの仕事を片付けに行ったのだろう。私たちに見つかることなく消えてしまうなんて奇術師は本当に凄いと思う。
そのうち顔を見せるだろうから今日の練習はこの辺りで終わらせよう。流石にお店のビルの上階に自宅があるとしても小学生を夜遅くまで夜更かしさせるのは気が引ける。上まで送ってから今日は私も帰宅しよう。
「月華ちゃん、お兄ちゃんはたぶん仕事に戻ってるだろうから今日はここまでにしようか。家まで送ってくね。」
「、、、うん、でも、、、お姉ちゃんありがとう。」
お兄ちゃんが気になるようだ。
彼にはすごく懐いているし最後にマジックを教えて貰った手前お礼もせずに別れるのは気にさわるのだろう。次に会うのは1週間後くらいだろうか。大学の講義の都合で1週間ほど働けなくて収入が落ちるので頭を抱えてたから。私も来週は忙しいので。
来週が楽しみかな。
ちょっとした期待を胸に仕舞い私は彼女とお店を後にした。
『魔導大国アトラティア』
この世界で『三大国』と呼ばれる国家がある。
世界に多大なる影響を持つその国家の3つのうちの1つに確実に入ると言われている大国の一つである。国自体の面積については小国クラスなのだが大国と呼ばれる所以はそこではない。魔導の分野において他国に類を見ないほどの力があり、その力を扱えるほどの技術、そしてその技術を扱える人材、その3つの全てのレベルが他国から頭一つ以上抜きん出ているのだ。
その大国のどこかの町か村の近くにテレポートした。
もちろん彼女が知る限り安全そうな場所である。森の中だったり川の中もしくは川の上だったり、空の上だったりしたら危ないので人目につかなさそうな田舎のとある地域であり、治安も大変良く、冒険者や住民を襲う怖い魔物などもほとんど出てこない安全地帯なのだそうだ。「世界の観光ガイドブック アトラティア国編」にはそう記述してあった。家出する前に熟読したから間違いない。
辺り一面見渡すと小さな果実の樹木が立ち並ぶ林の中。
太陽の優しい光が林の中に差し込み辺り一面を甘い果実の香りと林の清涼感溢れる独特の香りが感じられる。その林を抜けたすぐそばには川に沿って道が整備されてあった。それなりに行商人やら地元の人が使用するのだろう。
少女は大まかな現在地を確認するとまた林の中に戻った。
今から使い魔を召喚するためだ。そして誰かに魔法や魔術を見られないためである。
子供が魔法等の異能の力を人前で使えば必ず悪い大人に利用される。だから絶対に今は人前で使ってはいけないそうだ。そんなことを家族に耳にタコができるほどいわれ続けてきたのだ。
特に父様と祖父様に。
二人を思い出したらムカムカしてきたので魔術保管庫の呪文を唱え、中からお菓子を取り出した。この日のためにお菓子やら食べ物やらありとあらゆるものを中に保管している。
魔術保管庫は本当に便利だ。
色々なものを保管することができる。食料や水はもちろんのこと。椅子やテーブルといったものから、家といった大きなものまで自身の魔力量に応じて保管することができるのだ。もちろん何を保管したかも把握することができる。
甘い焼き菓子を食べながら、林の中の平べったい地面の上で魔法陣を描く。もちろん召喚の魔法陣だ。
今から呼び出すのだ彼女のための使い魔を。
待ちに待った可愛い使い魔を。
プロローグの3