25幕:ココと蒼葉の5のサイン4 『第5のサイン』
柔らかく小さな手がその髪に沿って動きブロンドの長い髪が少しだけ揺れている。
ただし動いているのはその可愛らしい手だけであり体は相変わらず拘束されている。
いや先ほどよりもさらに強くなっているのではないだろうか。
小さな金色の髪の女の子は両手で抱きしめられているのだから。
ココは少し俯いたソフィアの頭をよしよしと撫でている。
レールナの再度の説明により落ち着きを取り戻したものの、改めてココの一言がその場を凍りつかせたからだ。
「ココもあおばおにいちゃんもけるべろすにたべられそうになったよー。でもちゃんとやっつけてともだちになったもん」
実に微笑ましいことなのだが、ほっこりとできるような内容ではなかった。蒼葉とココの置かれた状況がとんでもない状態だったことを彼女は改めて理解したのである。
けるべろすとは蒼葉とココを襲ってきたあいつのことであり、まだ仮名である。
「そーいえば蒼葉くんどうやって倒したの?」
身を前のめりにさせてルーリが声をかけた。
今はソフィアの隣に座る彼女が新たな面接官となったかのように二人を質問攻めにしている。
二重の瞼が実に可愛らしい彼女だが、このタイミングは実に悪い。
「えーとね道具使ったんだよ。」
「道具?」
「そうそう、道具。」
「道具って何?」
「それは秘密。冒険者のルールってやつ」
「えー!?蒼葉くんのケチ」
「それより遠方で監視員が見てるっていうから上空に癇癪玉打ったのに誰も来なかったんだよ。それに大門から誰も助けに来てくれないし、、、」
「ちゃんと手配はしてたのよ。そっちの門の近くに大きな穴ができたらしいのよ。それで通行規制がかかったらしいの。でも監視員がいなかったって、、、、どういうことかしら」
顔を上げたソフィアが顎に手を添えて考え込んだ。
たぶん彼女の仕事上での過失はほとんどないのかもしれない。
今回、化け物スライムに遭遇したことは偶然と見るべきだろう。ただし彼女に全く落ち度がないかといえばないとも言えないのだが。
監視員がいなかったこと、街の周辺に化け物を近づけたこと、癇癪玉等のサインを見逃したこと、などなど彼女にというより、むしろギルド側自体かその周りの非、もしくは行政等の第三者側の非が大きいだろうと蒼葉には思えるからだ。
もちろん後ほど詳しく情報の精査はしなければならないが。
「それにしてもこのスライムすごいな。本当に人の言うことわかってるみたいだぞ。」
「ほんと気持ちいいわね、けるべろすちゃん?」
「ルーリこれめっちゃ気持ちいいぜ」
レールナにマークスとピーターの3人は先ほどから黒い小さなスライムの相手をしており、会話したりぷにゅぷにゅと感触を確かめている。なんだか子供を見てるようである。
そんな3人を横目にしながら件の件は話が進んでいる。
「まぁいいわ。とにかくこの件はギルドで精査するわね。無くした装備品とかも補填できるように掛け合ってみる。それからその件の子供たちはレールナしばらく保護をお願い。あとでこちらからもお医者様と聞き取りに誰かが訪問すると思うわ。あとは、、、監視員といえば、、、あいつ後でしばく」
「ギルド姫、とりあえずよろしくお願いします。」
「こら年上をからかわない」
笑みを浮かべた怒り顔がとても可愛らしい人である。
仕事もできるみたいだしフォローも欠かさない。これまで細かいところまで相談に乗ってくれてもらっているし、こんな美人のお姉さんが担当してくれるなどとても幸運なことである。
「マークス、けるべろちゃんいつまでもいじらないで近いうちに魔法屋さんに二人を連れてってあげて。」
「おーいいぞソフィア。使い魔契約だな。」
「ええ、それでお願い。費用は、、、ギルド持ちになると思うわ。とりあえず事情を説明して請求書をギルドに持って来てくれるかしら。」
「確かに承った。これだけ知能が高いとすごく良い使い魔になるだろうな。それにココ、青年、あそこは実に面白いところだぞ。」
「やったーここのはじめてのつかいまだー♩」
「ほうそれはそれは」
マークスさんが言うのだから何か面白いことがあるのだろう。
実に楽しみである。
無くしたものも補填してもらえるみたいだし残り少ないお金もなんとかなるだろうし、やっと落ち着くことができたようだ。ココも聞いた途端に手足が揺れておりとても嬉しそうだ。
ただ敏腕面接官はまだ仕事を終えていなかったらしい。
ほっとした蒼葉を見て一瞬の隙を逃さなかったようである。
「それでココどうやって倒したの?」
この敏腕いや堕天使、全く諦めていないらしい。
これはひょっとしたら大門の人たちから変な噂とか出回っているか、、、情報を少し掴んでるんじゃなかろうか。それとも単なる好奇心か、、、
「まほうつかってたおしたよー」
「「「「!?」」」」
ぽろっとココが答えるものだから内心ものすごく動揺せざる得ない。蒼葉の顔には出ずとも内心心臓がバクバクものである。
少しでも油断すると表情や仕草からバレてしまう。少なくとも目の前の上司は頭はキレる娘だから。
「ココ魔法じゃなくて、、、魔法を放てる魔道具だよ。」
そしてココだけが気づけるように第5のサインを見せる。
はっとした彼女も気づいたようである。
それは第5警戒態勢のサインであり二人で決めた特別なサイン。
5、、、とにかく可能な限り誤魔化すためのサイン、誤魔化すのご、、、だから5のサインなのである。
そう、今から全力でこの場を誤魔化すのだ。
蒼葉は表情を一切変えずに話を並べまくる
真実を入れつつ嘘がバレないように。
そして肝心なこと餌をぶら下げて勝手に想像判断してもらうように。
だからこそココに合図を送るのだ。
切り抜けるための5のサインを。
きっとこの時の蒼葉の顔をリアさんが見たらこう言われそうだ。
「青くん、悪い顔してる」と。




