16幕:ココと蒼葉の初めてのクエスト 『ぶるーべる流の教え』
毎日、お勉強と訓練の日々。
もちろんローロや、近所の子供たちと時間があるときはいろいろなことをして遊んでいる。
たまに蒼葉やルーリが加わることもある。
そんなときはさらに楽しくなる。
二人とも全力で遊びに参加してくるため少々大人げないのだが、本気で子供達と向かい合う姿に子供達からも人気が高い。
そして毎日ココはレールナか蒼葉の美味しい手料理に舌鼓を打っている。二人の色々な料理はココをとても幸せな気持ちにさせてくれるのだ。
でも彼女には不満がある。
それは少しずつ蓄積していったものであり、今まさに彼女の中のある一定レベルを超えようとしている。
ココは街の外がどうなっているのかすごく気になるのだ。
彼女が住んでいる区域近くの区域、良く買い物をする商業区、そして子供たち同士で遊ぶ区域、ギルドがある行政区以外はまだ出かけたことがない。
彼女はここに来て以来一度も街の外を見ていないし出かけてもいない。
外は魔物や獣等の生息してはいるのだが、街の外周囲はほとんどそれらは見ることができない。それでも子供だけだと流れの魔物に襲われる危険性があるため子供だけで街の外へ出かけるのは禁止されいる。
保護者同伴でもない限り外への外出は少しの時間といえど禁止なのだ。
それでも彼女自身は魔導使いであり魔術も魔法も使える新米の冒険者。もとい魔術も魔法を誰よりも使える偽りの新米魔導使いである。
もっともその魔導のことを秘密にしているためいくら自分は大丈夫だと主張しても誰も聞いてくれないのであるが、、、
しかしそれだけが原因ではない。
以前から練習をしているお兄ちゃんの魔法はとても難しい。
今のところ毎日練習をしているのだが未だにできる様子はない。
全くといっていいほど少しもわからないのである。
普通の魔法や魔術ならすぐにできるようになるココだったのだが、蒼葉の魔法は勝手が違った。
お兄ちゃんは完全には教えてくれない、、、まずは考えることが大事だと教えてくれない。
コップの中の水は消えないし、お金は増えることも減ることもない。綺麗なお花を出すことはおろか、ぬいぐるみやお菓子を出現させることは到底無理な状態である。
一方、お兄ちゃんはそんなココのために目の前でいくらでも魔法を見せてくれる。最近では短剣やナイフが目の前から消えたり、ぬいぐるみが動いたり喋り出したり不思議なことの目白押しである。ハンカチの下に消えた彼女のお菓子が増えて出てきたときはすごく驚嘆であった。
それから毎日ココもお兄ちゃんを真似ているのだが、、、
なのにココ自身には全くできるそぶりは見られない。
だから少しずつ少しずつココの中に不満や悔しさといった負の感情が蓄積されている。
それに当初の旅の目的、使い魔を手にいれるために家を出たのに召喚することはおろか、魔導すら自由にできない日々。人前ではほとんど魔法も魔術も自由に使えない。
ココは魔導使いなのに。大魔導士になりたいのに。
お兄ちゃんもなるべく人前では魔導の力は使わない方がいいよだって。その理由も彼女自身に解りやすく教えてくれる。
でもでも少しずつココの中で薄暗い何かが蓄積されているのである。
それで結局ココは何が言いたいのかというとココはいい加減憂さ晴らしをしたいのである。
とりあえず冒険に出かけたいのである。
クエストに行ってみたいのだ。
街の外がどうなっているのかを見たいのだ。
ついでに街中の他の区域も見てみたいのだ。
魔法をぶっぱなしたいのだ。
あと蒼葉お兄ちゃんとレールナお姉ちゃんの手作り料理をつまみ食いしたいのだ。
ある日、蒼葉はココに一枚の紙を持って話しかけてきた。
「ココ、ソフィアさんがクエストを依頼してくれたんだけど、どうする?」
「いく、ぜったいいくもん。いまからいくもん。」
「じゃ準備があるから1時間後に出発ね。」
「うん。やっとぼうけんだー♬」
満面の笑みを浮かべた幼女は装備を整え昼食をレールナに用意してもらい蒼葉と二人、街の外へ出かけている。ちなみにその紙に何が書いてあるかは二人は分からないのでレールナから教えてもらっていた。
冒険者の訓練カリキュラムの卒業試験のうちの一つ。
薬草採取のクエストである。
レールナお姉ちゃんは「これは大事なイベントだね。ココちゃん、お兄ちゃんを盾にして頑張ってね。美味しい夕食作ってるからね」だって。
時間通り二人は準備を整え門番に挨拶を済ませてから街の外へ出かけた。
今日は動きやすいいかにも冒険者といった格好である。上は長袖のフード付きの厚手の服に簡易な皮の保護具を、下は厚手のショートパンツに黒のタイツ。靴は新たに買った子供向けの靴であり、足首から膝までを保護具で防護している。ポニーテールの髪を少しだけ曲げて猫さんのブローチで髪を纏めておりその上から何かの皮の帽子で頭を保護。見た目とても可愛らしい子供冒険者の格好である。それから自衛のための小さなナイフを腰のベルトとともに、愛用の魔法の杖を左手に装備している。
蒼葉はココの装備品を完全防備にするかどうかかなり迷ったのだが、魔物やモンスターとの遭遇は限りなくないだろうとのソフィアの言質を受けて防御面も考慮しつつ動きやすい格好をチョイスしてあげた。魔法や魔術による防御ができるので問題は小さいはずである。ちなみにものすごく可愛いかったのでちゃんとギルド内やレールナさんに蒼葉はココの勇姿を披露している。
ちなみに蒼葉は普段着のままであるが、要所要所に簡易な保護具を装備している。腰にはギルドから借りている短剣と中古で仕入れた二振りのダガーを据えている。背面の腰部には小さいが軽くて取り回しのいい中古の盾を引っ掛けている。状況に応じて使用するつもりである。
それから薬草用の麻っぽい中古の入れ物を複数所持しておりこちらは蒼葉の中古のカバンの中に折りたたんで入れている。目新しいのはココの装備品ばかり。お金の使い方がどれだけココに偏っているか誰かが見ても理解できる。当然のことながらレールナやルーリには笑われ、ソフィアには叱られている。
実質、蒼葉はかなりの軽装だが、決して薬草採取クエストを舐めているのではない。
ホルクスの街の周囲は草原地帯が多く見晴らしが良い。近くには上流から下流にかけて大きな流れが見られ物流と人や物資の行き来が定期的に見られる。また蒼葉たちがこの街に訪れる前に迷い込んだ森や林、果樹園といった場所も比較的近い場所にある。
その林や、果樹園といった場所や街の近くには魔物や獣が近づかないように魔術的何かがされているらしいためそうそう危険な生物に出会うことはほぼないらしい。
ただし可能性が限りなく低いというだけで身近に危険があるということには違いない。
だから念のためギルドから情報やら何やらを仕入れて薬草等が採取できる草原と街の北側に広がる林の境目近くまで最低限必要な装備で出かけることにしたのだ。
新米のなんちゃって冒険者の二人は歌いながら歩くことにした。
今日は絶好の冒険日和である。
午前中の少し遅めに出かけている二人だが、お日様はすでに高いところから全てを見下ろしており、とても明るく暖かな日光を全てに与えている。街の外はとても穏やかで風は柔らかで気持ちいいくらいの流れしかない。
この日もしクエストをしなかったら二人とよく遊びにくる猫たちと一緒に亜麻猫亭の裏庭できっと日向ぼっこをしていただろう。
そんなのどかな1日であった。
そんな気持ちいい日に二人は街の外へ出かけ薬草の材料の採取をしている。
それだけではすぐに飽きるので陽気な天気に合わせて歌いながらである。
蒼葉が知る懐かしい曲から月華ちゃんが好きだったアニソンまでをココに教えながら二人は声を張る。
「知らない人にはついていかなーい♬」
「ついていかなーい♬」
「気づいたことは報告すーる♩」
「ほうこくするー♩」
「定期的にお兄ちゃんに連絡すーる♫」
「れんらくするー♬」
「分からないことは相談するー♫」
「そうだんするー♫」
「魔術魔法は人前では禁止♩」
「きんしー♩」
「魔術魔法使うなら人前ではバレないようにこっそりと♫」
「こっそりとー♫」
「危ないときは魔法魔術オッケー♬」
「おっけー♬」
「命大事にーお金大事ー♩」
「だいじー♩」
「つまみ食い禁止ー♩」
「きん、お、おっけ!!つまみぐいおっけー!!」
「ココが釣れなかった!?」
「コ、ココつれないもん!!」
お子様は薄い胸をそって可愛らしい焦り顔である。
ピョコピョコと動く束ねた髪と猫のアクセサリーがココの動きと連動しており実に可愛らしい。
そんなお子様に蒼葉は次の一手を差し向ける。
「じゃあ次は魔法少女のテーマソング歌うからね。」
「うん、おにいちゃんうたのおはなしまたおしえてー」
「じゃあお昼休みにご飯食べながらにしようか。」
「うん、いいよー。」
「じゃあいくよー。」
「「はい!!マジカルマジカルマジカル」」
二人は揃って蒼葉が知るアニソンを歌っている。
蒼葉が変わった立ち位置で勤めていた仕事先のCafe & Bar ”マジカルドロップ”の看板娘、月華ちゃんに教わった歌でありダンスまで仕込まれた国民的名曲である。
ハイタッチから始まりハイタッチでユニゾンしハイタッチで終わるとてもキャッチーで乗りが良い曲なので、自然と口ずさんでいた蒼葉を見てココも口ずさむようになった。もちろん暗譜しているからピアノでもいつでも弾けるし、音程もバッチリである。
そして今ではその曲の歌詞や背景やらなんかを彼女に事細かに教えるまでに至っている。
おかげでココもすっかりこの曲を気に入り今では一緒にポージングしながら歌い出す始末である。もちろんハイタッチも決めポーズも忘れない。
薬草を採取しながら、、、常に周囲に注意を抱きながら、、、
薬草を袋いっぱいに詰め込んでから二人は昼食を取ることにした。
採取場に近い林の近くにちょうど良い場所があったので二人はそこに腰を下ろして準備をしている。
「いっぱい採れたね、これでクエスト終了かな。今日はクエスト達成祝いしなきゃね。」
「おにいちゃんてづくり?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんの手作りかな。」
「やったー♬あまいものは?」
「もちろん作るからね。何にしようかな。ココそれよりはいどうぞ。」
「ありがとー。おにいちゃんつまみぐいたのしみー。」
「ココはつまみ食い禁止ー♬」
全身で喜びを爆発させるココに蒼葉はレールナが作ってくれたお昼のサンドイッチを手渡す。
亜麻猫亭でも毎日仕入れる美味しいパンを使ったレールナ特性のサンドイッチである。
鶏肉や卵にハム、ちょっとピリリとするマスタードを和えたオニオンときゅうりや葉物類を挟んだ絶品のサンドイッチだ。
野菜一つ一つ蒼葉が知る野菜の名前と違うのであるが、いちいち覚えることが面倒になったので自分が知る名前で統一している。もちろん蒼葉が知らない素材もたくさんあるのでそのあたりは仕方なくそのまま覚えているのだが。
「「jfihdiffosdijfosdia!?」」
突如、林の中で何か鈍い音が響いた。
その途端、今まで柔らかくて暖かい空気が鋭利な刃物を突きつけられてかのように変わった気がした。
蒼葉は瞬時に警戒感を露わにする。
それから相方の顔に目を向けた。
「おにいちゃんなにかくる。」
そう呟く彼女の顔からはすでに笑顔は消え失せていた。