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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
第0章 ホルクスの街と英雄街
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15幕:ココと蒼葉の冒険者訓練 『かっこいいぶるーべる流剣術の使い方』

 

 あの痛ましい事件から数週間が経った。

 あの日の出来事は何もなかったかのように亜麻猫亭は日々忙しい時間を刻んでいる。

 それもそのはず一人だけを除いて誰も覚えていなかったのだから。


 ホルクスの街も少し前よりだいぶ暖かくなってきた。

 街外の農業区では季節柄、新しい作物の芽が咲き始め、あぜ道では小さく黄色な三日月の花が咲き乱れ始めている。

 蒼葉とココはあの日以来1日の過ごし方が変わり以前とはまた違った忙しい日々である。


 二人は日中、亜麻猫亭で仕事をこなし、休憩時間や寝る前の時間、とにかく空き時間があれば魔術と魔法の練習に時間をまわし、夕方から夜にかけて平日は毎日冒険者ギルドに顔を出している。


 というのもギルド主催の冒険者予備校の初心者講座を受講するためである。

 いわゆる駆け出し冒険者の最初の登竜門である。

 初心者はこれを受講しなければどのクエストも受注できない。

 クエストを成功させるためには、いや生き残るためには実に数多の技術が必要となる。その数は戦闘、魔術、斥候術、医術、魔物の生態から植物の生態、サバイバル訓練、などなど訓練は多岐に渡る。座学はもちろんのこと実際に身体を動かし、時には頭を使い、生き残るために最低限の知識をそこで学ぶのである。もちろん有料である。

 もっとも蒼葉たちは特別に無料で受けているのだが、それを本人たちが知る由はない。全てはギルド側の計らいであることを彼らはまだ知らない。


 この講座の話を持ってきたのは『ギルド姫』ことギルドの職員ソフィアである。

 とある平日のランチタイムに彼女は顔を出しこのことを蒼葉たちに教えてくれたのだ。

 その時にはすでに根回しは済んでいたらしくレールナには話を取り付け済みであったらしい。さすが冒険者ギルド内で非常に優秀だと言われる女性職員。美人な上にできる女なのである。ホルクスの人たちに人気があるのが分かるわけだ。

 ちなみにこの街の結婚したいランキングNo.2だそうだ。


 そんなソフィアから紹介されココと蒼葉はこうして毎日夕方から夜にかけて数時間だけだが、勉学と訓練に足を運んでいる。

 もちろんレールナ(責任者)の許可は取っており夜の仕事は免除されている。

 というのも以前、働いていたというパートの方々が怪我や育児、出産等から復帰することで人員に余裕ができたという理由がある。

 蒼葉は臨時から正式に亜麻猫亭のスタッフになっているのだが、今後のことを考えて念のために最低限の自衛の手段を講じていた方がいいというソフィアと男としての好奇心が爆発している蒼葉の思惑が一致、かつ人員不足の件も解消されつつあったので、夕方以降を利用してギルドに顔を出している。


 冒険者ギルドの建物は2F建ての立派な建物である。

 石や木材といったもののほかに魔物を原料とした素材に、魔術的な要素も取り入れられており見た目以上に頑丈な作りとなっている。ここでは1Fには受付、換金、依頼所、応対室などなどがあり、基本冒険者や街の人間、外部からの依頼者等の対応のための施設となっている。2Fには幹部や、需要な施設、主に職員が利用するための部屋を中心に構成されている。外には魔物等の解体場から他に色々と利用されている作業場等が裏手に備わっている。

 そして特質すべきは地下の構造であろう。その地下には避難施設や食料庫、保管庫等、倉庫がわりの部屋がたくさんだ。そして中でもギルドの目玉が地下訓練場である。



 殺風景な石材だらけの広い空間の中で強面のスキンヘッドの男が二人をまっすぐ睨めつけている。

 その腕から肩にかけてはとても固そうな筋肉の塊であり、それを支える胸板もとても分厚い。

 そして身体中に痛ましいほどの傷跡が見て取れる。

 さぞかし名のある冒険者なのだろう。

 彼が背中に抱えている両手剣は自身の身長と同じくらいの刃渡りがあるが、あれだけの体格がなければ自由自在に扱えないのかもしれない。

 ただこの場においてはその両手剣も強面の見た目も威圧するだけの材料にしかならない。


 蒼葉とココは今日も強面のスキンヘッドと座学を続けている。

 彼はこの街の先輩冒険者であり今回の二人の指導教官でもある。

 ギルドから特別依頼を受けて蒼葉とココ二人の新人教育を行なっている。


「ブルーベル、このモンスターの特徴は?」

「小型でどう猛、臆病でも脳筋ではないです。見た目が弱そうに見えますが集団戦闘ができる点、戦略的な行動を取れるという時点で危険なモンスターであると言えます。武器を使えるのがなおさら恐ろしいですね。」

「対処は?」

「状況次第です。」

「森の中で3匹に遭遇した。まだこちらに気づいていない、、、お前ならどうする?」

「風下に周り相手に気づかれないように隠れます。観察しつつ斥候かどうか、近くに奴らの仲間がいないかを判断して、いない場合は不意打ちを仕掛けます。1匹の喉を確実に潰しつつ声を出させないように残り二匹にも対応策を取ります。その隙に残りの2匹も1匹ずつ相手します。最初の1匹への不意打ちが成功するかどうかですね。成功しないなら現状は逃げの一手です。」

「よろしい、80点だな。ただ今のお前らなら逃げの一手だ。ではナタデココ、この薬草は何に使えるかな?」

「んーとね、どくけしだよ。」

「では毒消しの有効な使い方は?」

「たべてのんできずぐちにはりつける。」

「そうだな。ほかの使い方は?」

「こうげきとしてつかう。」

「ほぉ俺もそんな使い方は知らん。ブルーベルわかるか?」

「ドロドロの粘膜状にして相手の粘膜部分に使います。可能なら目潰しと同時に体内に取り込まれるように口の中に、、、」

「思考がえげつないな。ブルーベルこの街で綺麗なお姉さんが前からきたどうする?」

「愚問ですね、飲みに誘います。」

「ほぅその綺麗なお姉さんが暗殺者だということに気づいたお前はどうする?」

「もちろん気にせずお近づきになります。」(キリッ)

「ほぉよろしい。100点だ。ナタデココ、お兄ちゃんが綺麗な女性に手を出そうとしているどうする?」

「ここはぎるどとせんせいにほうこくする。」

「200点だ、ナタデココ偉いな。この街のルールは見つけたもの勝ちではない。」

「えっへん。ここえらいもん。」

「、、、。」


 強面のスキンヘッドも笑みを浮かべてココを褒める。

 とはいえとんでもないルールであるが、以前聞いたルールにこんなのがあっただろうか、、、

 とにかく冗談だが冗談ではない。

 蒼葉がそう言っても自分から声をかけることはできないだろうなと心の中で囁いていると強面はしかめっ面にして二人を見下ろした。


「よし座学はここまでだ。次からは戦闘訓練開始だ。武器は、、、」

「魔法剣で。」

「ここもまほうけんがいい。」


 二人は迷わず声をあげる。

 以前から相談して二人の主要武器を決めていたのである。

 だがスキンヘッドは呆れたような顔をして指導用の教材を片付け始め二人に伝える。


「ブルーベル、ナタデココとりあえず魔術を使えるようになってから言え。おっと最後に質問だがブルーベルお前は誰が好みだ?『女神』か、『姫』か、『堕天使』か?」

「みんな素敵ですよね。」

「そうか安心した。そういう関係ではないのだな。」

「あーそういうことですね。」

「ナタデココお姉ちゃんともう風呂入ったか?」

「うん、もうはいったよー。れーるなおねえちゃんもるーりおねえちゃんもすっごくおおきくてやわらかいんだよ。ぱふぱふきもちいいもん。」


 どこがとは言わない。


「ほぉうそれは重要案件だ。ちゃんと報告してもらわなければ。」

「うん、ちゃんとほうこくするよー。ここえらいもん。」


 もちろんココがソフィアに報告してスキンヘッドは女性冒険者たちから折檻を受けることになるのは別の話である。ちなみに蒼葉は聞かなかったことにしている。

 詳しく知りたいのだが、己の命が大事である。

 命は大事にだ。





「ココ、火の魔法を!!」

火魔法(ふぁいあ)!!」


 ココの杖から火の魔力の粒子が解き放たれ蒼葉の短剣に降り注ぐ。赤く輝く粒子はその短剣に降り注ぎ刀剣に小さな火炎を纏わせる。


「ファイアソード!!」


 火の魔法を使った魔法剣である。


 蒼葉は赤く燃える短剣を左右に一度振りそのまま頭上に振り上げ目の前の何もない空間を叩き斬る。

 火炎の軌跡が冗談から下段に降り注ぐ。


「おー!!おにいちゃんかっこいい!!」

「やっぱり?魔法剣かっこいいよね。ココ、次はアイスソードやろっか?」

「うん、じゃあ氷魔法(あいす)いくよー。」

「アイスソード!!!」



 地下の訓練場で蒼葉とココは二人だけの秘密の戦闘訓練を行なっている。

 周りには誰もおらず二人だけのため二人はやりたい放題である。


 スキンヘッドと別れた後、最後の1時間は二人だけで自主練習をしている。主に戦闘面での動き方なのだが、二人は何度も同じような動きをパターンごとに何度もだ。


 蒼葉が剣主体の訓練をすれば、ココは蒼葉に合わせて補助をする訓練をする。

 ココが先に威力等を抑えた魔法を唱えれば蒼葉はココと魔法が最大限活かされるような動きを考え実行する。逆にココが攻撃魔導主体の動きをすれば蒼葉はココを守るような動きを取りながら周囲を警戒したりサポートする動きを取る。何気にココは子供らしからぬ動きをするので蒼葉はとても感嘆している。


 そして飽きればこうやって思いつくままに魔法剣などの実験をやっているのである。

 もちろん誰にもバレないように魔力を抑えたり偽装工作に手抜かりはないようにしている。

 ただし素人目での訓練であり思いつく範囲での行動ではあるのだが、、、


 ただそんなことをせずともこの訓練室自体が魔術的な何かを受けており、外部に衝撃や音が漏れないような作りをしているのだが、念のために抑えた行動を取るのである。

 もっともギルドの地下訓練室で誰が入ってくるかわからないような状況でそもそもそのような怪しまれる行動をとること自体がおかしな話ではあるのだが。


 他にも最近では寝起きから寝るまで体に少々の重りをつけて体力筋力増強訓練を兼ねて生活しており仕事中も休憩中も練習中も外すことはない。

 最近では剣の素振りの稽古など自衛に必要な要素の訓練を日常に少しづつ取り入れている。


 帰宅後は少し遅めのご飯を食べて時々3人でお風呂に入る。

 当初、蒼葉一人だけだったのだが、最近はココとローロちゃんも乱入してくるようになった。

 それからは時々幼女二人の面倒を見てからその後部屋にこもり、勉強と魔術と魔法の訓練を一緒にやり気づけば次の日である。


 そんな調子で二人は日々過ごしている。


「今日の練習はここまでね、次は、、、魔力か、、、魔法といえば調子に乗って燃やした魔法剣どうするかな、、、」

「おにいちゃんマジックむずかしいよー。コップのおみずがきえないよー。つぎはまりょくながすよ?」

「うーん魔法剣やりたくて燃やした模造刀5本全てあのスキンヘッドのせいにしよう。」

「えいっ!!」

「、、、」

「おにいちゃん?」


 ホルクスの街の最低ランクの凸凹新人冒険者、ブルーベルとナタデココは今日も通常営業である。





 ここ最近ずーっとずーっと勉強と戦闘の訓練とか冒険者ギルドばかりである。

 知らないことだらけだし、新しいことを知るのはすごく楽しいことである。

 だが変化はない。


 そんな日常が少しずつココを退屈にさせていた。

 死なないためにいざという時のために勉強することはとても重要である。

 知らないことは無知は死に繋がるかもしれない、大損をするかもしれない。

 戦闘に関してもそうだ。自分の行動で仲間が死んでしまうかもしれない。大切な人を守れないかもしれない。

 そんなことにならないように、そんな窮地がもし襲ったとしても打ち破れるようにと。

 だからいざという時のために二人で秘密の特訓を繰り返す日々である。

 もちろんつるピカの先生が指導してくれるときもある。

 だがそんなときはココは魔法が使えるということを秘密にしなければならない。

 だから少しだけ魔術が使えるだけということにして加減して訓練に挑んでいる。


 魔力をイメージそのものへと変換する。つまり魔力を直接、火炎に変えたりという、いわゆるイメージだけで構成する魔法とは違い、魔術は呪文の詠唱や陣、図といった何かに描いたり、もしくは魔道具に術式を刻んだり文字を書いたり、そこに魔力を込めてやっと使用できるという二重三重といった手間がかかる。おまけに魔力の変換効率は魔法よりも格段に悪い。

 ココは魔術が苦手ではない。むしろ積極的に活用している。

 召喚陣や魔法陣といったものは魔術に分類されるものであり、魔法よりも魔術の方が適しているものもある。ココも使い魔を召喚するために積極的に使おうとしていた。

 ただ魔法中心で物事を図るココにとって魔術だけを加減して用いることは面白くないのである。

 要するに自分の実力を隠すことがとても腑に落ちないのである。

 お兄ちゃんは魔導の力を秘密にした方がいいとココに話をしている。

 彼女の祖父も父も魔法は使うべきではないとココに教えている。

 ただお兄ちゃんが二人と違うのは秘密にするべきだが全く使用しないのではないと。使うべき時が必ずくるのだからそれまでは秘密にしていざという時のために今は隠すんだよと教えてくれた。

 能力がある魔物はその実力を生き残るために隠すのである。


 能あるオーガは牙を隠す。


 そっちの方がとてもかっこいいでしょとお兄ちゃんは語るのだ。

 もちろんそれは小さいココに可能な限り魔導の力を使わないようにさせるための方便の一つなのだが、ココはそのことに驚嘆するのであった。


 そんな中で少しずつ燻っていたココのためのガス抜きが魔法剣の練習である。

 もちろんそこには蒼葉自身の男の子心が我慢できなかったということも含まれている。


 そして魔法剣の練習は燻っていたココの童心を鷲掴みにした。

 最初、蒼葉から聞いたときは何のためにやるのか理解できなかったのだが、実際にやってみたところそのかっこよさにとても感動しすぐに自分だけでもやったほどだ。



 ある日、二人での秘密練習のとき無料で利用できる模造刀を持った蒼葉はココにこう囁いたのだ。


「ココ面白いもの見せてあげるね。」


 それからココはお兄ちゃんが言う通り火炎魔法(ファイア)をその剣めがけて唱えた。

 2回ほど剣が燃えて無くなってしまったが、お兄ちゃんのアドバイスを受けココは何をしようとしているのかをやっと把握した。


 唱えた火炎魔法は赤い粒子となって模造刀に素早く降り注ぎ、赤く刀身が輝いている。

 木製でできた短剣の模造刀に魔力が付与され火炎を纏っているのだ。

 お兄ちゃんが二度三度目の前の空間を切り刻みココを見る。

 そして目の前の訓練用の人形に向けてその赤い刀身を斜め上段から勢いよく斜め下段へと袈裟斬りにした。もちろん切ったあとの残心ポーズも忘れない。


「ブルーベル流魔法剣術、、、火の剣技、、、『ファイアソード』」


「おぉおぉぉぉーーおにいちゃああん!?!?ココもやるやるやるもん!!!!」


 可能な限りもったいぶった言い方で呟く蒼葉を見てココの好奇心やら何やら全てのメーターが振り切ったようだ。彼女の瞳は今猛烈に輝き小さな両手がワナワナと震えている。


 それからココは蒼葉の真似をして訓練刀を3本ほど灰にしてしまった。そして残りの武器を両手に持ってまた燃やしながらぶんぶんと振り回している。子供時代に棒切れを持ったら誰もが通る道だろう。

 まして魔法を纏わせたならそれはもう誰にも遮ることはできない。今彼女は百戦錬磨の魔法剣士なのだから。

 そんなココの子供らしい一面に和みながら、、、蒼葉はふと気づいてしまった。

 模造刀が、、、訓練刀がほとんど無くなっていることに。


 急激に青ざめた蒼葉を尻目にココは残りの訓練刀や模造刀やらを次々と燃やしていく。


 現実に帰った蒼葉は燃えかすを全て訓練場の砂の中に埋めることにした。

 初めから()()()()模造刀はなかったのだ。

 ちなみにバレた場合の弁償金は全てスキンヘッドの教官持ちの計画である。



















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