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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
2章 
159/162

5幕:小さき者と大きな者 5−2

コロナ注射、、、毒性高すぎる。きつい。

 



 各国に割り当てられた公国迎賓館群の一室に項垂れるように書斎机に突っ伏した男がいた。


 数ある部屋の中でも、この書斎がある一室は他よりも一段と質素な落ち着いた部屋だった。

 というのもここを利用する予定の要人が絢爛豪華な宝飾を嫌うために公国にわざわざ要請した結果ではある。だが使用している質素そうな椅子や机も手に入れようと思えば、実は目が飛び出るような金額であることに違いはない。招致した要人を低級品で持て成すなど国の威信に掛けてもありえないことだからだ。


 高級品には見えない最高級の素朴な調度品の数々で飾られた書斎の中でこそ彼は安息を得るのだ。


 連日連夜の会議は各国代表との激しい全力の頭脳戦ばかり。相手から譲歩を引き出すためにこちらの歩み寄りをどの程度許容するか。逆にこちらの要求を飲ませるために相手の弱みをいかに利用するか。膨大な数の情報とシナリオを頭の中に詰め込み最善手を都度取り出しながら交渉を続けていく。1国だけならまだしも参加している国は両手では全く足らない数。求められた会談の数はもはや数えたくないほどだった。当然、会談内容に応じて専門の文官たちが彼を補足補佐している。その上、議題のほとんどは会談以前に話が調整され纏まっていることが多い。つまり話がすでに付いているのだが、面と向かってこそ進む議題も少なくはない。増して今回は外国の代表以外にサルベスタ近郊に近しい周辺の地方貴族との会談も交えている。つまり議題は尽きないのだ。


 どれだけの数を捌こうと最終的な責任は彼に伸し掛かかる。突発的な議題ほど彼の心臓を締め付けるほどに先が読めないものが多い。もちろん自分では判断が不可能なものもある。全てを統括しなかればならない彼が選んだ答えが最終的に国益を左右すると言っても過言ではないのだ。


 初日の歓迎会以降、常に各国要人たちと鎬を続け、、、ついに彼は豚は根を上げた。


「ふひぃ、、、ぶひぃ、、、もう無理ぶひぃ、、、ジンジャルちゃんもう無理ぶひぃ嫌だふひぃ仕事したくないぶひぃ」


「ぷぷっ、、、帝国の豚がブヒってる、、、ぷぷっ、、、豚がブーたれてるぶひぃ、、、ぷぷっ豚語も完全マスターぶひぃ」


「ジンジャルちゃん上司にモラハラひどいぶひぃ、、、」


 原因は本来の代表であるはずだった彼の主人が光の速さで逃げ出したことにあった。

 文字通り光の速さでこの世界会議から逃げ出したおかげで、彼は全ての仕事を押し付けられ、、、そして今に至る。


 今現在の帝国では三人の皇帝が最終決定権を持つ。つまり通常は三人の合議制により国が動くことになる。


 しかし今代の三人とも自ずから政治に関わろうとはしなかった。三人とも元が冒険者だけに自由気ままな振る舞いを好み政治、つまり面倒ごとに関わろうとしないのだ。結果、今日では国の舵取りを皇帝たちを補佐する宰相を筆頭とした国の限定的な官僚たちが代替わっていた。一昔前の帝国では絶対にありえなかった事態である。


 だが宰相はこの場にはいない。彼は国内の諸問題に追われ毎日寝れないほどの激務をこなしている。本来ならば外務大臣等を含めた外交専門の担当たちが同行しているはずなのだが、ここには訪れていなかった。彼らは彼らで他の問題で諸外国を訪れているのだ。


 また皇帝も演出だけに登場した後、光の速さで逃亡した。


「最近、面白い料理を出す店を見つけたぞ。中々いい味でな、今日もあと30分以内に並ばなければお気に入りが売り切れてしまうのだ。だからこの場は貴殿に任せる」


「ちょっと待ってください、ぶひぃ、、、皇帝陛下自由すぎるぶひぃ!?せめてこの議題だけでも処理して仕事してほしいぶひぃ!?あとせめて差し入れくらい欲しいぶひぃ!?」


 フランクな応対を許す彼に慈悲を請いながら豚は悲しそうな顔を浮かべた。

 さらに脳裏に過るのはあと二人の皇帝の言葉だ。その二人の皇帝もまた彼に素晴らしい格言を残してすぐに顔を見せなくなった。消えてしまった。いや逃亡した。



「がはっははは、、、これでその巨体も少しは痩せることだろうよ。仕事こそ男の人生よ!!」

「陛下、、、どんだけ働かせる気ぶひぃ!?あとこの仕事は陛下の仕事ぶひぃ!?」



「すまんな儂が行けばお主らに余計な迷惑をかけるだろう。儂用の椅子がないなら仕方ないのだ!!」

「もちろん陛下サイズの椅子をすでにご用意済み、、、もういないぶひぃ!?どこに消えたぶひぃ!?」



 初めは気さくでフランク過ぎる皇帝陛下たちに近づこうと画策し始めた豚語だった。

 しかし完全な間違いだったと言わざるえない。


 今ではこうして帝国に使える公下僕、公豚として扱き使われる日々。豚語もすっかりと板に付いてしまい、もはや元に戻れないほど馴染んでしまっている。そんな彼の普段の肩書きは宰相直下特務室室長という立派な肩書きだ。現在、国で激務をこなしているだろう宰相の懐刀であり帝国でもかなりの発言力を持つ要人である、、、はずだ。


「ブラックすぎぶひぃ、、、人使いが荒すぎぶひぃ、、、癒しが休みがほしいぶひぃ!!」


「室長、ぶひぃぶひぃ言ってないで仕事してくださいぶひぃ、、、ぷぷっ。それから部下からこんな情報が寄せられましたぶひぃ」


「、、、ぶひぃ?ちょ冗談じゃないぶひぃ!?」


「大盗賊はやはりこの島に以前として潜伏しているようでぶひぃ。何かを企んでるみたいでぶひぃ。それから『公国の探し人』を部下が保護したので予定通り他の案件を進めるぶひぃだそうでぶひぃ。同時に例の件を私の独断で進めるぶひぃ」


「もぅジンジャルちゃんに全部任せるぶひぃ!!仕事したくないぶひぃ!!《13案件》は予定通りジンジャルちゃんのさじ加減で進めてほしいぶひぃ!!《蒼ノ世界》の宝石なんか不吉なものいらないぶひぃ!!大盗賊にくれてやっていいぶひぃ!!」


「了解しましたぶひぃ。私が貰うぶひぃ」


「、、、これで残りの仕事終わったぶひぃ?これで後は晩餐会で接待するだけぶひぃ」


「いえ終わってないでぶひぃ。まだ30分も経っていないでぶひぃ」


「・・・・。ぶひぃっ!?これ何ぶひぃ?」


 彼の目の前には先ほどまで書類以外何もなかったはずだった。しかし目の前にあるのは香ばしい香りが立ち込める紙に包まれたもの。立ち込める香りの主成分は彼も大好きな肉料理だろうか。お腹が鳴る音を静かに黙認していると側の彼女が静かに口を開いた。


「たった今、陛下が差し入れをお持ちになられましたぶひぃ」


「気遣いはいいから、、、本当に仕事してほしいぶひぃ」


 そして豚は皇帝陛下お気に入りの差し入れに喰らい付いた。少々硬めのパンにミンチにしたひき肉を丸めて焼いたものと野菜を挟みさっぱりとしたソースと濃厚で凝縮されたトロトロのチーズが絡み合って口が止まらなくなるようだ。似たようなものは数多く食したが、この味は食べたことがない味のようだった。


「ん?これはなかなかイケるぶひねぇ」


「ぷぷっ、、、豚が共喰いしてるぷひぃ」


 彼を横目で眺める彼女は相変わらず我慢仕切れない笑みを浮かべたままだ。ただしその笑みの奥には少々サドスティックな面があることまでは隠しきれてはいない。


 黒の縁無し眼鏡に、小麦色の腰まで届く長い髪、全体的にほっそりとした身でありながら局部は女性らしく凹み膨らみつつメリハリが効いている大人の女性である。今回の世界会議では異性の要人たちが彼女を見かける度に声をかけていくほどの美女でもあった。また帝国制服が似合うメガネ美女と言ってもいい。今回の使節団で採用された制服は新たに採用された特注のデザインであり彼女が持つ知的センスさ知的美人さを大いに引き上げていることだろう。そんな彼女が秘書として多忙な男の側にいることが彼女がいかに優秀であるかは言うまでもないことだ。


 そんな彼女が制服の襟を正し身なりを整えると一枚の魔法紙を差し出した。


【作戦概要書】


「予定通りの『13案件』ぶひねぇ、、、ついにあれを国外に持ち出したぶひねぇ。はぁ、、、たまにはゆっくり温泉にでも浸かりたいぶひねぇ、、、ジンジャルちゃんもどうぶひ?」


「室長、セクハラぶひぃ。奥方に言いつけてもいいぶひぃ?それとも娘さんに唆してパパ嫌いって宣言してもらうぶひぃ?」


「ジンジャルちゃんひどいぶひぃ。もっと癒しが欲しいぶひぃ勘弁してほしいぶひぃ」


 誰もが視界に入れたくなる女性であり毒入りの棘を隠し持つ魔性の美女である。その美貌の虜となり彼女の掌の上で踊らされた男は数が知れないだろう。しかし彼女が帝国でも上から数えた方が早い実力者であることは事実だ。


 彼女は突っ伏した男の秘書を務める一方で、もう一つの顔を持つ。


 帝国特務室直下第13独立部隊、、、通称《暗部》と呼ばれる帝国が抱える極秘の部隊がある。彼らは帝国を守るためには己の命すら投げ捨てる覚悟を持つ狂信者たちだ。当然のことだが一人一人が世に名を残せるほどの実力者であることは言うまでもないのだが、公にはされていない。今回のように秘密裏に行う作戦書の中で彼女たちが担う案件には全て『13』という文字が隠語として記載されていた。


 薄っぺらな書類を流し目で一瞥すると豚は魔力を込め自身の刻印を刻み込んだ。


「それでは室長、私は仕事がありますのでそろそろお暇させていただきますぶひぃ。あとは仕事で野垂れ死ぬぶひ」


「最後までモラハラが酷い部下ぶひねぇ」




「だが、、、、まだまだ甘い」


 そして彼女が去った後、口元に静かに笑みを浮かべながら独り言を口にした。

 部屋の隅から小さな人形が顔を出したからだ。


 小さなお辞儀を終え小さな魔石のついた魔道具を受け取った。


 彼がよく知る同僚からの言付けだろう。

 豚は魔石に魔力を込めると映し出された文字に僅かばかりに顔を顰めた。


「そうか、博士が天寿を完うされたか。忘れ形見を始末できなかったとはいえ新薬のサンプルデータが届いただけでも収穫だ。小娘は行方不明、、、消されたなら好都合だが口封じはした方がいい。皇国の同業者に始末させるとして共和国の好色家はあのまま泳がせておく方が得策だ。それにしても大盗賊め、祭りなどと吐かしおってどこまでこちらの動きを把握している?そしてこの男はどこまでも私たちの邪魔をするつもりか。このままでは計画に支障を来すどころか、組織の根幹に及びかねん。やはり確実に始末する必要があるか、、、。相変わらず《狂炎》の足取りは分からず仕舞い、、、だが《始まりの魔女》や《戦神》《無限之英雄》の消息が途切れたのは故意か偶然か。今が好機と」


 受け取った魔道具からはある青年の顔が映し出されていた。

 偶然か必然かこれまで組織の計画を悉く潰したであろう憎き男の顔だ。


「だが次の手を並行していないほど私は愚かではない」


 まるで何かのスイッチが入ったかのように黒い笑みを浮かべながら取り出したものは先ほど手渡された魔道具とは違うものだった。


「雑務は彼女たちに任せて、こちらは計画を最終段階に進める。これでこの地が公国が間違いなく帝国の、、、いや私たちのモノとなる。そうすれば我々の悲願がついに達成されるのだ」


 何年何十年何百年、いやそれ以上の時間をこの計画に費やしてきた。

 だからこそ障害になるものは邪魔するものは全て消さなくてはならない。


 豚は懐に忍ばせたモノを客人に手渡すと力強く宣言した。


「明後日の夜、公国の忘れ形見には、、、姫君には必ず死んでいただく」


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