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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
2章 
154/162

5幕:小さき者と大きな者 1

 深緑の隙間から淡い光の軌跡があちらこちらに降り注いでいた。

 その一筋の光の陰影、その内外で光の粒子を撒き散らし、、、すーっと消えていく。

 その奇跡に触発されたかのように透き通る空気は肺を刺激し爽やかな香りとともに大自然に回帰される。


 そんな光景を眺めつつ目くじらを立てている相棒の顔を見ないようにしながら風下からそっと歩みを進める。影を纏う時と違い呼吸を動きを大自然と目標に調和させながら身を静かに忍ばせた。


 あちらこちらに散る大自然の軌跡を巧みに利用して身を隠しながら大胆にも枯れた枝を上空へと放り投げた。完全な視覚外の方向、その斜め背後の藪へと。


「ギョッ!?」


 何が落ちたか?

 視界に分かるように地に落ちた音と枝が重なったすぐ、、、そして何もなかったと警戒が緩んだ僅かな瞬間をダガーの鋭利な刃が喉と心臓にすっと沈んだ。


 そして血飛沫もなく魔物は音もなく崩れ落ちた。


 小さな魔物が生き絶えると、拳くらいの小さな美少女がその大きな人間の肩にすっと姿を現した。

 彼女は東の国の闇の精鋭《風月》の構成員、そして先日までとある町の元ギルド職員だった。今はなぜか人形のような可愛らしいサイズとなり、素知らぬようにボクっ娘混じりの口調で教鞭を語っている。どうやら先日の取ってつけたような性格とは違い今は普段の素の性格を見せているらしい。


 そして気難しい年頃でもあるようだ。


「ふぅーっこれでゴブリン10体目、どうでしょう先生?」

「ボクに比べたらまだまだだな、、、あっちに3匹いる。次は奇襲してから同時に相手してみるんだな」

「まだまだって、、、、こっちは誰かさんみたいに便利な影使えないんだから、スパルタのコアン先生?」

「厳しいは余計だ。ボクは忙しいんだ、さっさと行け!!」

「はいはい、了解」


 動かなくなった魔物とダガーに付いた血糊がずぶずぶと黒い影の中に消えていく様を見届ける間もなく、蒼葉は音を極力立てないようにまっすぐに差された方へと駆け出した。


 僅か10秒ほどの距離だ。


 視界に入っる前から攻撃体制に移るべきか、それとも、、、、

 片手に投げナイフを、一方を道具袋の中の仕込み道具に手を添えていつでも動けるように、、、


 犬人間!?流石に気づかれてるか!?


 投げナイフを両手に選択すると動きを阻害させる方向に投げつける。

 視認しづらい魔物の糸を添えて、、、


 確か連携が売りのコボル何とかだ。つまりは犬人間。

 躍起なのは耳と鼻の索敵能力、そして人外の格闘能力と犬種特有の連携能力といったところだっただろうか。それに自分にはない魔力も彼らなら気配を感じ取ることは可能だろう。


 身体能力が上であろう魔物を絶対に同時に相手にしないような立ち位置を取りながら、さらに道具袋から球体を投げつけた。体近くに当たれば良し。上半身、顔面に当たれば上出来。成分は、極度の辛味と酸味の混合成分である。


 それも程よい硬さで脆い球体の中身は拡散しやすいように粉末状にしてある。

 それが衝撃と共に周囲に割れて漂うのだ。


「「ギャウッぎゃgyぎゃぎゃ!?」」


 当然、口や鼻、目といった粘膜部位には最高に効果がある。

 突拍子の行為に避けなかった2匹が餌食になり、残り1匹がこちらに急接近してきた。


 2匹に投げナイフを投げつけながら迫る1匹には後ろへバックステップしながら対処する。

 その目はこちらを完全に敵とみなした目だ。そして怒れる獣特有の目だった。でもその目はすぐに視界外を、、、見ていない。


 こいつ気づいてない!?それなら、、、


「フギャッ!?!?!?」


 今さらナイフに何が付いたのか。こっちの本当の狙いは、、、

 間合いをすかさず詰めると態勢が崩れた瞬間を狙いダガーを急所に突き刺し瞬時に後ろへと蹴飛ばした。


 まず1匹。


 そして今だに苦しんでいる犬っころ目掛けて切れ味が変わらないままのダガーを投げつける。

 ずぶりと胸や腹に突き刺さった獲物を、さらに袖口から取り出すと再度投げつける。


 鼻も目も封じた魔物の行く末など語るまでもないだろう。


 僅か数秒足らずで魔物は息絶えたのだった。





「コアンさん、あれ止血草、そっちは痺れ止めのやつ。それとあそこの木の上にあるキノコは高級品、今夜の夕食は収集量次第だからね」


「ふんっ!!ボクに任せろ!!」


 そう宣言するとコアンはキノコだけを切り裂いた。

 薬草だけは無視して、、、


 どうだと言わんばかりのニヤリとした笑みを口元に浮かべながら小人は蒼葉の肩に舞い降りた。色気より食い気。せっかくの褐色美少女のドヤ顔も台無しだ。


「ちょっとコアンさん、、、好き嫌いしないでもらえます?うちは貧乏だから稼げる手段があるなら何でもやらないと貧乏から抜け出せないんだって」


「ボクが薬草取りなんかやってられるか!?風月でもエリート中のエリートだぞ!!」


「だからあれ次第で今後の晩御飯の出来が変わるんだって言ってるでしょ!?特に味が!!」


 一瞬で姿を消した小人は数度の瞬きするまでもなく同じ位置に舞い降りた。

 そして蒼葉の肩の上に音もなく姿を表した。


「なんだ?なんか言ったか?」


 その小さな人の傍、小さな影から少しだけ覗くのは先ほどの薬草である。


「コアンさん、最初から本気出してもらえませんかね?」


「・・・・」


「この残念風月」


「う、うるさい!!ボクの仕事じゃねぇだろ!!このおっ!!」


「い、痛いってコアンさん!?これで勘弁して!!」


 小さな影の針で突き刺してくる小人に等身大の小さなパンナコッタを差し出しながらご機嫌を伺う蒼葉なのだった。







「ひぃぃぃいっ、、、、すみませんルーリさまぁ、、、このレシピだけはっ!?」


「おい!?起きろ休憩終わりだ!!何かが近づいてくるぞ!!それからお前はそろそろ本気出したらどうだっ!?」


「よかった、、、夢か、、、恐ろしい夢だった、、、」


 意にそぐわない問いかけを受けても意味がわからない。

 こっちは最初から全力で本気だ。


 夢中で久々に相対した年下上司の可愛いくて不気味な笑顔を脳裏の片隅に追いやりながら《小さな人》の問いかけに頭を悩ませる。


 山中を少し探索すれば、犬人間やら燃料の材木やら、小鬼やら食人植物やら、一歩違えば、とんでもない魔物たちが巣食う場所で冗談を言いながら戦闘できるほど達観しちゃいないし油断なんかできるはずもない。


 魔法や魔術が使えない自分が手加減できるほど魔物たちは弱くもないし自分は強くもない。どうしても接近戦を挑まなければいけない状態は言い換えれば相手の間合いの中で戦うということ。つまり相打ち含め、今の自分が一発でも良いものを貰えば、防御手段と遠隔攻撃に乏しい自分には終わりということだ。回復手段もなく、また身代わり人形もない今の自分には尚更だ。


 それに手のかかる子供達を残したまま、、、


「コアンさん、こっちは始めから本気だって」


「嘘つけ!!ボクと戦ったときよりも動きが格段に悪いだろうが!?お前が本気じゃないことぐらい誰だって分かるわっ!!」


「はぁっ!?生活費が掛かってんのに手加減なんかできるわけないでしょ!?借金があと100万もあんのに!!」


「お前自分で言ってて情けなくないかっ!?」


「泣きたいにきまってるでしょ、、、」


「はぁっ、、、あっちに獲物がいる。超美味で高級品、市場に流せば1匹、50万はくだらない。だたし後でちゃんと分かるようにボクに説明しろっ!!それからっ」


「コアンさんナイス!!」


「ボクの言うこと最後まで聞けよっ!!」


 そして僅か数分で7匹もの獲物を仕留めた。最低でも最低でも350万。

 身動きが取れない獲物など獲物じゃない。ただの高級食材だ。

 展覧豪華な羽をした大型の鳥の心臓を斜め真下から一刺しするとすべての瞳から光が消え去った。


 たぶんこの見た目だと観賞用の剥製としてもいけるだろうし、トサカや足はひょっとしたら薬にもなるかもしれないだろうから当然キープ。味を落とす邪魔な血も念のためキープ。これもひょっとしたら薬になる気がする。良い素材、処置が必要な素材だけは彼女の影に仕舞わずその場で最適な処置を優先させる。


 テキパキと処理をしていく蒼葉の頭の上で、コアンは晴れない顔をしたままだった。


「お前、、、さっきの術はもしかしてじゃなくてもボクの術だよなっ!?お前ボクの術をいつの間にラーニングしたっ!?そもそもあの術は真似不能な血術だぞ!?」


「コアンさんの影の術のこと?半分外れで半分正解だけど」


「おい!?さっき後からちゃんと説明しろって言っただろうがっ!?契約は!?ギブアンドテイクはどうしたんだよっ!?」


「だからこればかりはダメだって言ったでしょ。それに冒険者の暗黙のルール忘れたの?」


 途端に邪気迫る人相でコアンはまるで今までの行為自体が無駄であったかのように踵を返した。その表情は無だ。つまりいつも扱う小さな影を針から刃に変えて、、、


「コアンさん、魔法使いは種をあかさな!?痛いっ!!ごめんなさいって!?ちょっと降参降参だって!!」


 小さな影の武器は中々の殺傷力を秘めているらしい。きっと彼女がよく座る肩周りは真っ赤にしみていることだろう。このまま衣装が血だらけになるのは冗談じゃないので仕方なく種をあかすことにした。


 不本意だけど、、、魔法使い(マジシャン)は自ら種をあかさない。


 だから何もない手のひらに取り出したのは七枚のカードだ。

 そのカードを頭の上の一瞬だけ嫌な顔をした彼女にあたるように押し付けた。


 !?


 しかし触れる直前にカード自体から発生した何らかの力でコアンは押し返されたのである。


「この拒絶反応、、、神具?宝具?いやこっちだと魔道具か、、、それも《未知の魔道具(レギック)》だったか」


 実際にこの魔道具の厄介さはコアン自身が直に体験していた。

 苦無のように振るえ、手裏剣のように投げれて、そして遁術のように光や風、炎などを纏い飛ばしたり吐き出す。終いには目に見えない罠にもなる。


 目の前の誰かのように本当に性質が悪い魔道具である。

 あの命のやり取りをした日からまだ数週間しか経っていない。つい先日の己の失態がコアンの脳裏にこびりついて離れないままなのだ。


 その時だった。


「おいっ!?」


 彼女の掛け声に反応するまでもなく体が1枚のカードを前に突き出した。


 目の前に飛んできたのは馬鹿でかい炎。


 その絶対絶命の中、炎は音もなく瞬時に消え去った。

 熱も音も余波で迸る衝撃や魔力ですら、、、


「!?」


「つまり、、、こういうこと」


 そしてその手から、いやそのカードから飛び出したのは炎の塊だ。

 炎の塊は、一直線に宙を走り、その術者へと送り返されたのだった。




 ドヤ顔のコアンo(`・ω´・+o) :エリート中のエリート!!

 誰かさんの扱いを熟知した蒼葉ヽ(´▽`)/.:流石はコアン先生!!


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