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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
2章 
152/162

4幕:動き出す者たちと始まりの宴 1

 


「あーーーおーーばーくん?」


「何してるのーかーなー?」


 いつもの猫撫で声がだんだんと近づいていた。

 可憐な少女の甘い鳴き声だ。ただし忘れてはいけない。

 これは狩人が獲物を追い詰めるために故意に放つ死の宣告なのだから。


 その確実な迫りように背筋がだんだんと強張っていく。

 つまり残された時間はない。


 まっすぐに調理場へと。

 いやそこから真っ直ぐ、その先にある裏庭の小さな簡易ブースへと。

 一歩、また一歩と。


 お店の外は緑で覆われた裏庭が広がっており、他の建屋も含めるとかなりの敷地面積である。これだけの広さは町の外れにあるからこそだろう。その十分なスペースを利用してちょっとした樹木だったり花や香草の花壇があっても狭く感じることは全くない。ただしあくまで町中の話であり、建屋が面している表通りは、実は町外れながらも人気の商店街の通りだったりする。だがそんな顔を微塵も匂わせない辺りは、このお店がとても恵まれている証拠でもあった。


 そんな裏庭中で立ち込めた香りはすでに空に解き放たれ至る所に霧散していた。5分前に調理場からこの簡易ブースへと移動したのは正解だったのかもしれない。


 ただしすでに逃げ場はない。


 香りはともかく、跡形もなく完全に撤収したというのに何処でバレたのだろうか。

 そもそもなぜこの時間、このタイミングで彼女が、ここにいるのだろうか。

 確か今日の予定では幼馴染の友人たちと買い物に出かける予定だったはずなのに。


 流石は若くしてこのお店の経営を任された才女。

 その嗅覚は並々ならぬものをお持ちらしい。


 咄嗟に嘘がバレた時のような、泥棒が見つかった時のような驚愕した顔を一瞬浮かべた青年は覚悟を決めた。


 冗談じゃない。ここでバレたら、このレシピがバレたら今度のグルメフェスに黙って出場するなんて簡単に悟られるし、最悪難癖つけられてお店のメニューに強奪されるかも、、、ど、どうする?フェスの賞金が掛かってんのに今はまだ知られちゃいけないに決まってるし。せめてその前のお祭りまではバレるワケには、、、こうなったら、、、


「さぁ私に黙って何作ってるのかなー?上司の私を無視して何をしてたのかなー?この前、転倒した際に私の胸揉んだの忘れたのかなー?私の直属の部下の、、、あーーおーーばーーくん?」


 小さな亜麻猫モチーフのピンを髪留めに透き通った亜麻色の長い髪を横に纏めた年下の少女が刻一刻と差し迫っていた。町の人たちからも愛される笑顔がとても可愛らしいサイドテールの似合う美少女だ、そんな彼女を見た人々が実は裏でこう呼んでいることに疑問を持つ者はいないだろう。


 人々を昇天させ堕落させるだけの力を持った超常の存在。


 ----堕天使と。


 彼女が時折見せる微笑は心を洗われるかのような気持ちにさせてくれるほどの力を持っていて、心を真っさらに洗練させてくれるだろう。しかしその笑みは何処となく黒く、真夜中のような闇に覆われていた。


 少なくとも青年はその微笑に隠された真の力を知っていた。

 そう、その笑みに取り憑かれたものは、最後には暗黒の世界に取り込まれてしまうのだ。


 そんな彼女がすでに後ろがない獲物にトドメを刺すために少しずつ少しずつ近づいていた。


 時間にして数分だろう。

 どこにも逃げ場はなかった。


「あーーおーーーばーーーーくん、私に黙ってることあーるよねー?」


「そーのー、れ、し、ぴ、私に今まで隠してたのかなー?来週の目玉メニューはそのレシピじゃないのかなー?」


「中日はお姉ちゃんがいないんだから新メニューの開発をお願いしてたよねー?どうなったのかーなー?試作にはそれ出してくれるんだよねー?」


「あーーーおーーーーーばーーーーーーーーーくん?」


「くっ、、、かくなる上は、、、」


 迫り来る恐怖を前に青年が取った行動、それは二人のいつもの約束事だった。


「へい、、、これはこれは次期、亜麻猫亭のご主人様。この度はどのようなご用件で?」

「うむ、、、苦しゅうない。それで例のものを受け取りに来たがいかほどに」

「ははぁ、、、ご主人にはいつもお世話になっておりますれば、、、ぜひこちらの席にどうぞ」

「ほぉーっ貴公、中々に素直ではないか?何か心に疚しいことでもあるのではないか?」

「滅相もございません、さぁこちらへ心寄りの品をご用意しておりますゆえ」

「それでどちらにあるというのだね?貴公が用意した新作というものはだね?」

「しばしお待ちを。少し時間がかかりますゆえ、こちらでお時間を下さいませ、、、ご主人」


「それにしてもご主人もこのレシピに目を付けるとは中々の悪でございますなぁ」

「ふふふふふ、、、蒼葉屋そちほどでもないわ」

「いえいえご主人様ほどではございませぬ」


「「ふふふははっはははは、、、」」」


 そして青年は少女を座席に座らせたまま、黙って逃亡を図ったのだった。


 だが、その後すぐに捕らえられ処罰を下されたのは言うまでもない。




「つまり蒼くんはこんな人物ですよぉ。それは見事なキャラの代わりようでぇ、見事に看板娘の目から新作料理を反らせようとして詰めが甘くて失敗して追いかけられてたんですぅ。その様子がホント兄妹喧嘩みたいで可笑しくてぇ。そのくらいの料理の腕は立つんで町中の出店や屋台を軒並み荒らし回っちゃったもんですからぁ、結果、色々な人に目を付けられてついた二つ名が《縄張り荒らし》って言うらしいんですよぉ」


「へぇーブルーベルに、そんな二つ名があるのかい?《縄張り荒らし》って中々いい名前じゃないか?まぁ僕ほどじゃないがね、、、ブルーベルと言えば確か先々週くらいに会った時は、ギルド前で屋台を出してかなり繁盛していたはずだが、、、」


「えぇそうね、あながち間違いでもなさそうだけど、まぁ私ほどではないけど良い二つ名ね。でもランクが低いままなのはなぜかしら?ちなみに先週くらいに私が会った時は、ギルド向かい側のお店で商いを始めるとか言ってたわね」


「本人は冒険者稼業はあんまりやる気がないんですよねぇ。それにだいたいいつも女の子(ルーリちゃん)の尻に敷かれてますしぃ冒険者に向いた性格じゃないんですよぉ、この前も新作の絵本の編集をお願いされましてぇ。それに色々と忙しいらしくて最近は中々会う機会がないんですよぉ」


「ははっは、ブルーベルらしいというか何というか。さてそろそろ時間だが、、、伺うとしようか」

「そうね。そろそろ頃合いだわ。先生のことだから、、、先に始めてるわね。では行きましょう」

「はいですぅ」







 室内の片隅のソファに大の字に体を預けた人物は三人が顔を見せると笑って感嘆した。

 心から嬉しそうな笑みを浮かべながら、、、彼女はあいあいとした声を聞かせた。


「さぁ私の可愛い弟子たちよ。久しぶりの再開に乾杯といこうじゃないかな」


 ドワーフやエルフ、様々な種族の血が混ざった一人の青年。

 エルフの純血種たる一人の女性。

 そして小柄な獣人の血を宿した少女。


 相対するのは一人の凜とした淑女だった。

 薄い桃色の長い髪を宝石付きのブローチで胸の前で纏めつつも女性特有の武器を隠すことはない。

 膨よかな谷間をそれなりに覗かせながらも清楚を失わないバランスは、流石は人生経験豊かな大人の女といったところだろうか。白い薄手のブラウスに黒のプリーツスカートとタイツにヒール、そして丸くて小さな赤いメガネ。そして艶かしさを感じる赤くうっすらとした紅で彩った唇にシミひとつない綺麗な肌を持つ大人の女性だ。凹凸がはっきりと分かる身体は同性ならば、きっと誰しもが羨ましく思うほどだろう。


 そんな彼女はうっすらと笑みを浮かべながら手持ちのグラスを僅かばかり傾けた。

 上品にも洗練された仕草だ。


「ご無沙汰しております。師匠に置かれましては益々お綺麗に」


「お世辞は良いから、いつものようにフランクに頼むよキャロ。お前たちも」


「ではお言葉に甘えて、、、」

「そうね。先生の言葉に甘えさせてもらおうかしら」

「そうですねぇ」


 真っ先に口を切り出したのは小さなケモミミを生やした獣人の美少女だった。

 毛も耳も尻尾も天に届くかのようにピシッと逆立っている。


「先生は香水、化粧の使い過ぎですぅ。鼻が曲がりそうですしぃオバさんくさいですぅ」


 ピキピキと何かが引き攣るような音がしたが気づく者はいなかった。


「よく見ると先生、荒れてるし化粧のノリが悪いみたいね。どうせ酒ばかり呑んで悪態ついて日頃から夜更かしばかりしているのかしら。肌のハリも悪そうだしきっと年ね。若作りするなら生活態度からかしらね」


 さらに何かが引き攣る音、そしてドス黒いオーラが漂い出すものの感づくものはいないらしい。

 そして最後に、唯一の男弟子が口を開いた。


「師匠、、、これだから独り身というものは生活態度というものが全くダメじゃないかと。独身は生活リズムが崩れやすいから、これだからあれほど注意して、、、」


 三者三様の勝手なセリフを前についに堪忍袋の尾が切れたようで、、、淑女の怒気は最高潮に達したらしい。淑女といえど、ここまで言われて黙っているなどできるはずもなく、師匠と弟子という垣根を越えたバトルは師匠の手痛い口撃から火蓋が切って落とされた。


「キャロ?またナンパしてフラれたんだってな?これで何人目だ?イケメンの割りに女を一人も墜とせないなんて《偉大なる探求者(グレイトシーカー)》の名が泣くぞ?」


「アイラ?全く進展がなさそうだが、ちゃんとアタックしてるのか?その美貌と大きな胸はただの飾りか?私が教えた義心術、房中術は意中の男に披露さへできてないのか?」


「ケモミ?最近、気になる男性ができたんだとか?誰だ誰だ?少し胸も大きくなっているようだし気を支えない発言は男に嫌われるぞ?」


「「「!?」」」


「それから、、、、こっちはお前らが後を継ぐ気がないから行き遅れたんだよ!!オメェら覚えてろよ!!」


 そして回避できるはずがない師弟の戦いは夜遅くまで続いたのだった。



怖いもの知らずの弟子1(゜Д゜):オバサンクサイ

怖いもの知らずの弟子2(゜Д゜):セイカツハタンシャ、トシネ

怖いもの知らずの弟子3(゜Д゜):ドクシン、ヒトリミ


師匠:怒(#^ω^)オメェら・・・・。


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