2幕:大盗賊と世界の夜明け 4
偽証した意味が完全に台無しなんですけど、、、
そんなことを思いながら目を離した一瞬の隙を奴は見逃さなかった。
「オメェ、ら覚え、てろよ、、、、、なんてな」
「?」
「油断したなマイケル?いやお前が『噂の男』なのか?それに裏切り者どもの顔も覚えたぜ、、、まぁ俺としたことがとんだ笑い話だな、なら狙いもアレか?そいつは次会う時までに預けとくぜ、その時は覚悟しろよオメェ、、、じゃぁ《夜明け》で待ってるぜ」
倒れて動けなかったはずの大男、その右腕だけが刹那に振り下ろされた。
その瞬時の出来事に把握できたことは。
腕に仕込まれた小さな刃を己の急所へと突き立て自殺を図ったこと。
そして大男がその場から綺麗さっぱり消え去ったこと。
軽い爆発に目を避けた瞬間、大男はその場から消え去ったのである。
「夜明けで待ってる?これってどういうこと?」
「人形を使われたな」
「みたいね」
「もう二人とも説明を端折り過ぎですよぉ。蒼くんはまだまだ駆け出しなんですからぁ、、、クマさんは倒れてからずっと隙を伺っていて、身代わり人形を作動させるために故意に自害したんですねぇ」
「大の男をクマさんって、、、そうそう二人とも、もっとボスを敬ってくれませんかね?ボスに聞かれたら答える。これ社会の常識だと思うんですけど?それでケモミちゃんあの人形って?それに彼は薬で意識朦朧だったけど、それも対象内ということ?」
「あれ高級品なんですよぉ。一般的な者はその場で作動ですぅ、でも高位型のは安くても相場の10倍以上はしますからねぇ。あーやって逃げ出すことも厭わないんですよぉ。それに直接ダメージ以外も身代わりする機能があったりするんですぅ。もちろんその分だけ超高級ですよぉ」
「そうだな、お頭の稼ぎじゃ買えない金額だな」
「そうね、ボスの給料だと厳しいかしら」
【可哀想に、、、】
「もう少しボスを労ってもらえませんかね?」
その通りだとすると顔を明かした分かなりまずい事態のはずだけど、、、やるせない。
でもこの三人の落ち着き用を考えると問題がないということは、たぶん想定内?
もしくはまた故意か、、、やっぱりこの3人何か情報を隠してるのは確定として、、、その狙いがわからない。しばらくはこの三人に気を許したフリして見定めるか。
それなら次にとるべき行動は、、、泳がせて跡を付ける。
いや先に人質の保護か。
でも、、、
「それで次はどう動くの?」
現状だと、この一言がいい気がする。
それに斜め上の行動をとる三人の動きなんて読めたもんじゃない。
「そんなの分かっているだろう、お頭?」
「あなたも野暮なことを聞くのね、ボス?」
「もぉー蒼くんったら全くですよぉ」
「じゃあ早速、人質の保護に、、、」
「「「宝物庫を荒らしに!!!」」」
うん。斜め上だった。
「ここが各国が領土と主張する島。そして裏世界に救う者たちが集う都市、、、」
6日後、一同は辺境の地、そして無法都市に降り立った。
物々しい気配がするのは気のせいじゃないだろう。
あちらこちらから突き刺さる視線は付かず離れず、逆に鬱陶しいほどだった。
それだけこの地が重要な地だということなのだろうか。
それとも、、、
《夜明け》で待ってるぜ。
男の声が反芻される度、考え込んでしまう。
奴の隠し宝物庫にあった『お宝』を偶然目にしたことで今後の行き先をこの地に決めざる得なかったのだ。正直な話、ギルドからの報奨金と捕縛した盗賊たちの懸賞金と他諸々のおかげで借金を返してもかなりのお釣りが見込まれるはずであり、これ以上キャロたちに付き合うことは蛇足に過ぎない。それでも今後間違いなく危険地帯に足を踏み入れることを覚悟したのには大きな理由がある。
お宝にそれほどの価値があった訳ではない。しかし問題はそのお宝に残されたモノにあったのだ。
《蒼之世界の秘宝》と呼ばれる得体の知れないモノよりも遥かに価値があるモノに、、、
そして自身の今後の運命を左右するかもしれないほどの、、、
逸る思いを胸の中に無理にでも押さえ込みながら懐に忍ばせた《お宝》を強く握りしめた。
絶対に問いたださなくてはいけない。絶対に最後まで調べなくてはいけない。
そして絶対にはっきりとさせなければいけない。
絶対にだ。絶対に。
自問自答するかのように自分に何度も言い聞かせながら頭の中を駆け巡る解決しない謎。
答えのでない問いを抱えながら突き刺さる視線を無視したまま歩き出した。
数年前、ある人物の誕生日プレゼントに贈ったはずの絵本。
なぜその絵本が、この異世界の石に記録されていたのかを。
蒼葉が新たな地を踏む1週間以上前の話。
「こっちは俺たちが何とかしとくから、、、そこの下に隠し扉がある。その先8つで外に出られるはずだから後はどうにかして乗り込めよ。8つだぞ間違えんじゃねぇぞ」
「気をつけてね」
「あぁ、、、ありがとう兄弟」
ここまで匿ってくれた二人の拳に自分の拳をトンとぶつけ合った。
それだけで全てが通じたような気がした。
「あいつらによろしくな。さっさと帰ってこいってよ」
「分かってる。ココナに会ったら伝えとくよ」
「う、うるせぇアホ!!」
「しーっ!!じゃあ僕たちは計画通りに動くからね」
「絶対に守れよ」
「あぁ絶対に俺が守る!!」
この町で生まれて初めてできた同年齢の友人たち。
彼にとって掛け替えのない宝物を置き去りにすることは、とてもとても胸が苦しいものだった。
でも今は絶対に成し遂げればいけないことがある。
だから少年は事前に聞かされた通り隠し通路を通り町の内外に既設された風車小屋の一つに辿り着いた。この隠し通路は昔、猛威を振るったシンジゲートの取引で使用され続けた名残であるらしいものの今では完全に封鎖され町の緊急時以外は使用できないことになっている。
当然、表向きの理由ではあるのだが。
ただしとある子供たちの間でだけ貴重な遊び場として利用されていることを大人たちもほとんどの子供達も知る由はない。
またそのような史実があることを知らない少年は、臆することなく右手で天井裏の扉を開け周囲を外を確認した。
どうやらこの辺りに追っ手はいないようだ。
当然だろう。
それに今頃は予定どおり町の方で騒ぎが起きている頃だろうし、少しは時間稼ぎにもなるに違いない。
「クラムくんたち大丈夫でしょうか?」
不安そうな瞳を覗かせる彼女の細い手を握りしめながら少年は時計を確認した。
もう少しでこの前を隣国行きの馬車が通るはずだ。
「クラムもストーロも絶対に大丈夫だから」
何て優しい子なのだろう。
不安が露呈する問いに若干の嫉妬と願望、そして心からの好意を抱きながらも少年は終始警戒を怠らなかった。
少しも油断できる相手じゃないないのだ。
少年は知っていた。
その者たちの凄さを。
その者たちの規格外さを。
その者たちの異常さを。
東の覇者と呼ばれる《皇国》が抱える最強の部隊。
中でも汚れ役を一手に引き受ける殺戮の覇者たち。
あの国で戦闘、諜報、暗殺に置いて彼らの右に出る者はいないだろう。
そんな彼らがラクスラスクに出没したのは今朝方だった。いやひょっとしたらすでに潜伏していたのかもしれないが、今更分かるはずもない。どうせ彼らのことだ、自分たちが居つく前よりも現地の工作員と接触し諜報に動いていたのかもしれない。
そしてそんな奴らが動く時は相場が決まっていた。
だからその事実を知る《皇国》の皇子である彼はすぐさま決意した。
この右手に添えられた温かくて小さな手を、あの《公国》の第一王女という重すぎる宿命を待つ小さな手を《皇国最強の暗殺者たち》の魔の手から守りきることを。