1幕:プロローグ 3
すみません、プロローグ3を新たに追加です。
深夜の森を何かが全力で飛翔していた。
目にも映らぬ速さとはこのことだろうか。
流線型の滑らかな肢体は風の抵抗を最小限にし、まるで空気を切り裂くかのように空を突き進み宙を駆け巡った。
その姿を捉えた者は誰一人としていなかっただろう。
風のように飛翔する様には、それだけの速さがあった。
その俊敏さの上、闇夜に溶け込む保護色も相まっては誰にも見つかることはないに違いないだろう。
そのはずだった。
どのくらい飛び続けただろうか。
この薄暗い世界の中で空を駆け巡った代償に、その体はあちらこちらに赤い染みを生じていた。すでに翼は上がらず息は猛々しい。全身が痙攣し体を起こすことはおろか身動き一つとれないようだ。
これ以上、無理をすれば生死に関わることだろう。
その生物には使命があった。
命を賭けてでもやり遂げなければならない大事な使命だ。
しかし残酷なことにその小さな体では、これ以上の行動は限界らしい。
ぽとりと何かが転げ落ちた。
どうやら咥えていた小さな嘴もついに力を失ったらしい。
やがて逃げ込んだ大樹の洞の中を淡い青色で包み込んだ。
なんと幻想的な世界だろうか。
見る者が見れば、この奇跡を前にして終始、目を心を奪われたことだろう。
しかしこの時においては、この奇跡は仇となるのかもしれない。
その生物は動かぬ小さな体で無理やり隠そうとするのだが、溢れる青い光は周囲を淡く照らし続けている。洞の中も、自分の怪我の具合も、そして自身の居場所さえも。
「おい!?こっちに行ったはずだ!!呪文を使って炙り出せ!!ちょっとやそっとじゃ死にはしねぇ!!」
誰かが叫ぶ声がした。
枝や樹木や何もかもを破壊する音がだんだんと近づいている。
爆音から轟音まで不自然な音色の群体が大きく差し迫っていた。
どうやらすぐ界隈のあちらこちらを真っ赤に染め上げているようだ。
このままでは奴らに見つかってしまうのは時間の問題だろう。
「早くしろテメェら!!大頭に見失ったなんてバレたら最悪、全員の首が飛びかねぇんだぞ!!」
その時だった。
「どうしたの君?」
傷つき倒れたその生物の前で一人の少女が心配そうに見つめていた。
ちょこんと傾けたあどけない表情を浮かべる彼女はちょんと膝まつき、その小さな体躯をそっと撫でた。
その刹那、呼吸だけは忘れていないものの表立っての反応は小さい。
べとりとする何かの感触に怪訝な疑問を浮かべながら少女は悟った。
手のひらに触れた赤い染みの生々しさを流れるがまま放置していれば、この子が朝までにどうなるのか。
「怪我してるの?もう大丈夫、、、」
少女の手から優しい光が漏れだすとその生物を優しく包み込んでいく。
真っ直ぐに見つめられた瞳を前に若干の安心を覚えたのも束の間だった。
「おい!?こっちに魔力反応があるぞっ!!」
どうやらすぐそこまで差し迫っているらしい。
「しまった。逃げなきゃ、、、」
その小さな生物を抱きかかえると少女はふと目にした青い光に目を奪われた。
淡く輝く深い青色の宝石のような石だ。
先ほどから洞の中を淡く照らしているのはどうやらこの小さな石の所為らしい。
きっとこれはこの子の大事なものなのだろう。
少女はそう確信するとその小さな手を淡く青く輝く石に手を伸ばした。
そしてそっと掴んだ瞬間、目の前全てが黒色に染まった。
そのまま彼女の意識は眠るように消失したのだった。