まじかるココナッツびたー2 『ラクスラスクの新たな町おこし2』
見知ったカップルをいの一番に拉致、、、いや協力を願い出るように仕向けてラズは一人ステージ上から見渡した。お祝い事だったということもあり公園中には煌びやかにおめかしした人で溢れかえっている。
一方、ラズのいるステージ上には、今日の主賓の二人が固唾を飲んて見守っていた。またラズが何か思いつきでやり始めたというような顔を浮かべたのは気のせいである。ちらりと視線をずらすと二人の左手の薬指にはラズが知るイケメンの名工が作った指輪が輝いており、かなりの羨望の想いが心から出掛けてしまったが、それは時間の問題だろう。繰り返すが時間の問題である。
それからラズが知るカップルを数組ほど拉致、、、いや強引に、、、いや手を引っ張ってきたのある。すでに無理やり、、いや多少強引にお願いを聞いてもらい納得済みでもある。
そしてラズのピキーンという謎の目力を合図に、すごく甘くて切ないスローテンポの曲が響き渡った。この興行を開始するには最高の序曲だった。
彼が奏でるピアノはラクスラスクにある3つあるうちの一つである。
1つは歴代の町長が住む大きな館に。そして残り二つは花街を代表する紹介の大手が所蔵しており、その後者の一つをギルド長である叔父の伝手でご厚意に甘えている。
目が飛び出るほど高級で貴重なもののため触る機会もないため当然ながら演者はなかなか見当たらない。しかし今ここにはほぼ無料でお願いを聞いてもらえる演者がいるのである。それもラズが目を掛けている冒険者のちびっこたちの保護者兼恩人であり、ラズたちだけが知る何故かかなりの実力を秘する最低ランクの冒険者。そして少しだけ年相応の病を抱えている彼女にとっては胸が焦がれるほどの存在でもある。特に15歳くらいの年齢の人間にとっては。
そんな彼が様々な曲を弾けること、その腕も素晴らしいことをラズは知っている。
だからラズが心からお願いしたのである。
【ボスお願いします!!】(ラズ)
【あぁっ!?新婚組への特性カクテルが、、、】(ブルーベル)
そしてラズが拉致したカップルたちもまたその曲に乗るように踊り出した。
新たな新郎のブラクとその伴侶たるグミ。
流石は先輩である。
不器用な彼を先輩が器用にリードしながら音に溶け込むように揺れていた。
でもそんな先輩に身を任せながらも優しく体を支えたり腕をとったりと彼の気遣いも見える。
お互いがお互いを想い合う姿は何だか穏やかで優しい気持ちにさせてくれるような、、、本当にお似合いのカップルだ。
それから隣を見れば、こちらは素晴らしいの一言に尽きるだろうか。
かつてのラズの王子さま。そしてかつてラズの恋敵でありラズの羨望を体現するもう一人の憧れの女性。その二人が素晴らしい姿を披露していた。
一挙一動の全てが絵画のような芸術品であり、目の目で異世界を垣間見た。有料でも一目見たくなるそんな感傷を得た。
このままいつまでも見ていたい私の理想の恋人たち、、、
そしてそんな二組の前では、、、、ガチガチの男の子二人が無様な醜態を晒していた。
それでも彼らを見守る人はその姿を暖かく見守ったことだろう。
この一番目立つステージ上で、率先して勇気を出してくれた小さな勇者なのだから。
弟ストーロの親友であり先輩の縁者であるクラムくん。そして先日の《海底神殿》の大事件以来、ラクスラスクギルドで保護中の男の子、黒桃くん。二人の前には金色の髪の小さな女の子と保護中の小柄な銀髪の女の子が静観していた。そんなダメダメな男の子たちを彼女たちが力強く引っ張る様は将来の夫婦像がどうなるかを暗示させているような空気を匂わせていた。
まさにダメダメである。
女の子は強いのである。
ラズもその健気な子供たちの光景を見届けると、故意に目立つように将来の伴侶の元へ向かいその温かな手を取り共に静かにステップを刻み始めた。
憧れの存在に負けないように、、、
ラズを筆頭にまた一人、また一人とカップルたちが続いていく。
すでにペア同士出来上がっていた人々だけじゃない。
新たな星々になろうと歩みを始めたものも出始めており、次第に踊り出す人たちが一組、また一組と増えていった。
やがて数曲が引き終わる頃には会場の半分以上が響く音の流れに身を任せつつあった。
それから数曲の後、心の底から血が奮い立つ激しい曲が流れ始めた時、ラズの中の何かが目覚めた。体内から沸き立つ漲る力が止まらないのである。拳に火が灯り身体は熱い炎の女神に祝福されたような、、、そして踊りながら様々な人物を無言で殴り飛ばした。その全てが勇気を出せず前を進めない軟弱者ばかりである。
心の底から、、、けっ!!この軟弱者がっ!!と叫びつつ彼らの視線を読み狙いを定め真後ろから、時には真正面から目に見えぬスピードで拳撃を撃ち放つ。もちろん加減された拳の威力は無いに等しく、ただただ突き抜ける衝撃だけが一方的に伝わりそっとその背中を押した。
そっと、、、
そっと
物理的に強制的に。
これは恋の天使である自分にしかできないことなのだ。
先に幸せを掴んだ者から掴んでいない者への心からの償いであり義務である。
そして女神様が決めたことであり仕方のないことである。
選ばれた自分にしかなし得ないことなのだ。
決して幸せのお裾分けなどという上から目線で身体が疼いた訳ではない。
ラズは真っ先に顔見知りを狙い、、、躊躇なく選択した。
恥ずかしそうにしている武具屋の親父さんを奥さんの元へ殴り飛ばし、この町を代表するイケメン細工師を遠くから見つめていた自分に負けないくらいの美人さんの元へ吹き飛ばし、逃げていこうとする同僚たちをそれぞれの伴侶、もしくは気のある異性へとぶっ飛ばした。近くにいる銀髪のイケメンを吹き飛ばし、またこの場から静かに誰かを見つめていたデザイナーの強面な乙女さんをダンディな紳士へと、、、
「「「「ぐゃあぁぁぁっぁああっ!!!!無差別ラズハラだっ!!!!!逃げろっ!!!!」」」」
それだけでは飽き足らず視線に入る冒険者やこの町の人たち、、、ほぼ全ての男どもをその鋭い細腕で餌食に変えていく。やがて知人だけでは飽き足らず観光でやってきた人たちも見ず知らずの関係ない人たちも全てがラズの、、、ラズハラの脅威にさらされていったのだった。
「「「「ぎゃあぁぁっっぁあっ!!!!!」」」」
一体何が彼女をそうさせたのだろうか。
自称《恋の天使》と自負する彼女は後に語る。
「その日のことはボス、いえダーク、じゃないブルーベルさんたちにあることをお願いしたくらいは覚えています。その後のことは、、、そうですね、全く記憶にありません。私が女神様、恋の天使だなんて、、、またまた♪お上手なんですから!!《双宴舞姫》?知らない名ですね。すみません、そろそろ仕事に戻る時間なので失礼しますね」
その未来の伴侶となるだろう年上の少年は語る。
「凄まじい動きでした。彼女は職員だけに収まる器じゃありませんよ。すぐにでも僕と一緒に冒険に出るべきだと思いました。彼女ならきっとBランク越えも夢じゃありません。正直、今の僕より強いと思います。えっ!?色々と残念じゃないかって?そんなことはありません。こ、こんな素敵な人は他にいませんので、、、もう言わせないでくださいよ」
話題の彼女に選ばれた者、あの場で知ったものは後にこう語る。
「彼女のおかげで勇気が持てました。お陰様で今は彼氏と二人で幸せにやっているんです。そうそう彼が作った新作の指輪型の魔道具凄いんですよ。オシャレだし可愛いし婚約指輪にぜひいかがでしょうか?浮気防止、二股防止、居場所の把握とか、魔術的な細工もあって私が色々とアドバイスしたんです♪これで彼は私のモノですよ」と。
「あれがラクスラスク名物で有名なあの《ラズハラ》なんですか!?まさか僕があんなにも有名な《女神の寵愛》を受けるなんて、、、あんな可愛い美少女に殴り飛ばされるなんて本当にご褒美です。それに彼女のおかげでこうして人生のパートーナーに出会えることができました。本当に感謝してもしきれません」と。
そして遠くない未来にラクスラスクはこう呼ばれることとなる。
寵愛を受けし天使が背中をそっと押してくれる町。
恋人たちが未来を紡ぐ町。
ラクスラスク《恋人たちの聖地》と。
ラズ(๑• ̀д•́ )✧ドヤッ:あの日のことは全く覚えていません!!